49 / 65
本編【完結】
第四十九話 侯爵令嬢の誤算
しおりを挟む
あれよあれよという間に迎えた、卒業式前夜祭。
エリアーナは、屋敷の自室の窓から外を眺めながらぼんやりとしていた。
舞踏会の時と同様、自宅で侍女達にドレスを着付けられ、化粧も髪の毛のセットも既に終わっていた。
しかしエリアーナは何故か自室から出ようとはせず、暗い顔で先程から外ばかりを眺めていたのだった。
――今日は来てくれると思ったのに……。
あれからずっとレイモンドとはすれ違いが生じ、会えないまま今日まで来てしまった。
その間、彼からの便りは無かった。
学園内で時々耳にする噂話に、エリアーナはまさかねと不安になる。
――とうとうレイモンド様がエミリア様に絆されてしまったらしい。――
――エリアーナ様との婚約破棄も秒読みかもしれないぞ。――
などなど、聞こえてくる噂話はエリアーナにとって心象のいい代物では無かった。
レイモンドを信じたい。
しかしエリアーナの不安を掻き立てるように、俯いた視界に映ったドレスがその意味を物語っていた。
エリアーナが着ているドレスは、レイモンドから贈られたものでは無かった。
用意したのは父親であるアーゼンベルク侯爵だった。
学園の噂を聞きつけた父が、もしもの時にと用意してくれていたらしい。
エリアーナは最後まで、レイモンドはきっと贈ってきてくれると信じて前日まで待っていたのだが……。
その想いは虚しく砕かれ、父の用意したドレスに袖を通すことになった。
震える体を叱責し、俯く顔を前に上げ、侯爵令嬢なのだからと、痛む心は無視した。
――馬鹿ね私ったら、今頃になって気づくなんて……。
エリアーナは自嘲的に笑う。
レイモンドとこんなにも長い期間会えなくなって、初めて己の気持ちに気づいた。
――レイモンドはケビンの事が好きだと思っていた時は、あんなに応援しようと思っていたのに……。
己の浅はかな想いに苦笑する。
あれは相手がケビンであったからだ。
今だからわかる。
自分は心のどこかで、レイモンドは私の事が好きだから、離れることは無いと思い込んでいた。
ケビンとの事は、いわば自分に課せた目隠しのようなもの。
彼の気持ちに気づかないフリをして、今のままの関係に胡坐をかいていた。
自分の心に気づかないフリをして、優しくて居心地のいい関係に甘えていた。
だから罰が当たったんだと、エミリアとレイモンドの噂話がいよいよ本格的だと聞いた時、エリアーナは後悔した。
――今更後悔しても遅いのに……。
窓の外を見上げると、エリアーナの心の中を体現するように、分厚い雲が覆っていたのだった。
エリアーナは、屋敷の自室の窓から外を眺めながらぼんやりとしていた。
舞踏会の時と同様、自宅で侍女達にドレスを着付けられ、化粧も髪の毛のセットも既に終わっていた。
しかしエリアーナは何故か自室から出ようとはせず、暗い顔で先程から外ばかりを眺めていたのだった。
――今日は来てくれると思ったのに……。
あれからずっとレイモンドとはすれ違いが生じ、会えないまま今日まで来てしまった。
その間、彼からの便りは無かった。
学園内で時々耳にする噂話に、エリアーナはまさかねと不安になる。
――とうとうレイモンド様がエミリア様に絆されてしまったらしい。――
――エリアーナ様との婚約破棄も秒読みかもしれないぞ。――
などなど、聞こえてくる噂話はエリアーナにとって心象のいい代物では無かった。
レイモンドを信じたい。
しかしエリアーナの不安を掻き立てるように、俯いた視界に映ったドレスがその意味を物語っていた。
エリアーナが着ているドレスは、レイモンドから贈られたものでは無かった。
用意したのは父親であるアーゼンベルク侯爵だった。
学園の噂を聞きつけた父が、もしもの時にと用意してくれていたらしい。
エリアーナは最後まで、レイモンドはきっと贈ってきてくれると信じて前日まで待っていたのだが……。
その想いは虚しく砕かれ、父の用意したドレスに袖を通すことになった。
震える体を叱責し、俯く顔を前に上げ、侯爵令嬢なのだからと、痛む心は無視した。
――馬鹿ね私ったら、今頃になって気づくなんて……。
エリアーナは自嘲的に笑う。
レイモンドとこんなにも長い期間会えなくなって、初めて己の気持ちに気づいた。
――レイモンドはケビンの事が好きだと思っていた時は、あんなに応援しようと思っていたのに……。
己の浅はかな想いに苦笑する。
あれは相手がケビンであったからだ。
今だからわかる。
自分は心のどこかで、レイモンドは私の事が好きだから、離れることは無いと思い込んでいた。
ケビンとの事は、いわば自分に課せた目隠しのようなもの。
彼の気持ちに気づかないフリをして、今のままの関係に胡坐をかいていた。
自分の心に気づかないフリをして、優しくて居心地のいい関係に甘えていた。
だから罰が当たったんだと、エミリアとレイモンドの噂話がいよいよ本格的だと聞いた時、エリアーナは後悔した。
――今更後悔しても遅いのに……。
窓の外を見上げると、エリアーナの心の中を体現するように、分厚い雲が覆っていたのだった。
0
お気に入りに追加
420
あなたにおすすめの小説
【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜
茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。
☆他サイトにも投稿しています
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています
平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。
生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。
絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。
しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
【完結】転生したら少女漫画の悪役令嬢でした〜アホ王子との婚約フラグを壊したら義理の兄に溺愛されました〜
まほりろ
恋愛
ムーンライトノベルズで日間総合1位、週間総合2位になった作品です。
【完結】「ディアーナ・フォークト! 貴様との婚約を破棄する!!」見目麗しい第二王子にそう言い渡されたとき、ディアーナは騎士団長の子息に取り押さえられ膝をついていた。王子の側近により読み上げられるディアーナの罪状。第二王子の腕の中で幸せそうに微笑むヒロインのユリア。悪役令嬢のディアーナはユリアに斬りかかり、義理の兄で第二王子の近衛隊のフリードに斬り殺される。
三日月杏奈は漫画好きの普通の女の子、バナナの皮で滑って転んで死んだ。享年二十歳。
目を覚ました杏奈は少女漫画「クリンゲル学園の天使」悪役令嬢ディアーナ・フォークト転生していた。破滅フラグを壊す為に義理の兄と仲良くしようとしたら溺愛されました。
私の事を大切にしてくれるお義兄様と仲良く暮らします。王子殿下私のことは放っておいてください。
ムーンライトノベルズにも投稿しています。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
騎士団長との淫らな秘めごと~箱入り王女は性的に目覚めてしまった~
二階堂まや
恋愛
リクスハーゲン王国の第三王女ルイーセは過保護な姉二人に囲まれて育った所謂''箱入り王女''であった。彼女は王立騎士団長のウェンデと結婚するが、獅子のように逞しく威風堂々とした風貌の彼とどう接したら良いか分からず、遠慮のある関係が続いていた。
そんなある日ルイーセはいつものように森に散歩に行くと、ウェンデが放尿している姿を偶然目撃してしまう。何故だかルイーセはその光景が忘れられず、それは彼女にとって性の目覚めのきっかけとなるのだった。さあ、官能的で楽しい夫婦生活の始まり始まり。
+性的に目覚めたヒロインを器の大きい旦那様(騎士団長)が受け入れて溺愛らぶえっちに至るというエロに振り切った作品なので、気軽にお楽しみいただければと思います。
+R18シーン有り→章名♡マーク
+関連作
「親友の断罪回避に奔走したら断罪されました~悪女の友人は旦那様の溺愛ルートに入ったようで~」
そして乙女ゲームは始まらなかった
お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。
一体私は何をしたらいいのでしょうか?
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる