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微風

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ふわり


風に頬を撫でられ、意識が浮上する。
そう、そよかぜと言ってもいい風でも、俺は起きれる男なんだ!!

状況確認のために目を開けると、
何故か至近距離でこちらをガン見していた黒い瞳と目が合う。


「ひぇっ?!」


「うるせぇ」


「ハッ!先輩か…おはようございます?」


周りはもう暗いけどね。


「先輩起きてたんですか。なら起こしてくれれば良かったのに…」


何時ぞやの時と同様、俺をガッチリホールドしている嘉賀先輩はバツが悪そうに視線を逸らした。


「…首、やりすぎた」


「え?首…?あ、噛んだ奴ですか。」


あの後色んなやつに散々な目に遭わされたけど、嘉賀先輩には直接的な恨みはそんなにない。

あるにはあるけどな!!!!


「良いですよ、そんな痛くないし。」


そう答えると、嘉賀先輩は俺の首元に口を寄せる。

え?なにしてるん…?


チュッ


「…は?」


「まあ、謝罪だ。」


「え、そんなことあります??」


俺としたことがっ、思わず真面目にツッコミしてしまったァァアア!!

自分の付けた傷を申し訳なく思って、との行動には思えなさすぎた。


(嘉賀先輩って本当に何考えてるか分からない…)


先輩はのそりと起き上がると、帰る、と宣った。

え、用はこれだけ?!


「え?もう帰るんですか?」


「なんだ、帰りたくねぇのか」


「いやいやいや、そうは言ってないですけど…っ!」


「何が違うんだよ。」


先輩は不貞腐れた様に、さっさと梯子を降りてしまう。

え、何の展開もない感じか?
それはそれで俺は困るんだよな…。

万が一にも、という可能性を考えて、皆とは仲良くなっておきたいのに…っ!!!

俺は慌てて先輩を追いかけると、
ドアの前で先輩の腕を取った。


「いつも寝てばっかりなので…少しお話ししていきませんか?」


「…ったく」


先輩は近くの壁際に移動し、ドッサリと座り込んだ。

ゲーム制作者の意図とは異なるかも知れないけど、こういう親交も深めたかったから、先輩の譲歩が嬉しい。

俺も隣に座ると、折角だしと、気になっていたことを根掘り葉掘り聞き始める。


「先輩は何で屋上にいつも居るんですか?」


「…いつも居るわけじゃねぇよ。眠い時だけだ。」


「へぇ!じゃあ授業とかはきちんと受けてるんですね!」


「日中は眠くなる」


「…ってことは、屋上にいるんですね…」


嘉賀先輩の卒業要件が心配だ…


「先輩、ご飯食べてるんですか?」


「起きてる時はな。」


「なんかもう、本当に先輩のこと心配です…」


先輩、起きてる時間少なさすぎて何も食べてないんじゃないのか…?!

でもこの筋肉だし、食べてはいるのか?

俺は先輩が着崩している制服から見える、タンクトップのシルエットを見る。

服の上からでも分かるほど、バキバキに割れた腹筋や、背中にも膨らんだ僧帽筋が見える。


「心配…?」


先輩は俺の目線など全く気にしておらず、俺の発言が引っかかっているみたいだ。


「そうですよ、先輩ご飯とか食べないで身体壊したらどうするんですか!喧嘩できませんよ?!」


「それは困る」


「でしょ?!いや、どちらもあまりお勧めしないけど!!」


この発言の後、先輩は暫く無言を貫いていた。

俺は"そんなに喧嘩出来なくなることが嫌なのか…?"と戦慄していた。

先輩は風でサラサラと揺れる銀髪はそのままに、俺に向き直った。


「なんでテメェは俺を避けない」


「へ?」


「俺と関わろうとするのは、何でだ。」

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