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過労体質
しおりを挟む俺は担任にグシャグシャにされた髪をコッソリ直しながら美術室に向かっていた。
「秀先輩!」
「田中?…ああ、今日が初の部活だな。」
「はいっ!」
先輩は嬉しそうにはしているが、
何処となく疲れた様子だった。
心なしか、顔色も青白い気がする。
「先輩、もしかして疲れてます?」
「いや、問題ない。少し寝不足なだけだ。」
「寝不足…?」
先輩はそこで会話を切ると、部室に入って行ってしまった。
…前と比べると会話もフワフワなんだけど、大丈夫なのか?
「今日は新入部員が来ている。田中、挨拶。」
「(なぁんとなく偉そうなのは仕様かな…)
田中悟です!よろしくお願いします!!」
「まあ、とりあえず元気な奴だ。先輩部員、今度歓迎会でも企画してくれ。
では、今日の活動を始める。」
(うわ!めちゃくちゃあっさり!!)
驚きの淡白さで俺の紹介が終了した。
時間にすると3分程度じゃないか?
まあ、新入部員なんてこんなもんか…?
「今日は引き続きコンテストに出す作品を進めてくれ。…田中、備品室を案内する。」
先輩に連れられて備品室に入ると、この前は気が付かなかったが、小物が保管されている棚があった。
天井までも背丈がありそうな、同じデザインの棚がいくつも並んでいる。
先輩は棚を指差しながらこちらを振り返った。
「デッサン用の小物はここに保管されてる。次からは各自取り出すことになるから、覚えておけ。」
先輩は近くにあった梯子を立てると、
上の段に入っていた箱を取り出す。
…正しくは、取り出そうとした。
先輩は数段梯子を登った時点で、フラリと揺れ、梯子から足を踏み外してしまった。
「え?!先輩ッ危ない!!」
倒れ込んできた先輩を、両手でがっしりと受け止め支える。
受け止められた先輩は居心地が悪そうに、顔を背けた。
(寝不足って、こんな状態になる程寝てないのか…?)
「…すまない。手を煩わせた。」
「先輩、悪いことは言いません…今日は帰って休んでください。」
「駄目だ。今日は部員達の作品の総仕上げの日なんだ。部長の俺が帰るわけにはいかない。」
さっさと俺の腕を押し除け、部屋から出ようとするので、少し意地悪してみる。
グッと腕に力を込め、先輩のか弱い抵抗を抑え込む。
「…おい、田中。」
「部活に戻るんですか?…こ~んな華奢な俺の腕も外せないのに、ですか?」
「…」
そういうと、先輩は嫌そうな顔をしながら、俺の腕に収まっていた。
口では何とでも言えるが、やはり動けないらしい。
…本当に調子が悪いんだな。
「…分かりました。部活動は続けましょう。
腕を離す交換条件として、部活が終わり次第、仮眠を取ってから帰ってください。」
「…分かった。」
あっさりと先輩が頷く。
ふ~ん、でも俺は騙されないぞ!
過労体質の奴って、絶対言うこと聞かないからな!
俺はドヤ顔をしながら追加条件を出す。
「俺がアラーム兼監視として一緒に残ります。」
「…は?」
ポカン、先輩の今の表情を音で表すなら、まさにそれだった。
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