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エレノアは戦慄していた。

――どういうことかしら?これは……。

確か、あの街デートのあと掃除婦のおば様たちからランスロットに好意を持たれていると言われたのたが、そんな事は無いと確信した筈だった。

――それなのに、この状況はなんなのかしら?

エレノアは今、何故かランスロットと庭園を散歩するという事態に見舞われていたのであった。
彼にエスコートされながら訳もわからず庭園の中を歩かされ、時々話を振られるが内容が頭に入って来ないため愛想笑いを浮かべるので精一杯だった。

――なんで?どうして?私は今、こんな状況になっているの??

混乱したままチラリとランスロットを見ると、何故か彼は微笑んでいた

見なきゃ良かった……。

エレノアは、己の犯した行動に後悔する。
あんな表情を見てしまったら、先日のおば様たちの言葉が事実なのではないかと錯覚しそうになってしまう。

――いや、これは違うわ……そう!花が、花が綺麗だから喜んでいるのよきっと!!

エレノアは、うんうんと胸中で頷きながら再度ランスロットを盗み見た。

「今日の花は、また一段と美しく感じるな。」

エレノアが見たと同時に、話しかけてきた彼の言葉に鳥肌が立った。

――そ、そうね……き、今日は天気が良いから余計にね……。

エレノアが胸中で補足していると、またしてもランスロットが話しかけてきた。

「君と一緒だからかな。」

  ・
  ・
  ・
  ・

「いやーーーーーー!!頬を赤らめながら、こっちを見ないでーーーーーー!!!!」

彼がそう言いながら、こちらに微笑んできた次の瞬間、エレノアは我慢し切れず叫びながら脱兎の如く逃げ出してしまったのであった。







「間違いない、間違いないわ!!」

エレノアは自室に駆け込むと、テーブルに両手をついて泣きそうな声で呟いていた。

「いやっ、でも……ううううううう、ああ、でもあの顔はやっぱりそうなのかしら?いえ……でも、でも……そうだったら、どうしましょう……。」

がっくりと項垂れるエレノアの耳に、不意にあの時の言葉が蘇ってきた。

『奥様、坊ちゃんは奥様の事が気になっているんですよぉ。つ・ま・り、好きだって事ですよ!』



イーーーーヤーーーーー!!!



掃除婦たちの言葉が、エレノアの脳裏で何度も木霊していく。
それを振り払うように首を振るが、デートの時といい先程のランスロットの表情といい、思い当たる節が沢山あり過ぎて認めざる負えなくなってしまいそうだ。

「でも、もし本当に、わたくしの事を、す、好きになっていたら……わたし……わたくし……………困るわ!!」

エレノアは両手をついたテーブルをキッと見つめながら、はっきりと呟いたのであった。
そう、困るのだ本当に。
だって、だって自分は……

「だって、一年後には離縁するつもりなのよ!」

そう、エレノアは公爵との約束通り、きっかり一年後には離婚する気でいたのであった。
それまではとりあえず、この婚姻関係を我慢しようと思っていたのだ。
それなのに、ランスロットに好かれてしまっては離縁できないかもしれないではないか。
エレノアは、予定外の現状に頭を抱えた。
そして、ふと思いつく。

「ちょっと待って?私が離縁したいって事は、彼の方がもっと離縁したいのではないかしら?」

有り得ない話では無いだろう、だって彼は自分に対してかなり不満だった筈だ。

「そうよ、私のことをさっさと追い出したいはずよ!だって、だって初日に私のことをブスって言った人よ?しかも一緒の空気を吸うのも嫌だって言われた位だし……そうよ!これは罠なんだわ!!」

と、エレノアは青天の霹靂とばかりに閃いたのであった。
なんて事はない、彼はきっとさっさと自分の事を追い出したいのだ。
追い出したいがために、あんな嫌がらせをしているのではないか?とエレノアは結論付けたのであった。

「そうよ、あの街デートも侯爵家と伯爵家の格の違いを見せつけるためにやった事なんだわ。さっきの庭園での事だって、気持ち悪い台詞を吐いて私が音を上げて出て行くように仕向けたんだわきっと!!」

エレノアは力強い眼差しでテーブルを見つめながら、今までの出来事を推理していった。
そして確信する。

「これは罠だわ!さっさとわたくしを追い出そうとしてるのね。でも、公爵様との約束があるから私は出て行けない……少なくとも、あと一年は……。あと一年、婚姻関係を続けるには……そうよ!なら相手を徹底的に無視すればいいんだわ!!」

エレノアは、すっきりとした晴れやかな顔をあげながら断言したのであった。
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