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猫又の好奇心

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 俺は猫又と一緒に、よろずやから程近い商店街に訪れていた。

「あのぉ……猫又さん、依頼って本当にこれで良いんですか? 」

 俺は妙に畏まりながら隣を歩く猫又に小声で問いかけてみた。何でこんなことを聞いているかと言うと、猫又のいらいというのは……

「勿論良いに決まっているぞ!吾輩は前々からこの“すーぱーぼうる”とやらで遊んでみたかったんじゃあ! 」

 そう、スーパーボールを買ってくれと言うだけの依頼だったのだ。最初は拍子抜けしてしまったが、店主曰くこの程度の依頼も多く来るそうだ。確かに、猫又は人には見えない以前に猫なので、人間が使う店では買い物はできない。自分で解説しておいて何を言ってるのか、と言った感じだが猫又は大真面目だった。

「人の店からくすねることもできなくは無いのだが、悪妖怪には身を窶したくにゃいからな。」

「悪妖怪…それってなんです?」

「道理に外れることをし続けるとな、悪徳の道から抜け出せなくなるんだにゃ。その道を極めたものは悪妖怪となり、一目置かれる存在となるわけだ。」

「妖怪に道理とかあるんですね。」

「まあ、人と密接な関係にあるからこその厄介な縛りだろうな。はあ、面倒じゃ……」

 猫又は手に入れたスーパーボールを嬉しそうに転がしながらも、深いため息を吐いた。本当に人間臭い妖怪だな。
 しかし、一目置かれる存在になるなら名誉なことだと思うんだけど、猫又はそれが嫌なのだろうか。俺はどうしても引っかかって猫又に根掘り葉掘り質問し始めた。当たり前だが、人目は気にしている。猫又は、意思の疎通はできても他人からは見えない存在で、今も俺の足元ではスーパーボールが独りでに揺れ動いている状態に見えているんだから。

「ん?吾輩が立派な妖怪なのは間違いないぞ。まあなんだ、どの派閥に所属するか、みたいな面倒ないざこざがあるんじゃ。」

「何ですかそれ、何と何の派閥があるんです?」

「さっきから質問ばかりだにゃ!……人と共存し生きる“穏健派”と、道理は背いてこそと考える“悪妖怪派”の2派。おおよその勢力は拮抗している感じだにゃ。」

 本当に妖怪って、人間の写しみたいなものなんだな。大きな共同体があれば必ずと言って良いほど、共存か、支配か、その2択がいつも付き纏うんだ。

「それで、猫又さんは穏健派ということですね。」

「如何にも!生来人と暮らしてきた身だ。共存を選ばずして何を得るというのか。あの悪妖怪ども、自らの姿が人間に見えないからと言って、好き放題にしておる。」

 猫又が言うには、悪妖怪になった妖怪たちは悍ましい術を使い、人間に呪い等の危害を加えるらしい。時折報道されるような怪事件や、精神病なんかも妖怪が発端だったりするそうだ。

(同じ妖怪同士でも、考え方は色々なんだな。)

 逆に言うと、俺は今まで妖怪が見えていながら2年間危険な目にもあっていない、レアケースとも言えるかもしれない。

「俺、なんか前途多難な気がしてきました」

「なに、ここのよろずやに来る依頼なんぞ、1日・2日で解決することが殆どだ。あまり気落ちするでないぞ、せっかくの面白さが半減だ。」

「最後、本音出てますよ」

 俺がジト目で視線を送ると、猫又は調子が良さげにニャァと鳴いた。

「おい、そろそろ黄昏どきだにゃ。さっさと帰るぞ、人間。」

「俺は柳です……って、え?俺の家に来るんですか? 」

「当たり前だにゃ!依頼自体は“すーぱーぼうる”だったが、長年生きた吾輩の好奇心はまだまだ満たされていないんだにゃ!全ての依頼を見届けてやろう。」

「え、ええぇ……そんな勝手な」

 俺は拒否の姿勢を見せたが、猫又は全く意に介さず、尻尾をフリフリと振りながら、俺の前を行く。

「……はぁ、道、分かるんですか? 」

「分かるはずなかろう!! 」

「……はああぁ」

 依頼完遂までは、騒がしい日常を送ることになりそうだ。

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