94 / 145
DLC 前日譚
自覚
しおりを挟む空がまだ青い。
体を横たえたまま、することもなくボーッと空を眺めていた。
嘉賀は肺に溜まった空気を吐き出すと、空いた空間の虚しさを実感する。
「マジで居なくなってんじゃねぇよ…」
胸が焼け付くような苛立ちの感情が湧き上がり、ここにはいないアホ面に軽く蹴りを入れる。
それも空を切るだけだが。
最初は田所と名乗ったアイツ。
今でも偽名を教えられていたと知った時の衝撃は忘れられない。
これでも学内の噂は理解している。
周囲からは腫れ物を扱うような待遇を受けていたため、馬鹿正直に嘘をついてくる奴は滅多に現れなかった。
…というよりも、おそらく初だ。
田中が定期的に屋上に訪れるようになってから、
惰眠を貪る以外に”訪れたい“と思える場所になっていた。
それも今では昔以上に味気ない場所になってしまっている。
色鮮やかな記憶ができてしまった後だからこそ、色がすっかり抜けたように感じる。
「もう、会うこともねぇか。」
自分が呟いた言葉に、周りの音が吸い込まれ、何も聞こえなくなる。
授業が終わる5時を知らせるチャイム、運動部の掛け声、楽しそうな話し声。
どれも自分とは縁遠い存在だ。
(アイツに噛み跡を残した瞬間、これ以上ないほど満たされた。)
細い頸に残る、自分の歯型と、生命の証の赤。
生きているアイツの存在を丸ごと食らってやったかのようで、渇いた喉が潤った。
降らせるようなキスをした時も、アイツが恥ずかしそうに反応を返すのが面白くて、
揶揄う筈がつい本気になってしまった。
最初は“放って置けない”とか生意気な事を抜かす口を押さえ込んでやろうと思ったんだ。
だが、そのうちに、本気で欲しくなっていってしまった。
「クソッ…らしくねぇ。」
貯水槽のある場所から屋上へ飛び降りると、アイツが壊したドアが目に入る。
「本当に、居たんだよな…?」
2週間近くというあまりに短い時間を共に過ごしただけなのに、
失った時の反動が大きすぎる。
アイツを抱いた時は、無我夢中だった。
このアホ面が見られなくなって、どこか遠くで幸せになる。
そう考えただけで、煮え立つような怒りと渇きを覚えた。
「ってか、連絡先も伝えないで消えやがったな。」
とことんバカにしたような態度を取る奴だ。
そう考えていると、なぜか体の中心から温かい感情が溢れる。
「…完敗だ」
十分すぎる答えに辿り着く。
俺はアイツに惚れてたんだ、逃げられると分かって、アイツを壊しそうなほど抱く程には。
もう一度、アイツに会って腹パンして…隣に居させてやろう。
自覚するのがあまりに遅かった俺の落ち度だ。
今度こそは伝えなければ。
微風が吹き抜ける。
嘉賀は田中が残していった唯一の痕跡である、壊れたドアノブを回した。
***********
DLC 前日譚② 嘉賀 宗治
47
お気に入りに追加
5,135
あなたにおすすめの小説
普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
モブらしいので目立たないよう逃げ続けます
餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。
まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。
モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。
「アルウィン、君が好きだ」
「え、お断りします」
「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」
目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。
ざまぁ要素あるかも………しれませんね
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
風紀“副”委員長はギリギリモブです
柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。
俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。
そう、“副”だ。あくまでも“副”。
だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに!
BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる