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DLC本編

再会、ときどきヤンデレ。

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視界が白く覆われるような眩い光が収まり、どうにか目を開けるとそこには…
キラキラと輝く写真のようなもの、“スチル”が現れていた。


「あ~!!SR特典ってスチルなのか!確かにガチャってそんなイメージあるわ!」


テーブルの上に裏返しで置かれている状態の写真を、恐る恐る手に取る。
そこにどんな情景が映し出されているのか、想像ができなかった。
今までになかった新要素だ。何が起こるかもわからない。

ゴクリ、自然と唾を飲み込む。

そっと返した写真に写っていたのは、世界を諦めたような黒い瞳。艶を失った黒髪。幾分かやつれた顔。
暗い部屋で一人膝を抱えた人物。


「く、黒木…?」


その名前を呟いた瞬間、世界がぐるんと回転し、写真に吸い込まれるような感覚。
世界が暗転した。


「お、おわぁぁぁぁあ?!」


ゴッチーーーン!!!!


「あいてて…て、なんか最近頭めっちゃ強打してる気がするぞ…ってここどこ」


ぐるぐると回っていた感覚がなくなって目を開いたが、手に触れる布の感覚しかわからず焦る。
暗くて何も見えんて。


「あのぅ~誰かいませんか、たんこぶ冷やしたいんですけどぉ」

「…ぁ」

「ヒョエッ?!人?!」


呼びかけはしたが暗すぎて誰もいないと思っていたその空間で、突如蚊の鳴くような声がした。


「だ、だれ…「田中、くん」…ッ」


声を発した何かに腕を引かれた、ような気がする。
しかもその声、その呼び方は。

腕に感じた温もりは、俺の体を強く引き寄せ、ガッチリと腕に閉じ込めた。


「…っ田中君、田中君、田中君、ゆめ…じゃない、よね」

「黒木、いたいって…っ」

「離さない」


風がどこからか入り込み、揺れた一筋の光に照らされた家具を見て気がついた。

(これ、黒木の部屋だ。)

明かりも付けずカーテンを締め切り、ただ澱んだ空気を溜め込んでいる。

俺を閉じ込めようと力強く抱きしめる黒木を、僅かな光が照らした。
その顔つきはスチルで見たまま。どこまでも疲れ切った様子だった。


「…1年、すごくすごく長かった」

「っと、ごめんて。ほら、普通に話そうぜ」


黒木は俺の頭にぐりぐりと鼻先を擦り付け、深呼吸している。
ちょっと変態くさいぞ!!


「駄目、また逃げるかもしれない。…もう外に出さない。人の目に触れさせない。ここで暮らして」


抱きしめる力を更に強めつつそんな願望を述べると、顔面中にキスの雨を降らせてくる。
え、なんかこの1年でヤバイ方向に向かっていってないか?

…俺がいない1年、なんかあったな。

子供が駄々をこねるようになっている黒木の拘束をなんとか脱し、
両手で顔をホールドしておでこにキスを落とした。

ピタッと、動きが止まる。


「黒木。俺、帰ってきたよ。なんか言うことあるでしょ!」

「…っごめん、おかえり」

「うん。ただいま!」


黒木は俺の両手に手を添え、頬擦りをする。
うへぇ、ちょっと恥ずかしいじゃんか。


「田中くん、だいすき」

「…あんがと」


***********************


「俺、田中君がここの世界に帰ってくること、なんとなく分かったんだ」

「…ゴフゥ!え、まじ?なんでよ」


明かりがついて幾分かマシになった黒木の部屋で、
糖分たっぷりのミルクコーヒーをご馳走になっていたが、その言葉で吹き出しそうになる。


「夢に見たんだ。鍵を探す君の夢だよ。」

「うへぇ、」

もしかして、転げる前に聞こえたあの声って…考えるだけで鳥肌が立った。

(ヤンデレの力は次元を超えるってか!)


「いつ帰ってきたの?さっき?」

「そ!黒木はちょっと…痩せた?」

「そうかな…そうなんだ。あまり興味がなくて。」

「興味ないって」


言いかけて黒木を改めて見つめてみた。
スチルでも気になっていた不健康極まれり、といった様子が本当に生写し状態だ。
病みが加速するからやめなさい!とプリプリ怒ってしまいたくなる。

「田中君が消えてしまって、何もかもどうでも良くなって…でも、こうして帰ってきた。本当に、夢みたい。」

そういって黒木はまた俺を抱きしめる。
一つ一つのパーツを触り、存在を確かめるように。

「なんか迷惑かけちゃったね」

「そんなんじゃない、俺の勝手だから…それよりも、一番に会いに来てくれたの、うれしい」

黒木は俺の首に顔を埋め、熱心に痕をつけていた。
肌を吸い上げる音が耳に伝わりくすぐったい。

俺はというと、この病み病み状態を作り出した原因であるため、
抵抗らしい抵抗はせず、好きなようにさせていた。

…べ、別に、絆された訳じゃないからねッ!


************************

長らくお待たせいたしました!
本日より再開いたします。詳細は近況ボードにて。
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