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本編【完結】
第十七話 噂話
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「そういえば、エリアーナ様お聞きになって?」
「何をでしょうか?」
久しぶりの令嬢たちとの茶会の席で、突然話を振られたエリアーナは、その大きな瞳を瞬かせて小首を傾げながら聞き返してきた。
そのあどけない姿に、何人かの令嬢たちは「ほぉ。」と溜息を零しながら、うっとりと見つめてきている。
その視線に気づくことなく、エリアーナは胸中で先程問いかけられた答えを記憶の中で照らし合わせていた。
――この前の裏庭での事は、一応女生徒達の間では誤解が解けていたから違うとして……やっぱり舞踏会のことかしら?
エリアーナが扇で顔を隠しながら、あれこれと悩んでいると。
話しかけてきた令嬢が、待ちきれないとばかりに、答えを言ってきてしまった。
「最近、生徒会にあの男爵の御令嬢が入会したという噂がありますの。」
扇で口元を隠し、眉間に皺を寄せて不愉快だと言わんばかりに説明してくる。
エリアーナは、そんな彼女の表情をぼんやりと見ながら、先ほど言われた話に思考が停止していた。
――え?エミリア嬢が生徒会に?
そう胸中で呟きながら、最近忙しくて会えなくなってしまった婚約者の顔を思い出していた。
一週間程前に会った彼は、疲れの為か少々やつれていた。
しかもレイモンドからは、生徒会役員全員が舞踏会の準備を寝る間も惜しんでやっていると聞いている。
あの激務の中に、エミリア嬢も加わったというのは、俄かには信じられなかった。
「あら、私の聞いた噂ですと、取り巻きの方を使って、入り浸っていると聞きましたわよ?」
「まあ、生徒会は今、舞踏会の準備で忙しいと聞いてますわよ?」
「あら、それが本当なら非常識ですわよねぇ。」
ご令嬢たちの情報の早さに舌を巻きながら、エリアーナはその話に耳を傾けていた。
噂好きの令嬢たちの話を纏めると、どうやらエミリアは宰相の息子と騎士団長の息子を味方につけて、生徒会に出入りしているらしい。
――そうよね、生徒会は伯爵位以下の者は出入りすら禁じられている場所だから、変だと思ったのよね。
生徒会は学園内のすべての情報を扱う為、役員の選出も特に厳しく家柄も重要視されている。
しかもその中から、特に優秀で責任感のある者だけが部員になれるのだ。
もちろんエリアーナにもお誘いはあったが、婚約者同士がいると周りの部員に気を使わせてしまうと思い、丁重にお断りをしておいた。
その為、生徒会についてはレイモンドからの又聞きでしか知らなかったが、行事の時はかなり忙しいという話はよく聞いていた。
――こんな時期に男爵令嬢に入り浸られて、レイったら大丈夫かしら?
と、エリアーナは心配するのだった。
全然大丈夫じゃなかった――
猫の手も借りたいほど、くそ忙しい筈の生徒会では、エミリアとレイモンドの攻防戦が水面下で繰り広げられていたのだった。
ある時は――
「レイ様、お茶の準備ができました♪」
「え?休憩ならさっきしたばかりだけど?」
にこにこと笑顔で、お茶とお菓子を用意したテーブルに誘おうとしてくるエミリアに対し、レイモンドは氷点下の笑顔でさらりと断る。
またある時は――
「レイ様、書類を……きゃっ!」
「……ちゃんと前を見てないと危ないよ。」
書類を渡そうとしたエミリアが何もない所で躓き、レイモンドに抱き着く形で倒れ込んできた彼女の顔面を片手で押さえながら、散乱する書類を背景に爽やかに注意をしていた。
「エミリー大丈夫かい!?」
そしてこいつらも……。
お約束と言わんばかりに、事ある毎に湧いて出てくるサイモンとエルリックも、鬱陶しい事この上なかった。
レイモンドの中では、仕事を割り振っても、仕事そっちのけでエミリアの様子ばかり気にしているこの二人は、既に役立たずのレッテルを貼っていた。
――そんなに心配なら、さっさと引き取ってどっか行きなさいよぉぉぉ~!
と、三人を見ては胸中で絶叫する始末である。
「はぁ……、エリィに会いたい……。」
ここ何日も、婚約者に会えない状況のレイモンドは、盛大な溜息を吐きながら呟くのであった。
「何をでしょうか?」
久しぶりの令嬢たちとの茶会の席で、突然話を振られたエリアーナは、その大きな瞳を瞬かせて小首を傾げながら聞き返してきた。
そのあどけない姿に、何人かの令嬢たちは「ほぉ。」と溜息を零しながら、うっとりと見つめてきている。
その視線に気づくことなく、エリアーナは胸中で先程問いかけられた答えを記憶の中で照らし合わせていた。
――この前の裏庭での事は、一応女生徒達の間では誤解が解けていたから違うとして……やっぱり舞踏会のことかしら?
エリアーナが扇で顔を隠しながら、あれこれと悩んでいると。
話しかけてきた令嬢が、待ちきれないとばかりに、答えを言ってきてしまった。
「最近、生徒会にあの男爵の御令嬢が入会したという噂がありますの。」
扇で口元を隠し、眉間に皺を寄せて不愉快だと言わんばかりに説明してくる。
エリアーナは、そんな彼女の表情をぼんやりと見ながら、先ほど言われた話に思考が停止していた。
――え?エミリア嬢が生徒会に?
そう胸中で呟きながら、最近忙しくて会えなくなってしまった婚約者の顔を思い出していた。
一週間程前に会った彼は、疲れの為か少々やつれていた。
しかもレイモンドからは、生徒会役員全員が舞踏会の準備を寝る間も惜しんでやっていると聞いている。
あの激務の中に、エミリア嬢も加わったというのは、俄かには信じられなかった。
「あら、私の聞いた噂ですと、取り巻きの方を使って、入り浸っていると聞きましたわよ?」
「まあ、生徒会は今、舞踏会の準備で忙しいと聞いてますわよ?」
「あら、それが本当なら非常識ですわよねぇ。」
ご令嬢たちの情報の早さに舌を巻きながら、エリアーナはその話に耳を傾けていた。
噂好きの令嬢たちの話を纏めると、どうやらエミリアは宰相の息子と騎士団長の息子を味方につけて、生徒会に出入りしているらしい。
――そうよね、生徒会は伯爵位以下の者は出入りすら禁じられている場所だから、変だと思ったのよね。
生徒会は学園内のすべての情報を扱う為、役員の選出も特に厳しく家柄も重要視されている。
しかもその中から、特に優秀で責任感のある者だけが部員になれるのだ。
もちろんエリアーナにもお誘いはあったが、婚約者同士がいると周りの部員に気を使わせてしまうと思い、丁重にお断りをしておいた。
その為、生徒会についてはレイモンドからの又聞きでしか知らなかったが、行事の時はかなり忙しいという話はよく聞いていた。
――こんな時期に男爵令嬢に入り浸られて、レイったら大丈夫かしら?
と、エリアーナは心配するのだった。
全然大丈夫じゃなかった――
猫の手も借りたいほど、くそ忙しい筈の生徒会では、エミリアとレイモンドの攻防戦が水面下で繰り広げられていたのだった。
ある時は――
「レイ様、お茶の準備ができました♪」
「え?休憩ならさっきしたばかりだけど?」
にこにこと笑顔で、お茶とお菓子を用意したテーブルに誘おうとしてくるエミリアに対し、レイモンドは氷点下の笑顔でさらりと断る。
またある時は――
「レイ様、書類を……きゃっ!」
「……ちゃんと前を見てないと危ないよ。」
書類を渡そうとしたエミリアが何もない所で躓き、レイモンドに抱き着く形で倒れ込んできた彼女の顔面を片手で押さえながら、散乱する書類を背景に爽やかに注意をしていた。
「エミリー大丈夫かい!?」
そしてこいつらも……。
お約束と言わんばかりに、事ある毎に湧いて出てくるサイモンとエルリックも、鬱陶しい事この上なかった。
レイモンドの中では、仕事を割り振っても、仕事そっちのけでエミリアの様子ばかり気にしているこの二人は、既に役立たずのレッテルを貼っていた。
――そんなに心配なら、さっさと引き取ってどっか行きなさいよぉぉぉ~!
と、三人を見ては胸中で絶叫する始末である。
「はぁ……、エリィに会いたい……。」
ここ何日も、婚約者に会えない状況のレイモンドは、盛大な溜息を吐きながら呟くのであった。
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