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里田のおねだり
しおりを挟む「おはよう皆の者~」
「おっはよー!」
「はよ」
「田中君、怪我の調子どう?」
「あ、大分いいよ。あと数日すればアザも消える。」
「そっか。よかったね。」
黒木は相変わらず暗い瞳でにこりと微笑んだ。
「消えなかったら、あの先輩を始末しないといけないところだった。」
笑顔で続けられた言葉にドン引くしかない。
…根はいい奴なんだけど、発想が物騒なんだよな。
「そんな必要ないし、やったら怒るぞ。
…あ、里田!今日一緒に帰らね?」
黒木を説教しつつ、自分の席で大人しくプリントをやっている里田を見つけた。
そういえば部活見学に付き合ってもらった日以来一緒に帰っていなかったな。
「あ、俺今日部活だわ。ごめん」
「いいよ。課題やって待ってるわ」
「…え?」
四方から"え?"と言われた。
「な、なんだよ。」
「いや、田中が待つっていうの珍しいと思っただけだ。」
「…何かあったの?」
「いや、お前らの中で俺ってどう言う存在なわけ??」
俺が主人たちとやいのやいの騒いでいると、
里田は突然ソワソワし始め、俺をしきりにチラッと見る。
え、何?
「じゃあさ、部活…見にこない?」
「里田ァ!パス!」
放課後、俺は体育館にいた。
里田の勧めの通り、バスケ部の練習を見に来ている。
チーム戦を行なっているようで、試合さながらの迫力があった。
「おお…すげぇ…っ!!!」
里田はバスケ部内でも背丈で頭一つ飛び出ており、実力もあるようだった。
体育の時間も休みがちだった俺は詳しくないけど、見てて楽しい…っ!
「あっ!」
里田がシュートを決める。
(うわぁぁあ…何あれ…めちゃくちゃ輝いてる!)
この舞台で、里田は一際眩い光を放っていた。
程なくして終了の合図が鳴り、各自ストレッチをして部活終了。
里田は念入りにストレッチを行うと、一目散にこちらに駆け寄ってきた。
俺はそれを全力で迎える。
全身全霊だ!!
「ぅおおおおおいっ!里田ァ!!」
「どうだった?!俺、カッコよかったでしょ!!」
「かっこいい!!格好良すぎるだろあんなの!!!」
「だよね!俺もそう思う!!」
「寝言は寝て言え!!」
あまりの自信に、突っ込みたくなってしまった俺は、掌を返し軽く肘で小突く。
「いてっ、さっきと言ってること違くない?!でもでも…さっきのも本気でしょ?」
「え?うん…運動できるのカッコいいよな。」
「うんうん!そうでしょ!!」
う、嬉しそうで何より…?
俺たちは、着替えも含め教室に置いていたので取りに帰る。
余程褒められたのが嬉しかったのか、里田は道中ルンルンと廊下をスキップしている。
(デカい図体でやるとなんだか妙だな…)
幼い子供を見ているようで、ちょっと笑える。
無邪気な里田の姿に癒されながら、教室まで足早に移動する。
いや、決して足の長い里田のスキップに俺が競歩でついて行ってるとか、そんなんじゃないからな。
教室に到着するとやはりもぬけの殻で、残されているのは俺たちの荷物だけだった。
「はー!!汗かいたな~」
里田はそう言って、教室に到着するなり、ジャージとインナーを丸ごと脱ぎ捨てた。
筋肉質な胸筋や、腹筋まで余すことなく夕焼けに照らされる。
王子と銘打たれた美しい顔立ちが、滴る汗で彩られていた。
…ん?
「って、おいおいおいおいおい!!俺、いるから!!」
「ん?知ってるよ?」
「え、あ、もはや空気なのね、俺!
わかったよぉぉ!!もうそっぽ向いてるわ!!」
俺は勢いよく近くの壁に張り付いて、里田を視界から消す。
いやぁ、さすが里田。
見られることに何の抵抗も感じないのか。
(あいつ、野生の動物か何かなのかもしれない。)
早く着替え終わらんかな~なんて呑気に考え始めた時、近くにある気配に気付いた。
「あ、着替えおわっ…」
「違うよ、田中。」
「…っ?!」
体を向き直すと、そこには未だ服を着ないまま汗で輪郭を滲ませた里田が立っていた。
what…⁈
「空気じゃない。俺を意識して欲しくて、わざとやってるの。」
意地の悪そうな笑みを浮かべると、
そのまま俺の退路を腕で絶った。
(ま、また壁ドン…?!)
俺は驚きすぎて思考が停止し、至近距離にある里田の顔をマジマジと見てしまう。
顔立ちの繊細な美しさと、相反する野生的な身体のアンバランスさにくらくらする。
滴る汗にさえ、危うげな色気を感じた。
「ねぇ、俺頑張ったよね?」
「だ、大活躍だった…とは思う。」
「じゃあさ、ご褒美ちょーだい?」
(え、上裸で何言ってんだろう、こいつ…)
突拍子もないおねだりに面食らった俺は、
逃げ出すのが遅れてしまった。
突然上裸で友人に壁ドンする奴の言うことなんて、碌でもないに決まっているのに。
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