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安心と信頼の秀先輩
しおりを挟む俺は首根っこを捕まれ引き摺られながら、悲しくも心の中でドナドナしていた。
(終わりだ…今日は主人達にもどやされるし、嘉賀先輩に前みたいに甘々な空気を出されるか、いじり倒される…)
贄となる覚悟をした仔羊のように震える俺に、救いの手は差し伸べられた。
「…田中か?」
「ハッ…!!!秀先輩!」
そうか、ここは旧校舎!!
しかも今日は金曜日で、先輩は美術部部長…天は俺に味方した。
「…ぁ"?皇じゃねえか。」
「嘉賀、問題は起こすなと再三注意した筈だぞ。」
「問題ィ?どこで起きてんだ。」
「主にお前の手元だ。」
秀先輩は嘉賀先輩に怯む事なく、口撃を仕掛け始めた。
つ、強い先輩…素敵!!
「秀先輩ィィ…お助け…」
俺が秀先輩に助けを求めたのが気に入らなかったのか、嘉賀先輩は乱雑に俺を引き上げる。
「え、な…っ?!」
そして、流れるように俺に口付けたのだ。
俺、秀先輩、唖然。
「…どこに問題があんだ?アァ?」
先輩はさも当然かのように、俺の頬にもキスを落とすと、秀先輩に視線だけを向ける。
「とっとと消えろ」
「…合意か?」
嘉賀先輩に睨みを効かせている秀先輩は、
俺に視線を合わせず問いかける。
田中悟、究極の2択だぞ…!!
俺に向けられた問いかけは、どちらを取っても悪い想像しか出来ない。
「ご、合意では…「合意だよなぁ?」合意ですぅ!!!」
耳の裏のあたりから、先輩のドスの効いた声が聞こえる。
ヒィィ…これ、なんていうホラーゲームですか…!!
秀先輩はそんな俺の様子を見たのか、
眉を吊り上げて嘉賀先輩に向かってニヤリと笑った。
「飼い猫は懐いていないようだな、嘉賀。」
「飼われてないデスゥ…」
「さっきから調子合わせてやってんのが分からねぇのか…とっととお家に帰れよ、坊ちゃん?」
久しぶりのこの感覚…『俺、空気』。
バチバチと音が聞こえそうな先輩達の応酬に、気が遠くなりそうだった。
「冗談はさておき…田中には美術部の手伝いを頼んでいたんだ。
放してくれるよな?」
「あ!そ、そうでしたぁーっ!!!」
俺は秀先輩の機転に助けられ、弛んだ嘉賀先輩の拘束から必死で逃れる。
「嘉賀先輩、またね!!!」
秀先輩の手を取ると、爆速で美術室に向かった。
「…はぁっ、はあ…助けていただいて、ありがとうございます…」
(秀先輩、助けて欲しい時に助けてくれる…正に痒いところに手が届くサービスって感じだな。)
「礼はいい。
しかし、嘉賀に目を付けられるとは…何やったんだ?」
「ん?!な、ナニモシテナイヨ…」
ちょっと偽名教えたり、ちょぉぉっと昼寝の邪魔をしただけ…かな!!
「あのキスは、」
「はい?」
「嘉賀との関係は、恋愛関係なのか?」
先輩のどストレートな質問が投げかけられる。
逃げられないような、真っ直ぐな視線に、
それ相応の誠実さで答えることを強要されているかのように感じた。
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