鈴ノ宮恋愛奇譚

麻竹

文字の大きさ
上 下
14 / 87
第一章【きっかけ】

第十四話

しおりを挟む
事件のあった日から1週間が経とうとしていた。
北斗は相変わらず宿探しに明け暮れ、若菜もそれを応援した。
兇はそんな北斗を陰ながら見守り、光一は噂の後処理に奮闘させられていた。

「なんだかストーカーになった気分だ。」

「お~俺もそう思う!」

放課後、北斗達を数メートル離れた電柱から見守っていた兇は、突然背後から聞こえてきた同意の声にがばっと振り返った。
そこには「よっ♪」と明るく片手を上げる光一の姿があった。

「・・・・・・・・」

「・・・なぁ。」

「・・・・・・・・」

「・・・よぉ。」

「・・・・・・・・」

「・・・おい。」

「・・・・・・・・」

「・・・兇く~ん♪」

ギロリ。

「うおっ!怖えぇ!!」

「・・・・何か用か?」

「ん、あ~・・・何してんの?」

くるり。ゴツン。

「いってぇ~~~、何すんだよ!」

「お前に関係ない。」

兇の鉄拳を受けた光一が頭を抱えながら言った抗議の言葉を、冷ややかな声で一掃すると、そのまま、またすたすたと歩き出してしまった。

「いいじゃんか、教えろよ!つ~か何で北斗のストーカーなんかしてんだ?」

「ストーカーじゃない!」

光一の真横に一瞬で移動した兇は、光一の口を思い切り塞ぎながら低い声で否定した。
兇の迫力に、光一は冷や汗をだらだら流しながらマッハの速さでこくこくと頷く。

―――こ、怖えぇぇぇぇぇぇぇ!!

いつにない兇の迫力に恐怖を覚え胸中で呟いた。

「ていうか、本当に何してんだよ!」

勇気を出して兇の手を振り払い、今度は光一が兇に詰め寄った。

「・・・・・・」

ずいっと顔を近づけてきた光一の視線を正面から受けながら兇は黙っていた。
黙っているのだが何やら得体の知れないオーラのような殺気のようなものを感じた。
それは光一に対するもののようで、強いて言えば”恨み”いや・・・”嫉妬”に近いような・・・。
そこまで考えて光一は視線を外した。
心当たりがあったからだ、しかもつい先ほど、言葉の中に。

―――つい名前で呼んじゃったからな~・・・。

ちらりと兇を伺いすぐに視線を戻した。

―――おいおいおい、マジかよ。

横から感じられる兇の無言の圧力に何やら背筋に薄ら寒いものを感じてしまうのは気のせいではないだろう。
冷や汗を流しながら、話題を戻そうと光一が口を開きかけたときだった。

「関わるな。」

「へ?」

「危険だから関わるな。」

さっきまでの無言の圧力はすっかり消えうせ、今度は自分を気遣う兇の真剣な顔に一瞬気圧されそうになったが、光一は平静を装っておどけてみせた。

「おいおいおい、物騒だな~。」

「犯人はまだ捕まっていないんだ。」

「お~やっぱ、犯人探ししてるんだ!」

兇はしまったといった顔で光一を見た。

「んじゃ、俺も」

「だめだ」

「何でだよ?」

「危険すぎる。」

「はぁ~?お前一人じゃ危ねえだろ!男二人掛りなら何とかなるんじゃね?」

「そういう問題じゃない。」

「どういう問題だよ?」

「それは・・・」

兇の歯切れの悪い物言いに光一は苛立ち、兇に詰め寄った。

「北斗!」

光一が何かを言おうとした瞬間、若菜の悲痛な叫び声が聞こえてきた。
急いで声のするほうに駆けつける。
北斗たちが出てきた不動産屋から少し離れた路地の方で若菜が倒れているのが見えた。

「若菜!」

光一が血相を変えて若菜を抱き起こす。

「北斗が、北斗が変な奴に。」

震える指先で示したのは真っ暗な路地の先だった。
迷わずそこへ兇は走り出す。

「兇!」

光一の声も無視して奥へ奥へと走っていく。
追いついた先は行き止まりで、薄暗い街頭の先にコートを纏った男が立っており、その腕にはぐったりとした北斗の姿があった。

「その子を離せ。」

ゆっくりとした足取りでコートの男に近づきながら右手を差し出す。

「!!」

差し出された手の中のものに気づいたコートの男はくぐもった声を上げた。
その声を合図に辺りの空気が変質していく。
街頭の光はいつの間にか消え、兇とコート男の周囲が闇に侵食されていく。

「哀れな迷い子よ、闇に飲まれる前に我が導(しるべ)に従え!」

兇の手の中のものが淡い光を放ち始める。
その光と共鳴するように美しい鈴の音が辺りに響き渡った。
コート男は苦しそうに悶え始めたかと思うと、腕の中の北斗に手を伸ばした。

「やめろ!」

兇の叫び声と同時に鈴の音が一層強くなる。

「グ・・・が・・ギ。」

コート男が悲鳴にも似た声を出すと、その背後がぼこぼこと盛り上がっていきコートを引き裂いた。

そこから出てきたのは―――真っ黒い影。

うねうねと蠢きながら何体も出てきた黒い影達は、鈴の音が鳴る度に苦悶の表情を浮かべている。
その顔は闇のように漆黒で目と口の位置がぽっかりと空いたように青白く光っていた。
手や胴体のようなものはひょろひょろと長く、まるで紙人形のように薄っぺらかった。
兇はその黒い影達に向かって手の中の物を投げつけた。
すると、断末魔のような悲鳴を上げて四方に飛び散り、小さな黒いヒモのようなものが壁や柱の影に逃げていく。
黒い影達の気配が消えると辺りはしんと静まりかえった。

「何体か逃げたか。」

兇は悔しそうに眉間に皺を寄せた。
後に残ったのは引き裂かれたコートと、いつの間にか点いた街灯の光の下で横たわる北斗の姿だけだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いつもと違う日常

k33
ホラー
ある日 高校生のハイトはごく普通の日常をおくっていたが...学校に行く途中 空を眺めていた そしたら バルーンが空に飛んでいた...そして 学校につくと...窓にもバルーンが.....そして 恐怖のゲームが始まろうとしている...果たして ハイトは..この数々の恐怖のゲームを クリアできるのか!? そして 無事 ゲームクリアできるのか...そして 現実世界に戻れるのか..恐怖のデスゲーム..開幕!

終焉の教室

シロタカズキ
ホラー
30人の高校生が突如として閉じ込められた教室。 そこに響く無機質なアナウンス――「生き残りをかけたデスゲームを開始します」。 提示された“課題”をクリアしなければ、容赦なく“退場”となる。 最初の課題は「クラスメイトの中から裏切り者を見つけ出せ」。 しかし、誰もが疑心暗鬼に陥る中、タイムリミットが突如として加速。 そして、一人目の犠牲者が決まった――。 果たして、このデスゲームの真の目的は? 誰が裏切り者で、誰が生き残るのか? 友情と疑念、策略と裏切りが交錯する極限の心理戦が今、幕を開ける。

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

無能な陰陽師

もちっぱち
ホラー
警視庁の詛呪対策本部に所属する無能な陰陽師と呼ばれる土御門迅はある仕事を任せられていた。 スマホ名前登録『鬼』の上司とともに 次々と起こる事件を解決していく物語 ※とてもグロテスク表現入れております お食事中や苦手な方はご遠慮ください こちらの作品は、 実在する名前と人物とは 一切関係ありません すべてフィクションとなっております。 ※R指定※ 表紙イラスト:名無死 様

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/3/11:『まぐかっぷ』の章を追加。2025/3/18の朝4時頃より公開開始予定。 2025/3/10:『ころがるゆび』の章を追加。2025/3/17の朝4時頃より公開開始予定。 2025/3/9:『かおのなるき』の章を追加。2025/3/16の朝8時頃より公開開始予定。 2025/3/8:『いま』の章を追加。2025/3/15の朝8時頃より公開開始予定。 2025/3/7:『しんれいしゃしん』の章を追加。2025/3/14の朝4時頃より公開開始予定。 2025/3/6:『よふかし』の章を追加。2025/3/13の朝4時頃より公開開始予定。 2025/3/5:『つくえのしたのて』の章を追加。2025/3/12の朝4時頃より公開開始予定。

オカルト嫌いJKと言霊使いの先輩書店員

眼鏡猫
ホラー
書店でアルバイトをする女子高生、如月弥生(きさらぎやよい)は大のオカルト嫌い。そんな彼女と同じ職場で働く大学生、琴乃葉紬玖(ことのはつぐむ)は自称霊感体質だそうで、弥生が発する言霊により悪いモノに覆われていると言う。一笑に付す弥生だったが、実は彼女には誰にも言えないトラウマを抱えていた。

処理中です...