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クラスメイトと俺

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「主人ぉ~!!」


「お、田中。おはよ」


主人は昨日のあの戸惑いを感じさせない、爽やかな笑顔でこちらに笑いかけた。

なんか吹っ切れたのか?


「はよはよ!主人、今日一緒に帰るって約束、忘れてないよな?」


「いいのか?昨日あんな面倒臭いこと言ったのに…」


「だから~っ!!ダチの間にエンリョはいらないんだよ!!また何か悩んだらすぐ話せよな!」


肘で主人の腕を軽く小突く。

改めて見ると、どこをどう見ても、1人の人間だった。息もしているし…。
ふと気になって、手を握ってみると温かい人間の体温を感じた。

黒木の病みゾーンから救出された時も、感じたはずの熱。

あの時はなんで感じられなかったんだろう。


(今までは心を通わせているようで、表面上しか付き合えてなかったんだなあ…)


引きこもりだった俺にとっては人付き合いなんて久しぶりだけど、もう何も怖くなかった。

今やどんな曲者でも、きちんと向き合える自信がある。


「…田中?どうした?」


「あ、ごめん…主人って生きてるなって思って。」


「は?急になんだよ。」


「いや、こっちの話!!」


主人は"当たり前すぎて怖いわ…"と言いながら俺の手を握り直して引っ張った。

その顔には、もういつもの調子が戻っていた。


「黒木達に取られる前に席まで連行するから。」


いつもの分かりづらい真顔のまま、主人は手を繋いだまま、俺を席まで誘導する。

なんかエスコートっぽくて落ち着かない。
でもここで振り解くと、後でネチネチと真顔で嫌味を言われそうだからな!!!!


しかし、野生の勘の鋭い里田を撒けるわけもなく、繋いだ手が見つかってしまう。


「あー!!!田中っなんで主人と手繋いでんの!」


「…おはよう」


黒木はいつも暗い目を4割り増しに暗くしながら、挨拶してきた。


主人は2人に顔を向けると、ベッと舌を出した。


「お前らにはやんねーよ」


「えっ!なになに、主人どうしたの?!宣戦布告?」


「田中君…なんで主人君なの?」


「え、ええ~…どうもこうも無いんですけど…」


勝手に手を繋がれており連行されてます。としか答えようがない…


「俺は素直になるって決めたからな」


主人の謎の宣言により、クラスは混沌と化した。
と言うよりも、俺の周りがザワついた。


「何それ!俺だってめちゃくちゃ素直なんだけどぉ!田中、俺とも手繋いで!!」


「やっぱり既成事実を作らないと…」


口々に好き勝手な発言をするクラスメイトを見て、現実では経験したことのなかったリアルな"青春"を感じた。


(なぁんだ、俺もコイツらも何も変わらないじゃん)


一人で勝手に罪悪感感じて、バカみたいだ。

ただ俺は俺として、皆に嘘偽りない心でぶつかって行くだけだ。


「うぉら!!!!物理でぶつかるぜーーーっ!!!!」


「ぎゃっ!」

「あぶねーよ!!」

「ビックリした…」


俺は嘘偽りない心(物理)で、皆に体当たりしながら、決心した。

例えあと数日で帰ることになっても、
ここでアホらしく騒いだ愛しい経験はなくならない。

ここで過ごせるのはあと数日。


(絶ッッッ対、皆と仲良くなって帰ってやる!!!!そう、目指すはやっぱりコンプリートだ!!!!)




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