所詮、狗。

はちのす

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消息不明

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場所は執務室。
向かい合う男は、食後の紅茶を優雅に啜っていた。

「さて、君にはこの案件から助手として活動してもらう」

そう言って手渡されたのは、行方不明者のポスター、そして事件現場と思しき写真が複数枚。
何故ひと目で事件現場と分かったかというと、馴染みのあるバリケードテープが随所に映り込んでいたからだ。

その中心には、息絶えているであろう……人間の身体。

「…おいおい、何でこんなものが探偵に流れてくるんだ。どう見ても人死にだろ、なんでこんな写真を持ってる」

一にも二にも警察沙汰のはずの、人間のご遺体が写り込んでいるんだ。

もし寝惚けた野郎が管轄だとしても、保全された現場の写真を持ってきて『これは探偵の仕事です』などとは寝言でも言うまい。

それこそ俺と同じ末路を辿ることになるだろう。

「あぁ、現場写真を所有していることが気になるのかな。それ、ライターが撮ったものなんだよ…垂れ込みがあったんだ」

「タレコミぃ?何でだよ、不当な裁判でも起こされたのか」

白王は指を軽く揺らして俺を諌めると、僅かに口角を下げた。

「惜しいな、その現場に事件性がないと判断されたと言うのが正しい表現だ」

その言葉を受け、俺は思わず手元の写真を二度見した。

パッと見ではあるが、確かにご遺体は綺麗なものだ。
だが、それだけでは何も判断は出来ない。

「まあ、写真見ただけではなんとも言えねぇが……その判断に不信感を抱いた人間の依頼ってことか」

「まあ、そう言う事だ。そこに映る青年とは顔を知った仲だったから、私に依頼が回って来たんだよ」

(知り合い…にしては落ち着いてるな)

白王の表情は感情を読み解きにくい、複雑な色をしていた。

(そうだ、昨日から思っていたが、白王の心は読みにくい。)

俺は、昔から人の仕草や表情、言葉選び……その類いに対しての嗅覚が鋭く、捜査や取り調べに当たったら確実な成果を上げる事に定評があった。

そこに、自負もある。

(それなのに、何なんだコイツは…昨日から、表情や仕草に意思が乗っていない)

やっと感情らしい感情を見せたのは今朝のあの一幕だけ。

(薄気味悪ぃ奴だな)

「……もしかしてアンタ、こんな案件ばっかり受けてんのか」

「そうだとしたら、私はこの道一本で生きているだろう」

白王は肩を竦めて、ある一点を指差した。
細く美しい指先が指し示すのは、写真とは別の資料…行方不明者のポスターだ。

「このポスター、これはつい最近貼り出されていたもの…そしてこの遺体が見つかったのは2年前だ」

「…なんで発見時期とズレがあるんだ」

「良い質問だ。その青年は消息を絶った後、直ぐに遺体で発見された。だが、今でも目撃情報があり、依頼者はその情報を頼みの綱にしているんだ…あぁ、依頼者は彼の婚約者だ」

「へぇ、なるほどな…」

「さて、ここでウダウダと言葉を並べても仕方がない。調査…聞き込みと行こうか」

調査、聞き込み…
その言葉に血が湧くのを感じた。

不本意な形で自分の為すべき事を遂行出来なくなってしまった。

その経緯は完全な自業自得なのだが…頭の隅で、"まだ自分には使命があるのでは"と思っていたのだ。

視界が冴え渡り、口の端がひとりでに歪んでいく。
目があった白王の少し驚いたような表情が、鮮明に映る。

「ああ、任せろよ…俺の得意分野だ」




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