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白王 傑
しおりを挟む「良く燃えているな」
「…は?」
「そのボロ…いや、木造建築の不動産屋から延焼の恐れがあると連絡が来たが…これは見事な全焼だな。貴方は其処の住人か?」
突然、背後から声をかけられた。
(火事になってる家を見て"良く燃えてる"…?)
なんだなんだ、火に集まるヤバい奴ってやつか?
振り向いてみると、そこにいたのはこの廃れた土地に場違いなほど美しい人間だった。
柔らかなブロンドヘアーを、ショートカットに切り揃え、ヘーゼル色の瞳を厳しく光らせている。
スリーピースのスーツを着込んだ彼は、どこかの英国紳士のようだった。
流暢な日本語を喋っていることから、日本に住んでいるのだろうとは思うが…
あまり見ない色を纏っているので何処か現実離れしている。
「あ、あぁ…そうですけど」
「そうか。では、たった今家を失ったわけだ」
「は?…なんなんだよさっきから。野次馬かなんかか?性質悪ぃ真似は止めろ」
本当に不謹慎で失礼だな、この男。
帰る家を失ったという焦燥感と、目の前の人間への不快感でそう吐き捨てる。
目の前の金髪はふぅ、と息を吐いて何処かへ電話をかけ始めた。
なんだコイツ、話しかけてきたと思ったら今度は無視かよ。
「…あぁ。そうか、ありがとう。手配しておいてくれ」
見ず知らずの男に振り回されている現状に嫌気がさし、地面に視線を落とした。
とその時、ガガッ!っと地面を揺らすような音が響いて、火災現場に視線をやる。
炎に包まれ、轟々と音を立てながら崩れ落ちる俺の部屋。
(良く燃えてる、かぁ…確かにな。)
「はは、どうすっかなぁ」
俺は目の前の惨状を見て、今日の宿、明日の食事、これからの人生を憂うことしか出来ない。
「あぁ、警備会社に電話入れるか…あ。そうか家焼けてんだった。固定電話使えねぇな」
「君」
「あぁ、もう…全部どうでも良くなってきたな。今日はそこら辺の公園で寝るか」
「君、そこの青年」
「…んだよ、俺のことかよ」
「あぁ、大家に聞いた。君は家賃を遅滞させていたようだね」
その言葉を聞いた瞬間、俺は雷に打たれたようなショックを受けた。
「一回しか遅滞させた事はねぇ!それにっ、その一回も昨日振り込み忘れただけ…って、なんでアンタがそれを知ってるんだ」
俺が目を白黒させているのを愉しむかのように、彼は緩りと目を綻ばせた。
「たった今、私があの物件に関わる権利関係を丸っと購入したからだ。よって、私へ情報開示がなされただけ」
俺に向かって手を差し出すと、一定のトーンで俺に語りかけてくる。
「…さて、黒谷君。金がないなら、私の狗にならないか」
「…は?」
(コイツ今なんて言った?)
聞き間違いでなければ…イヌ?犬だって?
「その様子だと、家も財産も無くしたんだろう。なら、私が衣食住全てを保障しよう……私の元で、働かないか?」
「アンタの元?それはどういう……」
「私は白王 傑。白王探偵社を看板に掲げる探偵だ」
夜の光を反射する月ような、ひっそりとした美しさが、彼の誘いを至極魅力的にさせていた。
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