君に会える、一時間。

はちのす

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居心地

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カキーン!
快晴の中、大きな接触音を響かせて、ボールが空高く打ち上がる。

「黒島~!行ったぞ!」

「……げ」

外野を任されていた俺の元へ、打球は放物線を描きながら飛んできた。
フライのキャッチは、簡単な捕球行為に見えるが、晴れている時にはボールが太陽と一体化して難易度が高くなる。

まさに今がそれで、見上げた先には太陽しか見当たらない。
どこに落ちて来るのか、軌道が全く読めない中、取り敢えずキャッチの構えを取ってみる。

数秒待つと、おおよそ良い位置にボールが飛び込んできた。
あと少し手を伸ばすだけで、グラブの真ん中に来そうだ。

これなら、捕れるかも。

バシッ!

「……あ」

落下位置の見込みが外れたらしい。
グラブの先端にボールが勢いよく触れ、軌道が変わった。

思わず差し出した左手で、ボールを押さえる。
その咄嗟の行動で、何とか暴れるボールを受け止め切れた。

ピィィイイイ!

試合終了を告げる笛が、一瞬止まった空気を揺り動かした。

「捕れた……」

「黒島ナイス!」

その笛の音を聞き届けると、周囲の守備の奴らがワラワラと近寄ってきて、先ほどのキャッチを褒め称え始める。
運動に関連した事で周囲に好感を持たれたことがないから、ハッキリ言って居心地が悪い。

「いやぁ、一瞬ヒヤッとしたけど捕れたな!」

「ポジショニングも良かったよ。黒島、守備は出来るんだな!」

「……」

クラスメイトのポロリと漏れた本音を察知してしまった俺は、急激に気持ちが落ち込んでいった。

── どうせ俺が居ても、何の足しにもならない。

勝利に湧くクラスメイトたちを避けるように輪を離れる。
無意識に足が向くのは、この数週間で、すっかり定位置になったあの場所。

「……だる」

「あ! 黒島だ!」

「デジャヴだな」

「ふふ、そうだね!」

重い扉が開く音が背後から聞こえ、あの白いタオルを首から下げた赤坂が体育館から出てきた。

「いつもそこから出て来てんのか」

「うん。グラウンド使えない日は体育館で自主練してるんだよね!」

「…あぁ」

そうか、俺達がこのグラウンドを使ってるから体育館で自主練をしているのか。

丁寧に洗った水筒を赤坂に手渡すと、コイツはいけしゃあしゃあと「あ、忘れてた」なんて言っている。
まさか、そんな何度も同じ間違いをするか?と疑ってしまうのが俺の良くない所だ。

水筒を受け取った赤坂は、また人好きのする笑みを浮かべた。

「俺さ、瀬名高の皆がグラウンド使ってるの見てるの好きなんだよね」

「は、見てんの?」

「うん! 毎回、練習の合間にちょいちょい。あ、さっきはナイスキャッチだったね!」

「……」

盗み見られるなんて、言語道断だ。
そのはずなのに、少し心が温かくなって、ふわふわとした心地になる。

いや、待てよ。異様なまでの赤坂の出没タイミングの良さは、全部見られていたから?
そう合点がいった時、どうしようもない自己嫌悪に襲われた。

普通に、へばってた俺を励ましに来てくれてたのか。

それなのに、勝手に警戒して素っ気ない態度をとっていた。まるで幼い子供だ。

「……俺の事笑わないの?」

「笑うって、なんで? 何に対して?」

「いや、ほら……」

自分の非を認めようと発言したのに、改めて何故と聞かれたら、ちょっと見栄を張りたくて口籠もってしまう。

俺って大層ダサかっただろ。大した事もしてないのに、疲れたとかほざいてたし。
そうやって戯けられたら、どれほど楽だろうか。

「……」

「あいつらダサいよ」

ビッ!っと赤坂が指差した先は、グラウンドでストレッチをするクラスメイト達。

「だってさ、この前だって頑張ってる奴のこと笑ってさ。何様だってんだよな!」

「……赤坂」

「あんな奴ら気にする必要ないよ。黒島は黒島らしくやればいいし」

トン、と肩に赤坂の拳が当たる。

「胸張ってこうよ! こういうのって、自分が自分を認めてやらないと!」

「……ありがとう」

「どーいたしました!」

「ふっ、なんだそれ」

シリアスな話が肌に合わないのか、可笑しな日本語を操りながら俺を笑わそうと試行錯誤している姿は、赤坂の人柄を如実に示していた。

やっぱり、この空間がちょうどいいんだ。

予鈴を聞きつけて、忙しなく走っていく姿を「またか」なんて思いながら見送る。

能天気そうに見えていたアイツは、ただひたすらに明るくて、実直で……まさしく、人望のある人間と言ったところだ。

「今度は、俺がなんか持って来るか」

自然と上がっていた口角を見られまいと、ひっそりと指で押し戻した。

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