鈴ノ宮恋愛奇譚

麻竹

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第四章【過去】

第二十二話

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「え?延期になるの?」

教室に北斗の声が響いた。
登校早々、教室に入るとクラスメートの子が飛んできて「文化祭は延期になった。」と教えてくれた。
突然の報告に北斗は驚いてしまい上記の発言をしたのだった。

「うん、さっき先生が来てそう言ってたんだって!」

大ニュースとばかりにクラスメートの子は友達から教えてもらった情報を得意になって伝えてくる。
そこへ若菜もやって来た。

「とりあえず壊れた出し物の修理とかで一ヶ月延期になったみたいよ。」

興奮気味のクラスの子をやんわりと征しながら的確に情報を付け加えてくれた。

若菜の説明で北斗もようやく合点がいったのか「なるほど」と頷いた。

「一ヶ月で直るの?」

「さあ?直らなかったら中止になるかもしれないわね。」

北斗の問いに冷静に返答する若菜。
相変わらず大人だなーと感心していると若菜がこっそり耳打ちしてきた。

「延期になって良かったわね。」

「え?」

「だって、これで練習する時間が増えたじゃない。」

嬉しそうに微笑む若菜の言葉に「そうだね」と北斗も頷く。
悪霊騒ぎでまともに練習する余裕のなかった北斗には、みんなには悪いと思うがありがたかった。

「本番までになんとか全部覚えなくちゃ。」

「そうね。」

とりあえず悪霊のことは置いておいて今度こそ演技の練習に集中するんだと意気込みを見せる北斗。
そんな北斗に若菜も「応援するわ」とエールを送るのだった。





文化祭が延期になってから早くも2週間が経とうとしていた。
その間、壊れた文化祭の出し物の修理に北斗達は大忙しだった。
放課後遅くまで残って壊れた背景の描き直しや破かれた衣装の修繕に毎日明け暮れた。
その甲斐あってか思ったよりも修理は早く終わりそうだった。
最初こそ皆暗い顔で作業を進めていたが、なんとかなりそうだという安心感から次第にクラスに笑顔が戻っていった。
舞台の練習も再開できるようになり脚本担当の子などいつにも増して演技の指導に力が入っていた。
そのお陰で北斗の負担は倍増してしまったのだが……



本日も指導という名のスパルタ練習にへとへとになりながら北斗達は帰還していた。

「はぁぁ~~疲れたぁぁぁぁぁ!!!」

広い居間でごろんと寝そべりながら光一が盛大な溜息を吐く。

「どうでもいいけど、なんでお前達も一緒に帰ってくるんだよ!」

大の字で部屋の一部を占領する悪友に兇が眉間に皺を寄せながら言ってきた。
兇の自宅には何故か北斗のほかにもう二人 ―― 光一と若菜が何故か居座っていた。
最近恒例になりつつある光景に兇が危機感を感じて突っ込まずにはいられなかったようだ。
そんな兇の言葉にキョトンとした顔をする光一と若菜。
その反応に兇の顔が引き攣る。

「なんでって、お前んちだから。」

答えになっていない返答に兇の米神に青筋がひとつ浮いた。
「どういうことだ?」と冷静を装って聞き返してみる。

すると――

「え?だって友達の家に遊びに行く!これぞ学生の醍醐味だろぉ♪」

などとワケのわからないことを大声で叫んできた。
しかも何故か拳を握り締め目をキラキラさせている。

そんなアホな珍回答を言ってくる光一に兇は嫌な予感が的中したと顔を覆った。

「何言ってんのよ!私は北斗が心配だから来てるだけだからね!」

隣で力説する光一を冷たい視線で睨みながら若菜が割って入ってきた。

「若菜……。」

親友の発言に北斗は嬉しそうな顔をする。

「とりあえず私は北斗が無事家に帰れたのを見届けたし少し休んだら帰るから。」

私は仲間じゃないわと言わんばかりの勢いで若菜がそう言ってきた。
その言葉に兇は内心ほっとする。
しかしここで光一が黙っているわけがなかった。

「なんでだよ?俺今日は友達の家に泊まってくるって言ってきちゃったんだぜ!」

光一の爆弾発言に一同驚いた。

「ちょっ、バカじゃないの!?」

「迷惑でしょう!」と若菜が思わず叱責する。

「ああ?ちゃんとアポは取ったぞ?」

若菜の言葉にムッとしながら抗議してくる光一。
更なる爆弾発言に「は?誰に!?」と兇と若菜の声が重なった。
それを聞いた光一は「ふふん」と得意げに鼻を鳴らすとこう言ってきた。



「もちろん兇のおとーさまに♪」



次の瞬間――



「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!??」



と兇の雄叫びが上がったのだった。








「どういうことだ!?」

広い室内に兇の怒鳴り声が響いた。
かたかたと震える襖の様子を涼しい顔で眺めていた部屋の主は座卓に置かれていた茶をずずずと一口飲むと「凄いですねぇ。」と暢気に呟いてきた。
そんな飄々とした態度に怒鳴り声の主がブチっと切れる。

「そんなに青筋浮かべたら血管切れちゃいますよ。」

と息子の怒りを軽く受け流しながら部屋の主である保が言ってきた。

「誰のせいで怒ってると思ってるんだ!!」

いつもの態度はどこへやら、憤怒の表情で実父である保を見下ろす。
鈴宮家で一番奥にある和室――鈴宮家当主の自室に兇達は乗り込んでいたのだった。

「だいたいなんで光一達が家に泊まる事を許可したんだよ!」

兇の怒りの理由はもちろん光一達の宿泊を許可したことだった。

「悪霊に狙われてるんだぞ!」と言う兇に保は「だからだよ。」と暢気に答えてきた。
一瞬「え?」と固まる一同。
兇の後を慌てて付いてきた北斗達が保つの言葉に驚いた。

「彼らは悪霊に狙われていていつ襲われるかわからないでしょ、だったら家に居てくれた方が安全だと思って♪」

「丁度土日で学校お休みでしょ?」と小首を傾げながら言ってきた。

「ほら~俺の言った通りだろう♪」

突然二人の間に割って入ってきたのは光一だった。

「と、いうわけで俺達泊まるから♪」

光一はどこに隠していたのか、お泊りセット一式の入ったバックを見せるとそう言ってきた?
その言葉に兇は口をパクパクしながら青褪める。
そしてふと気づく

「俺達って……誰とだ?」

兇の言葉に光一はにやりと笑うと

「もちろん、若菜もだよ♪」

当たり前だろう!と言わんばかりの勢いで言ってきた光一に隣にいた若菜も驚いて声を上げた

「ちょっ、どういうこと?私何も持ってきてないわよ!!」

純粋に北斗を鈴宮家に送り届けて少し話をしたら帰る予定だった若菜は突然の話に目を白黒させて驚いていた。

「え~せっかくだし泊まっていけばいいじゃんか!服なら北斗のを借りればいいだろう?」

そんな若菜に光一が更に続ける。

「ちょっと、そういう問題じゃないのよ!」

光一の言葉に若菜は堪らず抗議する。

「まあ、まあ、うちは泊まってくれて構わないよ。というよりも泊まってくれた方が都合がいいんだよね実は。」

二人の遣り取りに保つが菩薩の笑顔で入ってきた。
保の言葉に若菜ならず光一までも振り返りキョトンとした顔をする。

「都合がいいってどういうことですか?まさか……」

幼馴染と同級生の遣り取りをそれまでハラハラしながら見守っていた北斗が思わず保に聞き返してきた。

「ご推察の通り悪霊が動き出したんだ。」

そんな北斗に苦笑を零しながら保が答える。
保の言葉に青褪める北斗。

「それは確かなのか?」

父親の返答に兇が剣呑な顔で更に聞き返してきた。

「うん、情報機関から悪霊が居たはずの場所からいなくなったと連絡がきたんだよ。」

その言葉に兇の片眉がぴくりと動く。

「あそこからか……」

そう呟いたきり黙ってしまった兇に、この話が嘘ではなくしかもかなりまずい状況だと三人は悟る。

「こちらから仕掛けようとした矢先だったから困っちゃうよね。」

しんと静まり返った部屋に保の暢気な声が響いた。
そんな保に怪訝な顔を向ける。

「僕達も暢気に構えていたわけじゃあないんだよ。」

聞いてないぞ?と目で訴えてくる次男に保はにへらと気の抜けるような笑顔で答えた。
そんな緊張感の無い父に半目で抗議する兇。

「ま、まあ、悪霊がいつ仕掛けてくるかわからないから今日は泊まって貰って、ね。あ、夕飯は何にしてもらおうかな~。」

兇の責めるような視線に耐えられなくなった保はそう言うとそそくさと部屋を後にしようとした。
ふと、何かを思い出したようで振り返る

「あ、お夕飯は後で呼ぶ……こっちで取る方がいいよね、後で持ってくるからゆっくり寛いでてね~。」

と兇の視線に気づいた保が慌てて言い直すと今度こそ「ごゆっくり~」と言いながら出て行った。

「なんだか気になる言い方だったわね?」

勘の鋭い若菜がぽつりと零す。
その言葉にぎくりとする兇と北斗。
さすがに食事はあの大部屋で一緒に、とは無理がある。
そもそもあの光景を目の当たりにしたら驚くだけではないだろう。
良くて卒倒かもしくは逃げ出してしまうかもしれない。

「え、そ、そうかな?友達と気兼ねなくって意味じゃないかな~あはは。」

訝しむ若菜に北斗は慌てて言い繕う。

「そお?なんだか気を使わせてしまったみたいで申し訳ないわ。」

北斗の言葉を素直に受け取ってくれた若菜に内心ほっとする。
隣を見ると兇もほっとしたような顔をしていた。

「おお~兇の家のご飯か~♪楽しみだな~♪」

そんな攻防戦に全く気づかない暢気な光一はウキウキとした様子で目をキラキラさせていた。
きっとあの美人の兇の母親の事を想像しているのだろう。
口元がにやりとしている。
そんな光一に「少しは遠慮しなさいよ。」と言いながら半目で抗議する若菜の姿があった。
その後――

旅館さながらにお膳に乗ってやってきた食事に光一が歓喜し、そんな光一を嗜める若菜や、それを見て重い溜息を吐く兇やら、なかなかに楽しい夕餉が展開されるのであった。
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