所詮、狗。

はちのす

文字の大きさ
上 下
2 / 22

白王 傑

しおりを挟む


「良く燃えているな」

「…は?」

「そのボロ…いや、木造建築の不動産屋から延焼の恐れがあると連絡が来たが…これは見事な全焼だな。貴方は其処の住人か?」

突然、背後から声をかけられた。

(火事になってる家を見て"良く燃えてる"…?)

なんだなんだ、火に集まるヤバい奴ってやつか?

振り向いてみると、そこにいたのはこの廃れた土地に場違いなほど美しい人間だった。

柔らかなブロンドヘアーを、ショートカットに切り揃え、ヘーゼル色の瞳を厳しく光らせている。

スリーピースのスーツを着込んだ彼は、どこかの英国紳士のようだった。

流暢な日本語を喋っていることから、日本に住んでいるのだろうとは思うが…

あまり見ない色を纏っているので何処か現実離れしている。

「あ、あぁ…そうですけど」

「そうか。では、たった今家を失ったわけだ」

「は?…なんなんだよさっきから。野次馬かなんかか?性質悪ぃ真似は止めろ」

本当に不謹慎で失礼だな、この男。

帰る家を失ったという焦燥感と、目の前の人間への不快感でそう吐き捨てる。

目の前の金髪はふぅ、と息を吐いて何処かへ電話をかけ始めた。

なんだコイツ、話しかけてきたと思ったら今度は無視かよ。

「…あぁ。そうか、ありがとう。手配しておいてくれ」

見ず知らずの男に振り回されている現状に嫌気がさし、地面に視線を落とした。

とその時、ガガッ!っと地面を揺らすような音が響いて、火災現場に視線をやる。

炎に包まれ、轟々と音を立てながら崩れ落ちる俺の部屋。

(良く燃えてる、かぁ…確かにな。)

「はは、どうすっかなぁ」

俺は目の前の惨状を見て、今日の宿、明日の食事、これからの人生を憂うことしか出来ない。

「あぁ、警備会社に電話入れるか…あ。そうか家焼けてんだった。固定電話使えねぇな」

「君」

「あぁ、もう…全部どうでも良くなってきたな。今日はそこら辺の公園で寝るか」

「君、そこの青年」

「…んだよ、俺のことかよ」

「あぁ、大家に聞いた。君は家賃を遅滞させていたようだね」

その言葉を聞いた瞬間、俺は雷に打たれたようなショックを受けた。

「一回しか遅滞させた事はねぇ!それにっ、その一回も昨日振り込み忘れただけ…って、なんでアンタがそれを知ってるんだ」

俺が目を白黒させているのを愉しむかのように、彼は緩りと目を綻ばせた。

「たった今、私があの物件に関わる権利関係を丸っと購入したからだ。よって、私へ情報開示がなされただけ」

俺に向かって手を差し出すと、一定のトーンで俺に語りかけてくる。

「…さて、黒谷君。金がないなら、私のいぬにならないか」

「…は?」

(コイツ今なんて言った?)

聞き間違いでなければ…イヌ?犬だって?

「その様子だと、家も財産も無くしたんだろう。なら、私が衣食住全てを保障しよう……私の元で、働かないか?」

「アンタの元?それはどういう……」

「私は白王 傑しらお   すぐる。白王探偵社を看板に掲げる探偵だ」

夜の光を反射する月ような、ひっそりとした美しさが、彼の誘いを至極魅力的にさせていた。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

賢者となって逆行したら「稀代のたらし」だと言われるようになりました。

かるぼん
BL
******************** ヴィンセント・ウィンバークの最悪の人生はやはり最悪の形で終わりを迎えた。 監禁され、牢獄の中で誰にも看取られず、ひとり悲しくこの生を終える。 もう一度、やり直せたなら… そう思いながら遠のく意識に身をゆだね…… 気が付くと「最悪」の始まりだった子ども時代に逆行していた。 逆行したヴィンセントは今回こそ、後悔のない人生を送ることを固く決意し二度目となる新たな人生を歩み始めた。 自分の最悪だった人生を回収していく過程で、逆行前には得られなかった多くの大事な人と出会う。 孤独だったヴィンセントにとって、とても貴重でありがたい存在。 しかし彼らは口をそろえてこう言うのだ 「君は稀代のたらしだね。」 ほのかにBLが漂う、逆行やり直し系ファンタジー! よろしくお願い致します!! ********************

巻き込まれ異世界転移者(俺)は、村人Aなので探さないで下さい。

はちのす
BL
異世界転移に巻き込まれた憐れな俺。 騎士団や勇者に見つからないよう、村人Aとしてスローライフを謳歌してやるんだからな!! *********** 異世界からの転移者を血眼になって探す人達と、ヒラリヒラリと躱す村人A(俺)の日常。 イケメン(複数)×平凡? 全年齢対象、すごく健全

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

高嶺の花宮君

しづ未
BL
幼馴染のイケメンが昔から自分に構ってくる話。

俺のまったり生活はどこへ?

グランラババー
BL
   異世界に転生したリューイは、前世での死因を鑑みて、今世は若いうちだけ頑張って仕事をして、不労所得獲得を目指し、20代後半からはのんびり、まったり生活することにする。  しかし、次代の王となる第一王子に気に入られたり、伝説のドラゴンを倒したりと、今世も仕事からは逃れられそうにない。    さて、リューイは無事に不労所得獲得と、のんびり、まったり生活を実現できるのか? 「俺と第一王子との婚約なんて聞いてない!!」   BLではありますが、軽い恋愛要素があるぐらいで、R18には至りません。  以前は別の名前で投稿してたのですが、小説の内容がどうしても題名に沿わなくなってしまったため、題名を変更しました。    題名変更に伴い、小説の内容を少しずつ変更していきます。  小説の修正が終わりましたら、新章を投稿していきたいと思っています。

ひとりぼっちの180日

あこ
BL
付き合いだしたのは高校の時。 何かと不便な場所にあった、全寮制男子高校時代だ。 篠原茜は、その学園の想像を遥かに超えた風習に驚いたものの、順調な滑り出しで学園生活を始めた。 二年目からは学園生活を楽しみ始め、その矢先、田村ツトムから猛アピールを受け始める。 いつの間にか絆されて、二年次夏休みを前に二人は付き合い始めた。 ▷ よくある?王道全寮制男子校を卒業したキャラクターばっかり。 ▷ 綺麗系な受けは学園時代保健室の天使なんて言われてた。 ▷ 攻めはスポーツマン。 ▶︎ タグがネタバレ状態かもしれません。 ▶︎ 作品や章タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

台風の目はどこだ

あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。 政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。 そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。 ✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台 ✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました) ✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様 ✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様 ✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様 ✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様 ✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。 ✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)

処理中です...