BLゲームのモブ(俺)は誰にも見つからないはずだった

はちのす

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散々足を弄られ、先生には色んなところも弄られた俺は世界を憎みながら、先生と教室に戻っていた。


「イケメンめ…こうもモブを弄って遊びよってからに…っ!!」


「お前口調おかしくなってんぞ」


「ケッ、当事者の癖に!!!!」


俺はスレスレにスレた状態で席にどっと座った。

すると直ぐ横から刺すような視線を感じる。


(…あ、やべ…)


「…で?俺らとの昼をサボってどんな楽しいことしてたんだ?」


「申し訳ございませんでしたァァア!!!何も楽しくはなかったのでチャラにしてぇぇえ!!!」


主人はニコニコしていたが、俺には分かる。これは…めちゃくちゃ怒ってる。


「折角残り少ない時間を一緒に過ごしたいとか、そう言う気持ちで誘ったんだけどなあ…?」


「ほ、本当に、すみませ…」


「明日。」


「…へ?」


「明日1日遊んでくれんなら許す。」


「え、そんなんでいいの!!全然!!むしろぼっちだからお願いしたい!!」


「えー?何楽しそうな話ししてんの!俺も混ぜて~」


「田中君、俺も行っていい?」


クラスメイトがワサワサと集まり始め、結局4人で遊ぶことになった。


俺は突如決まった楽しみに、ウキウキが止まらない。


(最後くらい、普通の青春したいよね…!)


俺は里田以外の2人とは致してしまっている事を棚に上げて、明日の予定に想いを馳せるのだった。



*******


「秀先輩!」


俺は部活終了後、先輩にも最後の挨拶をしなければと呼び止めた。

下心で言うと、エピソード回収出来た予感もないので、もっと仲良くなっておこうとも考えてるけどね!


「ああ、田中。昼はすまなかった…足は大丈夫か?」


「ええ!元気一杯ですよ!!」


先輩はいつもより良い顔色で俺に笑いかける。

あんな短時間だったけど、ちょっとでも良くなったみたいで嬉しい。


「それにしても、田中が兄貴と…」


「え、いやいや違いますって!!別に付き合っているとかでは…」


部室には俺たち以外いないとはいえ、あまり大声で喋るのは憚れる。


「へぇ…田中ってモテるんだな。」


先輩は例の如く、不敵な笑みを浮かべながら俺を見ていた。


「なんですか!こんなモブなのにって言う顔してますよ!!!そうですけど!!!」


「…いや、理解できるな、と思っただけだ。」


「え?理解できる…??」


「接していて分かった。君には、人を惹きつける魅力がある。」


「ひぇえ…」


突然の秀先輩のデレに俺は戸惑うことしかできない。


「この間フラついた時も、何も言わずに寄り添ってくれただろう。」


「ま、まあ目の前であんな事があればそりゃ…」


「その後も安心させるよう配慮をしていた。」


「エェ…俺、褒められ慣れてないんですけどぉ…恥ずかしい…」


先輩はそっと俺の頬に触れると、少し冷たい手でゆっくりと撫でる。


「その優しさが手放せなくなりそうだ。」


目を合わせ、沁み込ませる様に囁かれた言葉に熱が上昇する。


(あ、これ…エピソードに入った。)


俺は直感的にそう感じた。

先輩の目は何かの感情が溢れ出しそうになっている。

先生や黒木や主人も、こんな目をしていた。


「秀先輩…」


「俺も君の助けになりたい、そう思うんだ。」


ひと息着くと、先輩はこう続ける。


「それと同時に、その優しさを独占したい…ともな。」


先輩は俺の腰に手を添え、一気に体を引き寄せた。


「…っ!」


「兄貴にも口説かれたんだろう?…出遅れたな。」


「いやだから、俺は…っ」


"付き合ってないです"と言おうとしたが、先輩に人差し指で口の動きを止められる。


「俺の願いは叶えなくてもいい。ただ…想いは拒否しないでくれ。」


秀先輩は俺の耳元でそう囁くと、俺の顎をクイッと持ち上げ…



ガラッ!!!!


「あ、部長!提出課題忘れてましたぁ~!!」


「「!!」」


秀先輩は慌てて俺を背後に隠し、入ってきたモブ部員に対応する。


(び、びっくりした~!!)


「じゃ、また来週よろしくお願いしますっ!」


モブ部員は元気に部室を去っていき、残されたのは俺たちの間に漂う気まずい雰囲気だけだ。


「あ~…すまない。頭を冷やしてくる。」


「え、秀先輩…足早っ!!」


脱兎の如く逃走した先輩を、50m走11秒の俺に追いかけられる筈もなく…


俺は呆然とその背を見送るしか無かった。


そこで俺はある事に気がつく。
俺、秀先輩に顎クイはされたけど、恋愛的な意味ではなんもしてない。

友情の定義がめちゃくちゃ広いこのゲームに限っては…


「あ、あれ?これ…まさか、エピソード回収出来てないんじゃ……?!」


辿り着いてしまった考えに肝を冷やし、
俺は先輩とは違う意味で大慌てで、学校を後にした。
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