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本編

第二十一話

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なんだかんだと色々あったが、カレンとレオナルドは無事にフェルニナード邸に帰宅していた。

――ふう、今日は色々ありすぎて疲れたわ……。

玄関ホールで出迎えた執事のグレイスの顔を見ながら、ほっと溜息を吐くカレン。
王宮での遣り取りで、誰も怪我をしていなくて良かったと胸を撫で下ろす。

「カレン、今日は疲れたでしょうから、もう休んで結構ですよ。」

グレイスと話をしていたレオナルドが、突然振り返ってそう言ってきた。
そのありがたい言葉に、カレンは素直に頷く。

「はい、では先に休ませて頂きます。」

カレンは退室の挨拶を済ませると、部屋に向かって歩き出した。
そこへ、レオナルドがまた声をかけてきた。

「明日、また今後の事について話し合いましょう。」

カレンの右手にある箱へ視線を向けながら、そう言ってきた。

「はい。」

カレンは短く返事をする。

――明日は色々と忙しくなりそうね。

そう胸中で呟くと、今度こそ部屋へと向かったのだった。





「今日は休みを取りましたので、朝食後にサロンへ来てください。」

レオナルドは昨夜は本邸に泊まっていたらしく、朝起きると既に食堂の自分の席に着いていた。
朝の挨拶を済ませたカレンに、開口一番レオナルドはそう告げてきた。
カレンは素直に頷き朝食を摂った後、そのままサロンへと向かった。



「さて、今後の事ですが……。」

サロンのソファに優雅に座り、侍女達が淹れた紅茶を飲みながら、レオナルドは話をはじめた。

「今まで通り暮らしてくれて結構です、もちろん夫婦として。」

何故か含みを持たせるように、にこりと笑いながら言ってくるレオナルド。
カレンはレオナルドの話を聞きながら、何故かソワソワと落ち着き無く身じろぎしていた。

――それはいいんですけど、何で隣に座ってるのこの人!?

カレンはカレンで、今それどころではなかった。
サロンに移動しソファに座ったカレンの隣に、何故かレオナルドが当たり前のように座ってきたのだ。
サロンには、二人掛けのソファがテーブルを挟んで向かい合わせに設置されており、いつもはお互い別々に座っていたはず。
なのに今日は何故か隣に座ってきたのだ。
元々男性と、こんなに密着して座った事が無いカレンは、大いに動揺した。
隣の気配に胸の辺りが、ぞわぞわする。
少し息苦しいその感覚に、居心地の悪さを感じて隣のレオナルドを盗み見た。
すると、彼と目が合ってしまった。
思わず、ばっと視線を逸らす。

「どうしました?」

レオナルドは、カレンの異変に気づき顔を覗きこんできた。
密着する肩と、レオナルドの息遣いが聞えてくるようで、カレンはさらに動揺する。

「な、なんでもないです……。」

蚊の鳴くような小さな声で抗議したが、レオナルドは益々首を傾げると心配そうに見てきた。
その視線に居た堪れなくなって、カレンはキッとレオナルドを見上げると抗議の声を上げた。

「な、なんで今日は隣なんですか?い、いつもはそっちなのに……。」

カレンがちらりと向かい側の席を見ると、レオナルドも釣られてそちらを見た。
きょとんと、本当にきょとんと首を傾げながら不思議そうにしている。
そしてようやく言葉の意味に気づいたレオナルドは、若干頬を染めながらそっぱを向いた。

「と、特に深い意味は……。」

ようやく搾り出した言葉に、レオナルドは内心で嘘だと白状した。
昨夜、宮廷でカレンの隣に座ったとき妙に居心地が良かった。
これまでどんな美女達の隣に座っても、得られなかった感覚だった。
彼女の隣はほっと安心するのだ、そこが己の場所だと錯覚してしまう程に。
その居心地の良い場所に居たくて、無意識のうちに隣に座っていたらしい。
カレンに指摘されて、今初めて気づいたレオナルドは、何故か恥ずかしくなってしまった。
そんな心の動揺を悟られたくなくて、顔を逸らしてしまったのだけど。

――何を少年みたいな事をやっているのだ私は。

これでは初めて恋した子供みたいではないか、と胸中で己に突っ込むと、はた、と固まった。

――い、いいいいいい今、俺は何て思った?

思わず素が出る。
同時に心臓が、ドクンドクンと早鐘を打ち始めた。
それは痛いくらいに。
思わず胸を押さえたレオナルドに、気づいたカレンが慌てて声をかけてきた。

「どうしたんですか?どこか具合でも悪く……。」

「い、いいえ……だ、大丈夫です……。」

先程まで視線を逸らされていたのが嘘のように、カレンはレオナルドに密着し心配そうに顔を覗きこんできた。
これでは先程と立場が逆だ。
お互いそんな事には気づかず暫くの間、近付く離れるの攻防を続けるのだった。
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