99 / 145
DLC本編
再会、ときどきヤンデレ。
しおりを挟む視界が白く覆われるような眩い光が収まり、どうにか目を開けるとそこには…
キラキラと輝く写真のようなもの、“スチル”が現れていた。
「あ~!!SR特典ってスチルなのか!確かにガチャってそんなイメージあるわ!」
テーブルの上に裏返しで置かれている状態の写真を、恐る恐る手に取る。
そこにどんな情景が映し出されているのか、想像ができなかった。
今までになかった新要素だ。何が起こるかもわからない。
ゴクリ、自然と唾を飲み込む。
そっと返した写真に写っていたのは、世界を諦めたような黒い瞳。艶を失った黒髪。幾分かやつれた顔。
暗い部屋で一人膝を抱えた人物。
「く、黒木…?」
その名前を呟いた瞬間、世界がぐるんと回転し、写真に吸い込まれるような感覚。
世界が暗転した。
「お、おわぁぁぁぁあ?!」
ゴッチーーーン!!!!
「あいてて…て、なんか最近頭めっちゃ強打してる気がするぞ…ってここどこ」
ぐるぐると回っていた感覚がなくなって目を開いたが、手に触れる布の感覚しかわからず焦る。
暗くて何も見えんて。
「あのぅ~誰かいませんか、たんこぶ冷やしたいんですけどぉ」
「…ぁ」
「ヒョエッ?!人?!」
呼びかけはしたが暗すぎて誰もいないと思っていたその空間で、突如蚊の鳴くような声がした。
「だ、だれ…「田中、くん」…ッ」
声を発した何かに腕を引かれた、ような気がする。
しかもその声、その呼び方は。
腕に感じた温もりは、俺の体を強く引き寄せ、ガッチリと腕に閉じ込めた。
「…っ田中君、田中君、田中君、ゆめ…じゃない、よね」
「黒木、いたいって…っ」
「離さない」
風がどこからか入り込み、揺れた一筋の光に照らされた家具を見て気がついた。
(これ、黒木の部屋だ。)
明かりも付けずカーテンを締め切り、ただ澱んだ空気を溜め込んでいる。
俺を閉じ込めようと力強く抱きしめる黒木を、僅かな光が照らした。
その顔つきはスチルで見たまま。どこまでも疲れ切った様子だった。
「…1年、すごくすごく長かった」
「っと、ごめんて。ほら、普通に話そうぜ」
黒木は俺の頭にぐりぐりと鼻先を擦り付け、深呼吸している。
ちょっと変態くさいぞ!!
「駄目、また逃げるかもしれない。…もう外に出さない。人の目に触れさせない。ここで暮らして」
抱きしめる力を更に強めつつそんな願望を述べると、顔面中にキスの雨を降らせてくる。
え、なんかこの1年でヤバイ方向に向かっていってないか?
…俺がいない1年、なんかあったな。
子供が駄々をこねるようになっている黒木の拘束をなんとか脱し、
両手で顔をホールドしておでこにキスを落とした。
ピタッと、動きが止まる。
「黒木。俺、帰ってきたよ。なんか言うことあるでしょ!」
「…っごめん、おかえり」
「うん。ただいま!」
黒木は俺の両手に手を添え、頬擦りをする。
うへぇ、ちょっと恥ずかしいじゃんか。
「田中くん、だいすき」
「…あんがと」
***********************
「俺、田中君がここの世界に帰ってくること、なんとなく分かったんだ」
「…ゴフゥ!え、まじ?なんでよ」
明かりがついて幾分かマシになった黒木の部屋で、
糖分たっぷりのミルクコーヒーをご馳走になっていたが、その言葉で吹き出しそうになる。
「夢に見たんだ。鍵を探す君の夢だよ。」
「うへぇ、」
もしかして、転げる前に聞こえたあの声って…考えるだけで鳥肌が立った。
(ヤンデレの力は次元を超えるってか!)
「いつ帰ってきたの?さっき?」
「そ!黒木はちょっと…痩せた?」
「そうかな…そうなんだ。あまり興味がなくて。」
「興味ないって」
言いかけて黒木を改めて見つめてみた。
スチルでも気になっていた不健康極まれり、といった様子が本当に生写し状態だ。
病みが加速するからやめなさい!とプリプリ怒ってしまいたくなる。
「田中君が消えてしまって、何もかもどうでも良くなって…でも、こうして帰ってきた。本当に、夢みたい。」
そういって黒木はまた俺を抱きしめる。
一つ一つのパーツを触り、存在を確かめるように。
「なんか迷惑かけちゃったね」
「そんなんじゃない、俺の勝手だから…それよりも、一番に会いに来てくれたの、うれしい」
黒木は俺の首に顔を埋め、熱心に痕をつけていた。
肌を吸い上げる音が耳に伝わりくすぐったい。
俺はというと、この病み病み状態を作り出した原因であるため、
抵抗らしい抵抗はせず、好きなようにさせていた。
…べ、別に、絆された訳じゃないからねッ!
************************
長らくお待たせいたしました!
本日より再開いたします。詳細は近況ボードにて。
47
お気に入りに追加
5,119
あなたにおすすめの小説
ゲームの悪役に転生してしまった!けどこの勇者、俺無しでは動きません!!
メシウマ
BL
大学受験に失敗した俺、仲野大地(なかのだいち)は開き直って趣味のゲームに没頭しようと意気込むが、実家の階段で足を滑らせそのまま帰らぬ人となってしまう
そして、気付くとどハマリしている大好きなゲームの中の超小物悪役に転生していた!
「何で魔王の手下で、しかも序盤で死ぬコイツなんだ!?死んで早々また死ぬ運命だなんて嫌だ!!」
前世のやり込んだこのゲームの知識を駆使して、何とか死亡ルートを避けつつ憧れの勇者ラシエルの勇姿を生で見てみたい!とやる気に満ち溢れるが……主人公の勇者が動きません!!文字通り、俺無しでは動きません!!
そんな勇者を手助けしながら物語を進めていくが、自分が関与することでことごとくストーリーが拗れていき、そしてその先に待ち受ける衝撃な事実に、俺の運命は一体どうなるーー!?
R18には※
BLゲーの悪役に転生したら予想外の展開でした。
たら
BL
はぁぁん??意味わからない。
【主人公】
前世→腐男子くん
前世は普通に平凡なオタクの腐男子。
周りには萌え系が好きと言っているが腐男子の事は墓場まで秘密にしている。
何故かめちゃくちゃハマってたBLゲームの大嫌いな悪役キャラに転生しててショック。
死んだ訳では無いのに意味わからん状態。
西園寺光輝 (さいおんじ こうき)悪役
超大金持ち西園寺財閥、西園寺家の御曹司。
我儘で俺様でありながら何でも完璧にこなす天才。
そのカリスマ性に憧れて取り巻きが沢山居る。
容姿は美しく髪は濡羽色で瞳は宝石のアメトリン。
ヒロインが攻略キャラ達と仲が良いのが気に食わなくて上手こと裏で虐めていた。
最終的には攻略キャラと攻略キャラ達に卒業パーティーで断罪されて学園を追放される。
ついでに西園寺財閥も悪事を暴かれて倒産した。
【君と僕とのLove学園】(君ラブ)
ストーリーとキャラデザ&設定が神すぎる上にボイスキャストも豪華でかなり話題になった大人気BLゲーム。
〜あらすじ〜
可愛い容姿をした超貧乏学生のヒロイン( ♂)がひょんな事から、道端で周りの人間に見て見ぬふりをされて心臓発作で蹲ってたLove学園の学園長を助けてお礼はいらないと言って立ち去った。
優しいヒロインの事が気になり勝手に調査したが、貧乏すぎて高校に行ってない事が分かり編入させるという形で恩返しをした。
そこから攻略キャラ達とラブストーリーが始まる!!
どうも、ヤンデレ乙女ゲームの攻略対象1になりました…?
スポンジケーキ
BL
顔はイケメン、性格は優しい完璧超人な男子高校生、紅葉葵(もみじ あおい)は姉におすすめされたヤンデレ乙女ゲーム「薔薇の花束に救済を」にハマる、そんな中ある帰り道、通り魔に刺されてしまう……絶望の中、目を開けるとなんと赤ん坊になっていた!?ここの世界が「薔薇の花束に救済を」の世界だと気づき、なんと自分は攻略対象1のイキシア・ウィンターだということがわかった、それから、なんだかんだあって他の攻略対象たちと関係を気づいていくが……
俺じゃなくてヒロインに救ってもらって!そんなこと言いながら、なんだかんだいって流されるチョロい系完璧超人主人公のヤンデレたちを救う物語
ーーーーーーーーーーーー
最初の方は恋愛要素はあんまりないかも……総受けからの固定になっていきます、ヤンデレ書きたい!と壊れながら書いているので誤字がひどいです、温かく見守ってください
コメントやお気に入り登録をしてくださったら励みになります!良かったらお願いします!
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
俺は薄幸の青年じゃない!勘違いしないでくれ!
bull
BL
異世界に転生した主人公。
気づいたら森で眠っていた。
……ん?俺、服着てなくね?
こんな肌白かったっけ……?
**********
「なんて可哀想なんだ!そんな美しく愛らしい見た目で裸で捨てられたのか?あぁ!可哀想に!もう大丈夫だ!これからは俺が守ってやるからな?」
………………は?
病んでる愛はゲームの世界で充分です!
書鈴 夏(ショベルカー)
BL
ヤンデレゲームが好きな平凡男子高校生、田山直也。
幼馴染の一条翔に呆れられながらも、今日もゲームに勤しんでいた。
席替えで隣になった大人しい目隠れ生徒との交流を始め、周りの生徒たちから重い愛を現実でも向けられるようになってしまう。
田山の明日はどっちだ!!
ヤンデレ大好き普通の男子高校生、田山直也がなんやかんやあってヤンデレ男子たちに執着される話です。
BL大賞参加作品です。よろしくお願いします。
11/21
本編一旦完結になります。小話ができ次第追加していきます。
悪役王子の幼少期が天使なのですが
しらはね
BL
何日にも渡る高熱で苦しめられている間に前世を思い出した主人公。前世では男子高校生をしていて、いつもの学校の帰り道に自動車が正面から向かってきたところで記憶が途切れている。記憶が戻ってからは今いる世界が前世で妹としていた乙女ゲームの世界に類似していることに気づく。一つだけ違うのは自分の名前がゲーム内になかったことだ。名前のないモブかもしれないと思ったが、自分の家は王族に次ぎ身分のある公爵家で幼馴染は第一王子である。そんな人物が描かれないことがあるのかと不思議に思っていたが・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる