BLゲームのモブ(俺)は誰にも見つからないはずだった

はちのす

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DLC本編

ご都合主義

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教室をちょっと覗いて話をするだけ、と思っていたから、なんの荷物もなく校内をぶらぶら歩く。
まだこの世界に来たばかりだし、みんなの顔を見て一旦引き返す予定だったのに…


「よぉ、元気そうじゃねえか…田中ぁ?」

「皇様におかれましては、大変ご活躍のことと…「戻って来たからには、覚悟は出来てんだろうなぁ?」…ヒエッ」


しょぼしょぼ校内を歩いていた俺を目敏く発見した先生に力技で数学準備室に連れ込まれ、今。
俺は壁際に追い詰められ、あろうことか壁ドンを食らっている。

黒木は連れていかれまいと抵抗してくれていたが、先生に『課題出してねぇだろ』と脅しをくらって大人しく教室へ向かった。
ドナドナ…


「1週間くらいお休みをもぎ取ったので、遊びにきましたッ!!」

「可愛げがないな」

「いやぁ!先生に会いたくてちょっとだけ戻って来ちゃいましたぁ!なんてね!!」

「…今すぐブチ込むぞ」

「逆に何が正解なの?!」

「今更どんな解答をしても不正解だ。」

「理不尽ッ!!」


先生は完全に臍を曲げているようで、取り付く島もない。

壁についていた手をそっと俺の頬に添えてくる。
軽く伏せられた瞼と、頬に落ちる睫毛の影が、先生の気怠さと色気を引き立てていた。

ジリッと距離を詰められ、いつぞやの背筋の冷たさが蘇る。
いつの間にか制服の中に滑り込んだ手が、肌を愛撫するように胸まで滑っていた。

(ま、不味いぞ!流される…っ)

一瞬その刺激に思考が支配されかけたが、ピタッと止まった手によって現実に引き戻される。

セ、セーーーフ!!


「…はぁ、そんなんじゃ先が思いやられるな。まあいい、とりあえずコレを見ておけ。お前のクラスだ。」


先生はどこから探り当てたのか、1年の席次表を俺に手渡した。


「え、え?どういうことですか?俺、転校するって…」

「1年前になんの手続きもしてないだろうが。進級はさせられないが、除籍もしていない。特例の措置だ。改めて手続きすんなら申し出ろ」

「それよか、1年前に俺がせっかく用意した書類を蔑ろにしたんだ…後でだな」

「なんてこった」


そう言いながら、先生はドカッと椅子に座った。今はもう何もする気はないらしい。
…あっさり学校に復帰できることになってしまった。都合よすぎないかと思いはするが、先生の手にかかればこんなもんなんだろう。

(なんか不穏な言葉が聞こえたけど、気にしない気にしない。)


「本来なら、転入先にも様々な書類提出が必要なんだがな…お前が今何をしてるか、なんて余計な詮索はしない。
…だが、何もなくても頼れ、って言ったのは覚えておけよ」

「う、はい…」

「1週間って言ったな?どうすんだ、授業に出る意味ないだろ」

「そうなんですよね。どうしようかな…」

「なら俺の家に住め」

「なら、の意味がわからんし断固拒否!!!!!!」


いくら体力があっても足りない事態になりそうだし…今回もおそらくゲームクリアというタスクがある。
セーフハウスでもある我が家でゆったり過ごす時間は決して譲れない。


「わーったよ、なら1週間の体験学習として1年の教室に混ざってくればいいんじゃないか?」

「俺としては願ったり叶ったりだけど…いいの?」

「まあいいだろ、1年の空きがあるクラスの担任がちょうど俺の後輩なんだよ。しかも今は文化祭準備期間になっている。出入りはしやすいはずだ…つくづく運だけはいいな」

「文化祭!!めちゃめちゃ楽しそう」


俺が飛び跳ねるかの勢いで喜んでいると、先生は不適な笑みを浮かべ、「ま、精々頑張れよ」などと抜かした。
その時、チャイムの音が鳴り、昼の休憩時間が始まったことを告げる。

その鐘の音は、俺が次なる戦地へ進出するための合図だった。

目的地は2年の教室。

(みんな、いるかな)

少し汗ばんだ手を握り締めながら、歩き出した。
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