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幸せとは
しおりを挟む俺と黒木は結局行く先もなく、ゆっくりと帰り道を歩いている。
ここら辺には目ぼしい施設もなく、どこに行くにも時間が足りないな、となったわけだ。
そうなってしまうと、後は2択しかない。
「田中君、どうする?俺の家にするか、それとも公園で時間潰すとか?」
公園、それは俺にとっては冷や汗が出るワードだ。
特に、自販機…とかな。
「いや…公園はいいや。
何もしないって約束してくれるなら、黒木の家行く。」
「……………」
「めっちゃダンマリじゃん…!」
「…前も言ったかもしれないけど、俺は田中君のことが好きなんだ。
確実じゃない約束はできない。」
「誠実な強情さ…ッ!!
あ、じゃあ折衷案だ!俺の家でどう?」
「田中君の家…良いの?ご両親は?」
「俺も一人暮らしなんだよね!
だから都合とか気にしなくて良いよ。」
「そうなんだ。」
黒木は納得したように頷くと、俺の半歩後ろに下がった。
「ついてくよ。」
再び黒木の家に飛び込むよりはまだ良い方だろう。
そう結論付けて、黒木を連れ帰り道を歩く。
「…なんで急に転校することになったか、聞いて良い?」
「あ~、事情は話せないんだけど、どうしようも無いんだ。
あ、黒木を避けてるわけじゃないよ?」
さっきも黒木は自分のせいかと気にしてたしな…!!
全然それよりも重度な奴らがいると教えてあげたい位だ。
近くまで来ていたので、家までは直ぐだった。
いつもは1人で歩くから、道のりが長いように感じてたけど…誰かと話してるとあっという間だ。
(これぞ青春…っ!!)
青春の味を噛み締めながら、ドアの鍵を開けて黒木を招き入れる。
「何もない所ですがーッ!!」
「お邪魔します。」
黒木はキッチリ靴を揃えてから、いそいそと部屋に上がってくる。
「綺麗だね。」
「そうけ?物が少ないからかもね。」
だって、暮らし始めて2週間も経ってないからね!!!
それに、いつか帰ると思えば、私物を買うっていう発想はなかった。
「さてと、何飲む?
…とは聞いてみたけど緑茶しかない。」
「ふふ、じゃあ緑茶で…」
黒木は部屋の中を物色することもなく、
ただ静かに俺がお茶を入れる所を見ていた。
「あんま見られるとやりづらいんだけどぉおお!!!」
視線に耐えかねた俺が、身をクネクネと捩りながら黒木にツッコミを入れる。
「…田中君、どうしても話せないなら強制はしない。」
「はぇ」
あ、さっきの話のこと考えてたのか。
俺は黒木にお茶を差し出した…が、
その手を素早く掴まれる。
その瞬間、黒木に掴まれて出来たあの小さな鬱血痕を思い出す。
ブワッと汗が滲み出たような感覚になる。
「く、黒木さぁん…??」
「俺もついてく。」
「…へ?」
「だから、田中君の行くところ。どこへでも。」
「ちょいちょい待って!!え、着いてくるって、引っ越すってこと?」
「そう。俺、高校なんてどこだって良い。
あの学校も親に言われて入っただけだし、田中君がいないなら行く意味ない。」
オオオ…そういうタイプなのね黒木!!
「着いていくだけなら…いいでしょ?」
「いやいや!良くないからね?!黒木の生活もあるし、ホラ親御さんも…」
黒木は突然、掴んでいた手を離すと、指を組み合わせるようにして握ってきた。
(こ、恋人繋ぎぃ…!!)
「俺が着いていくと、迷惑?」
必死に説得しようとする俺をどう思ったのか。
黒木はちょっとだけ小首を傾げ、切なそうな表情をする。
「め、迷惑ではないけど…っ!!」
「田中君が嫌なことはしたくない。
…この前も言ったっけ。」
黒木は俺と繋いだ手を幸せそうに見ながらはにかんだ。
その表情を見た瞬間。
「…俺さ、もうこの世界には居られないんだ。」
気付いたら、口からこぼれ落ちるように真実を話してしまっていた。
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