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小話
鈴宮家の昼の風景
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しんと静まり返る部屋の中。
家の中だというのに辺りには人の気配は無い。
ふと、急に心細くなり部屋の主は徐に部屋の入り口へと視線を彷徨わせた。
その拍子にぽとりと額から生温くなった布がずれ落ちる。
見慣れた襖は開く気配が無かった。
静寂
静か過ぎる室内にはなんの音も聞こえてこない。
否、微かにだが上気した息遣いが聞こえてきた。
その息遣いが己から発せられる音だと気づき更に寂しさが募った。
部屋の主は部屋の中央に横たわり円らな瞳を潤ませながら天井を見上げた。
――どうしてこうなってしまったんだろう。
部屋主の脳裏に後悔の言葉ばかりが浮かんでは消えていく。
今思えば一昨日の風呂上りによく髪を乾かさなかったのがいけなかったのかもしれない。
いや、昨日お腹を出して寝ていたのがいけなかったのかも……。
部屋の主――北斗――は只今風邪を引いて寝込んでいたのだった。
あれこれ考えていた北斗の耳にパタパタと廊下を走る足音が聞こえてきた。
それは次第に近付いてきて部屋の前に差し掛かったところで盛大な音と共に掻き消された。
「北斗様ぁ~~~~~~~~!!!!」
バシーンと襖を破壊するかという勢いで部屋の中へと登場してきたのはこの屋敷の使用人である菊だった。
菊は相変わらず長くて綺麗な黒髪を振り乱しながら北斗の元へとスライディングタックルをかましてきた。
「ぐふうっ!!」
布団ごと抱きつく形で北斗の元へとダイブしてきた菊に潰された北斗が牛蛙のような悲鳴をあげた。
「北斗様ぁ~~~大丈夫ですかぁぁぁぁ?」
そんな北斗にはお構い無しに冷静さを欠いた菊が号泣しながら北斗の肩を揺さぶってきた。
ガックンガックンと人形の首のように上下に揺さぶられる北斗の頭。
そんな事したら風邪が悪化するだろう!というような扱いを受けながら「き、菊さん待って落ち着いて……ぐふ!」と消え入るような声で必死に抵抗する。
「北斗様お気を確かに!北斗様にもしも……もしもの事があったら菊は菊はあ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛~~。」
ずうぅぅぅん、と背後に闇を背負った怨霊バージョンの菊の顔が北斗の顔に迫ってくる。
ずいぶん見慣れた(?)はずの菊の素の顔は間近で見ると迫力が違う。
正直心臓が止まるかと思った。
「ひいぃぃぃぃ!菊さん近い近いぃぃぃぃぃ!!」
思わず悲鳴をあげてしまった北斗は極度の恐怖と熱のせいでそのままばったりと気絶してしまったのだった。
「北斗様!?北斗様あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
長閑な昼下り、菊の絶叫が鈴宮家の屋敷中に響き渡るのであった。
「なにやってんだか」
同じく水と薬をお盆に載せて運んできた岩が一連のやり取りを見て額を押さえて嘆息する姿があったとか……。
――鈴宮家のとある昼の出来事――
家の中だというのに辺りには人の気配は無い。
ふと、急に心細くなり部屋の主は徐に部屋の入り口へと視線を彷徨わせた。
その拍子にぽとりと額から生温くなった布がずれ落ちる。
見慣れた襖は開く気配が無かった。
静寂
静か過ぎる室内にはなんの音も聞こえてこない。
否、微かにだが上気した息遣いが聞こえてきた。
その息遣いが己から発せられる音だと気づき更に寂しさが募った。
部屋の主は部屋の中央に横たわり円らな瞳を潤ませながら天井を見上げた。
――どうしてこうなってしまったんだろう。
部屋主の脳裏に後悔の言葉ばかりが浮かんでは消えていく。
今思えば一昨日の風呂上りによく髪を乾かさなかったのがいけなかったのかもしれない。
いや、昨日お腹を出して寝ていたのがいけなかったのかも……。
部屋の主――北斗――は只今風邪を引いて寝込んでいたのだった。
あれこれ考えていた北斗の耳にパタパタと廊下を走る足音が聞こえてきた。
それは次第に近付いてきて部屋の前に差し掛かったところで盛大な音と共に掻き消された。
「北斗様ぁ~~~~~~~~!!!!」
バシーンと襖を破壊するかという勢いで部屋の中へと登場してきたのはこの屋敷の使用人である菊だった。
菊は相変わらず長くて綺麗な黒髪を振り乱しながら北斗の元へとスライディングタックルをかましてきた。
「ぐふうっ!!」
布団ごと抱きつく形で北斗の元へとダイブしてきた菊に潰された北斗が牛蛙のような悲鳴をあげた。
「北斗様ぁ~~~大丈夫ですかぁぁぁぁ?」
そんな北斗にはお構い無しに冷静さを欠いた菊が号泣しながら北斗の肩を揺さぶってきた。
ガックンガックンと人形の首のように上下に揺さぶられる北斗の頭。
そんな事したら風邪が悪化するだろう!というような扱いを受けながら「き、菊さん待って落ち着いて……ぐふ!」と消え入るような声で必死に抵抗する。
「北斗様お気を確かに!北斗様にもしも……もしもの事があったら菊は菊はあ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛~~。」
ずうぅぅぅん、と背後に闇を背負った怨霊バージョンの菊の顔が北斗の顔に迫ってくる。
ずいぶん見慣れた(?)はずの菊の素の顔は間近で見ると迫力が違う。
正直心臓が止まるかと思った。
「ひいぃぃぃぃ!菊さん近い近いぃぃぃぃぃ!!」
思わず悲鳴をあげてしまった北斗は極度の恐怖と熱のせいでそのままばったりと気絶してしまったのだった。
「北斗様!?北斗様あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
長閑な昼下り、菊の絶叫が鈴宮家の屋敷中に響き渡るのであった。
「なにやってんだか」
同じく水と薬をお盆に載せて運んできた岩が一連のやり取りを見て額を押さえて嘆息する姿があったとか……。
――鈴宮家のとある昼の出来事――
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