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第三章【霊導者】
第六話
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ここはどこ?――
目を開けるとそこは真っ暗だった。
辺りをきょろきょろ見渡しても誰もいない。
「おかあさん、どこ?」
急に心細くなり母を呼んでみた。
返ってくる声はない。
自分の声の余韻が消えると一層と恐怖を増すその暗闇。
益々恐くなって今度は大きな声で母を呼んだ。
「おかあさん、おかあさん、おかあさん、おかあさん.........。」
何度も何度も大きな声で叫ぶ音が暗闇に木霊していく。
辺りに響く自分の声のせいで、ここがもっともっと広く感じてしまい更に恐怖が増してしまった。
とうとう少女は我慢しきれず泣き出してしまう。
「おかあさん……。」
「ほくと。」
泣きながら絞り出した少女の声に優しい声が返ってきた。
少女はもの凄い勢いで声のした方を振り向く。
そこには。
母が立っていた。
少女は安堵と嬉しさから顔をくじゃくじゃにして母の元へ駆けていった。
「おかあさん、おかさん、おかあさん。」
母の腰に縋り付いた少女は、涙で濡れた顔を母の体に押し付けながら「おかさんどこにいたの?わたしこわかったよ!」と何度も言いながら泣きじゃくった。
「ごめんね、ほくと……。」
母は困ったような声でそう言うと北斗の頭を優しく撫でてくれた。
その大きな温かい手の温もりに、北斗は恐怖に怯えていた心が落ち着いていった。
涙で濡れた顔のまま見上げると母の優しい笑顔があった。
もう恐くない、だってお母さんがいるんだもん。
そう北斗が思った時――
「北斗逃げなさい、ここは危ないから。」
母は急に真剣な顔になると北斗にそう言ってきた。
「え?お母さん?」
何を急に?と母の意図ががわからなくて首を傾げていると。
ふと、母の腰に回した手に違和感を感じた。
己の手を見おろすと何かがついていた。
どす黒く生暖かいなにか……。
鼻をさすそのにおいに、北斗の顔が一瞬で歪む。
血?
「おかあさんこれ?」
思わず母を見上げた瞬間、北斗は固まった。
きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
北斗は思わず叫んでいた。
見上げた母のお腹の辺りが真っ赤に染まっていたからだ。
「おかあさん大丈夫?」
北斗は真っ青になりながら母を心配し叫ぶ。
そんな北斗に母はにこりと笑うとまた、逃げるように言ってきた。
「お、お母さんを置いていけないよ!」
慌てて母にすがる北斗に、母はその姿からは想像できないような優しい笑みを見せながら首を横に振ってきた。
「おかあさんはここから動けないの……だから北斗、あなただけでも逃げなさい。」
そう言うと母はそっと北斗の肩を押して体から離した。
するとどういうわけか、母がどんどん遠ざかっていくではないか。
「え?おかあさん!!」
北斗は慌てて母を追いかけたが何故か追いつけない。
「お母さん待って!私も……。」
尚も遠ざかっていく母を必死で追いかけながら、北斗は何度も何度も母を呼び続けるのだった。
ぴちょん……。
ぴちょん……。
―――冷たい。
ふと目を開けるとそこは真っ暗だった。
ぴちょん……。
「ん、なに?」
先ほども感じたその冷たさにぼんやりしていた意識が一気に覚醒する。
反射的に触った頬に、ぴちゃりとした感触が指に伝わってきた。
「濡れてる?」
見えない指先をじっと凝視しながら、指先を濡らしたその何かを恐る恐る嗅いで見る。
においは無い。
味を確認する勇気が出せずそのまま凝視していると上の方からまたぴちょんと落ちてきた。
「冷た!」
今度は鼻の頭にヒットしたそれに思わず声を上げる。
そしてふと気づく辺りの音。
しと しと しと。
「雨?」
聞き覚えのあるその音と匂いにほっと安堵の息を吐く。
しかし。
安堵したのも束の間。
得体の知れない液体の正体がわかると、今度は周りの暗闇に恐怖を感じ始めた。
「ここ・・・どこ?」
聞こえてくる雨の音。
しかし体は濡れていなかった。
その事実に、ここはどこかの建物の中なのではないかと辺りを見回す。
すると。
目が慣れてきたのか周りの景色がぼんやりと見えてきた。
よく見ると四方は平らな壁のようなもので囲われていた。
さらに目を凝らして見て見ると、自分の真後ろに何か四角い箱のようなものが置かれているのに気づいた。
振り返り恐る恐るその四角いモノを触ってみると硬い木の箱のようなものだった。
しかもかなり大きい。
さらに触っていくと上の蓋になる部分は格子状にできていた。
「なんだろう……これ。」
かび臭いその木の箱をゆっくりと撫でながらふと前を見ると。
天井から太い棒のようなものが垂れ下がっているのが見えた。
恐る恐る触れてみると、微かに音が聞こえてきた。
思わずぱっと手を離し、まじまじと目の前のモノを凝視する。
硬いと思ったそれは案外柔らかく、毛羽立った感触がした。
もう一度ゆっくりと手で触れ掴んでみる。
「ロープ?」
それは下の方が固結びされていた。
しゃらん……。
手に持った瞬間、上の方から鈴のような音が聞こえてきた。
その聞き慣れた音に少々安堵し、今度は強く揺すってみた。
しゃらん しゃらん。
はっとして見上げると、高い位置にそれはあった。
天井から垂れ下がる大きな鈴のついたロープのようなもの。
その下には格子状の蓋をされた四角い大きな箱。
ここがどこなのかわかった……。
ここは――
「お堂?」
しとしとと雨が降り続くその暗闇から、北斗の困惑した声だけが響くだけだった。
目を開けるとそこは真っ暗だった。
辺りをきょろきょろ見渡しても誰もいない。
「おかあさん、どこ?」
急に心細くなり母を呼んでみた。
返ってくる声はない。
自分の声の余韻が消えると一層と恐怖を増すその暗闇。
益々恐くなって今度は大きな声で母を呼んだ。
「おかあさん、おかあさん、おかあさん、おかあさん.........。」
何度も何度も大きな声で叫ぶ音が暗闇に木霊していく。
辺りに響く自分の声のせいで、ここがもっともっと広く感じてしまい更に恐怖が増してしまった。
とうとう少女は我慢しきれず泣き出してしまう。
「おかあさん……。」
「ほくと。」
泣きながら絞り出した少女の声に優しい声が返ってきた。
少女はもの凄い勢いで声のした方を振り向く。
そこには。
母が立っていた。
少女は安堵と嬉しさから顔をくじゃくじゃにして母の元へ駆けていった。
「おかあさん、おかさん、おかあさん。」
母の腰に縋り付いた少女は、涙で濡れた顔を母の体に押し付けながら「おかさんどこにいたの?わたしこわかったよ!」と何度も言いながら泣きじゃくった。
「ごめんね、ほくと……。」
母は困ったような声でそう言うと北斗の頭を優しく撫でてくれた。
その大きな温かい手の温もりに、北斗は恐怖に怯えていた心が落ち着いていった。
涙で濡れた顔のまま見上げると母の優しい笑顔があった。
もう恐くない、だってお母さんがいるんだもん。
そう北斗が思った時――
「北斗逃げなさい、ここは危ないから。」
母は急に真剣な顔になると北斗にそう言ってきた。
「え?お母さん?」
何を急に?と母の意図ががわからなくて首を傾げていると。
ふと、母の腰に回した手に違和感を感じた。
己の手を見おろすと何かがついていた。
どす黒く生暖かいなにか……。
鼻をさすそのにおいに、北斗の顔が一瞬で歪む。
血?
「おかあさんこれ?」
思わず母を見上げた瞬間、北斗は固まった。
きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
北斗は思わず叫んでいた。
見上げた母のお腹の辺りが真っ赤に染まっていたからだ。
「おかあさん大丈夫?」
北斗は真っ青になりながら母を心配し叫ぶ。
そんな北斗に母はにこりと笑うとまた、逃げるように言ってきた。
「お、お母さんを置いていけないよ!」
慌てて母にすがる北斗に、母はその姿からは想像できないような優しい笑みを見せながら首を横に振ってきた。
「おかあさんはここから動けないの……だから北斗、あなただけでも逃げなさい。」
そう言うと母はそっと北斗の肩を押して体から離した。
するとどういうわけか、母がどんどん遠ざかっていくではないか。
「え?おかあさん!!」
北斗は慌てて母を追いかけたが何故か追いつけない。
「お母さん待って!私も……。」
尚も遠ざかっていく母を必死で追いかけながら、北斗は何度も何度も母を呼び続けるのだった。
ぴちょん……。
ぴちょん……。
―――冷たい。
ふと目を開けるとそこは真っ暗だった。
ぴちょん……。
「ん、なに?」
先ほども感じたその冷たさにぼんやりしていた意識が一気に覚醒する。
反射的に触った頬に、ぴちゃりとした感触が指に伝わってきた。
「濡れてる?」
見えない指先をじっと凝視しながら、指先を濡らしたその何かを恐る恐る嗅いで見る。
においは無い。
味を確認する勇気が出せずそのまま凝視していると上の方からまたぴちょんと落ちてきた。
「冷た!」
今度は鼻の頭にヒットしたそれに思わず声を上げる。
そしてふと気づく辺りの音。
しと しと しと。
「雨?」
聞き覚えのあるその音と匂いにほっと安堵の息を吐く。
しかし。
安堵したのも束の間。
得体の知れない液体の正体がわかると、今度は周りの暗闇に恐怖を感じ始めた。
「ここ・・・どこ?」
聞こえてくる雨の音。
しかし体は濡れていなかった。
その事実に、ここはどこかの建物の中なのではないかと辺りを見回す。
すると。
目が慣れてきたのか周りの景色がぼんやりと見えてきた。
よく見ると四方は平らな壁のようなもので囲われていた。
さらに目を凝らして見て見ると、自分の真後ろに何か四角い箱のようなものが置かれているのに気づいた。
振り返り恐る恐るその四角いモノを触ってみると硬い木の箱のようなものだった。
しかもかなり大きい。
さらに触っていくと上の蓋になる部分は格子状にできていた。
「なんだろう……これ。」
かび臭いその木の箱をゆっくりと撫でながらふと前を見ると。
天井から太い棒のようなものが垂れ下がっているのが見えた。
恐る恐る触れてみると、微かに音が聞こえてきた。
思わずぱっと手を離し、まじまじと目の前のモノを凝視する。
硬いと思ったそれは案外柔らかく、毛羽立った感触がした。
もう一度ゆっくりと手で触れ掴んでみる。
「ロープ?」
それは下の方が固結びされていた。
しゃらん……。
手に持った瞬間、上の方から鈴のような音が聞こえてきた。
その聞き慣れた音に少々安堵し、今度は強く揺すってみた。
しゃらん しゃらん。
はっとして見上げると、高い位置にそれはあった。
天井から垂れ下がる大きな鈴のついたロープのようなもの。
その下には格子状の蓋をされた四角い大きな箱。
ここがどこなのかわかった……。
ここは――
「お堂?」
しとしとと雨が降り続くその暗闇から、北斗の困惑した声だけが響くだけだった。
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