裏ありイケメン侯爵様と私(曰く付き伯爵令嬢)がお飾り結婚しました!

麻竹

文字の大きさ
42 / 47
おまけ

侯爵と国王様の昔話

しおりを挟む
「おい、そのこお前。俺の妃にしてやろうか?」

「え?」

それが、僕とクリスとの初めての出会いだった。





侯爵家摘男、レオナルド・フェルディナードは現侯爵である父に連れられて、王宮へと赴いていた。
形式上は父の参内が目的であるのだが、国王にはレオナルドと同じ位の歳の王子がいるらしく、その話し相手に丁度良いと息子を従えての登城だったらしい。
そこで、レオナルドは迷子になってしまったのであった。
「付いて来なさい」と言う父の言葉に従い、長い廊下を従者に案内されながら歩く父親の後を必死で付いて行った。
しかし、まだ5歳のレオナルドには、大人の歩く速さに付いて行けず、気づいたら曲がり角を曲がった途端見失ってしまったのであった。

どこをどう歩いたのか、レオナルドは気が付くと広い庭園に出てしまっていたのだった。
半泣きで父の姿を探すレオナルド。
しかし広い庭には人っ子一人見当たらず、自分よりも背の高い薔薇が目の前に広がるばかりであった。
そこでレオナルドは、急に心細くなってしまった。

「男の子が簡単に泣くものではない」と厳しくしつけられていたレオナルドも、さすがに誰もいない広大な庭園に一人残されれば不安になるというものだ。
目の前に咲いている色とりどりの見事な薔薇も、この時ばかりはただの草にしか見えなかった。
何の慰めにもならない薔薇を見渡しながら、レオナルドはフルフルと肩を震わせ必死に涙を堪えながら誰か通りかからないかと心の中で祈っていた。

そんな時、近くの薔薇の群れからガサリと音がした。
レオナルドは思わずビクリと体を震わせ、堪えていた涙をぽろりと零しながら恐る恐る振り返った。
そこには鬱蒼と茂る薔薇の茎の他に、葉を綺麗に刈り取った垣根があった。
音はその垣根から聞こえてきていた。
ガサリ、ガサリとこちらに向かって段々近付いてくる音に、レオナルドは身を竦める。

だ、誰かがこっちに来ているの?

幼い思考で顔を引き攣らせながら見ていると、レオナルドの目の前で突然垣根が割れ、中から綺麗な顔立ちの男の子が現れたのだった。

「!!!」

突然現れた同じくらいの少年に、レオナルドは声も出せずに目を見開き固まる。
相手の少年も同じだったらしく、突然目の前に現れたレオナルドに驚き、口をポカンと開けて固まっていたのだった。
暫くお互い見つめ合った後、先に口を開いたのは垣根から出てきた少年の方だった。



「おい、そのこお前。俺の妃にしてやろうか?」



「え?」

突然そんな事を言ってきた少年の言葉に、レオナルドはぱちくりと空色の瞳を瞬かせた後、固まってしまったのであった。

この子は何を言っているのだろうと、レオナルドが言葉の意味を理解する前に、垣根から出てきた少年がレオナルドの手を、がしりと掴んできた。 驚くレオナルドに、少年は気にする風も無く、ぐいぐいと引っ張ってくる。

「え?え?」

訳が分からず少年を見ながら焦っていると、少年は頬を紅潮させながら、とんでもないことを口走ってきたのであった。

「父上と母上にお前との結婚を許して貰いに行くぞ!付いて来い!!」

レオナルドより頭一つ分程大きい少年は、そう言うとレオナルドをぐいぐいと引っ張って、宮殿の中へ連れて行ってしまったのであった。





そして数分後――

瞳をキラキラさせながら、何故かレオナルドの父親がいる大きな広間に連れて来られたかと思ったら、広間の奥にいる王冠を被った男の人に垣根から出てきた少年は、開口一番こう叫んできたのであった。

「父上!私は、この者と結婚したいと思います!」

そう言いながら、頬を紅潮させて言ってきた少年を驚いた顔で見てきたのは、王冠を被った男の人の方だった。
いや、レオナルドの父もこちらを驚いた顔で見ていたのだが、少年の背後に自分の息子が連れられているのを見た侯爵は、何故か青褪めた顔をしていたのだった。
少年の懇願に、広間の中はしんと静まり返る。
そこで、ようやく場の空気に気づいた少年が、不思議そうな顔をしながら首を傾げてきた。

「父上、どうかされましたか?私の顔に何か?」

きょとんとしながら首を傾げる少年に、父親である国王が気まずそうな顔をしながら答えてきた。

「クリスティンよ、そのこの顔を今一度よく見て見なさい。」

「え?」

クリスティンと呼ばれた少年は、腕を引いて連れて来たレオナルドを振り返ると顔をまじまじと見てきた。

「美しい顔をしています。この子なら将来とても美人になるでしょう。ですから!」

「もっとよく見なさい。できればその子の着ている服もな。」

クリスティンの言葉を遮って言ってきた父親に、彼は訝しそうな顔をしながらレオナルドを再度見てきた。
そして、まじまじと全身を隈なく見た後、彼はピシリと固まったのであった。
それもそうであろう、レオナルドの来ている服は貴族の男の子が良く切る服装なのだ。
同じ年頃の令嬢の様に、ドレスを来ているわけでもければ、髪も長いわけではない。
見た目は、ちょっと女の子のような顔立ちをしてはいたが、レオナルドは正真正銘の男の子なのであった。

「……ち、父上……こ、この者は、まさか……」

「うむ、気づいてくれたようで助かったぞ。というわけで、結婚の話は無しじゃ。」

レオナルドの姿に、ようやく気付いたクリスティンは、油の切れたブリキ人形のような動きで父である国王を振り返った後、そう言ってきた。
そして、クリスティンが間違いに気づいた事を国王は、やんわりと窘めてきた。
さすがは、この国を治める王様だけあって、この程度の事では動じないらしい。
微笑みながら言う国王の顔には、「大事な会議中に面倒臭い事を言ってくるなよ?」という圧も加わっていたのだが、幼い子供達にはそこまでの空気は読めず、逆に周りにいる大人たちが顔を青褪めていたのであった。
しかし、この親にしてこの子ありと言うべきか。
クリスティンも負けてはいなかった。
父親である国王に、自分の非を認め謝罪してきた彼は、何故かレオナルドの方にくるりと向きを変えると、こう言ってきたのであった。

「そうか、男だとは気づかず失礼した。では、お前は今日から俺の子分になれ!」

と、声高らかに命令してきたのであった。
そして

「父上、私は将来この国を背負って立つ王として、見事この者を立派な部下にしてみせましょう!」

「そうか……では、他の部屋で遊んでくるがよい。」

張り切るクリスティンに、国王は疲れたような声でそう言うと、近くの従者に目配せする。
察した従者や侍女達が、さあっと捌けると王子のお付きの者らしい従者と騎士がクリスティンに近づき、レオナルドも一緒に別の部屋へと案内され広間を出て行った。
そして、静かになった謁見の間では――

「息子が面倒をかける……。」

「……畏まりました。」

国王と侯爵は、そんな言葉を交わしつつ深い溜息を吐いていたのであった。



そして数年後――

レオナルドはクリスティンの宣言した通り、国王を守る立派な部下になった。
花形の近衛騎士団の副隊長という名誉な役職にも就けた彼であったが、一つだけ困った事があった。
それは、主君であるクリスティンが、時々レオナルドを揶揄ってくる事だった。
あの時、クリスティンの勘違いで求婚されてしまったたレオナルドは、女と間違われたことが恥ずかしかったらしく、当時の話をすると半泣きで「やめてください」と懇願してくるようになってしまった。
その反応は大人になった今でも時々出てしまうのだが、その度に城の従者や侍女達が、毎回頬を染めて悶えている事をレオナルドは知らなかった。
そして悪戯好きな元王子は、従順で真面目なレオナルドの性格を知ってからは、事ある毎にあの時の話を持ち出しては揶揄ってきてはレオナルドを困らせていたのであった。



おわり


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

レオナルドとクリスティンの馴れ初め(笑)
幼い頃から相変わらずな二人でしたw
最後までお読み頂きありがとうございました。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】その手を放してください~イケメンの幼馴染だからって、恋に落ちるとはかぎらない~

紺青
恋愛
辺境の村に住むルナには、幼馴染がいる。 幼馴染のダレンは体格よし、顔よし、剣も扱えるし、仕事もできる。その上愛想もよく、村の人気者。 村になじまない色彩をもつため、家族からも村人からも遠巻きにされるルナを唯一かまうのはダレンだけだった。 しかし、ルナは自分にだけ、意地悪な面を見せるダレンが苦手で嫌いだった。 村やダレンから逃げ出したいと思いつつ、そんなことは無理だと諦めていた。 しかし、ルナはある日、「人喰い魔女」と呼ばれる薬師のおばあちゃんと出会って…… 虐げられてもくじけない頑張り屋の女の子×美人なチート魔術師の冒険者ギルド職員のカップルが紆余曲折を経て幸せになる物語。 ※外見による差別表現、嘔吐表現がありますので、苦手な方はご注意ください。 ※なろう、カクヨムにも掲載しています。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで

あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。 怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。 ……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。 *** 『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』  

【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください

楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。 ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。 ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……! 「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」 「エリサ、愛してる!」 ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。

ラディ
恋愛
 一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。  家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。  劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。  一人の男が現れる。  彼女の人生は彼の登場により一変する。  この機を逃さぬよう、彼女は。  幸せになることに、決めた。 ■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です! ■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました! ■感想や御要望などお気軽にどうぞ! ■エールやいいねも励みになります! ■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。 ※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。

処理中です...