僕のおつかい

麻竹

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第一章【出会い編】

62.一難去ってまた一難

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「な、なあ、何してるんだ?もう夕方だぞ!?」

宿屋に戻ったアランは困惑していた。
闘技場で優勝し、ほくほく笑顔で宿屋に帰ると、マクレーンが何故か旅支度をしていたからだ。
アランの質問に、マクレーンはぎろりと睨んできた。

「……すぐ街を出るからです。」

あの後、闘技場で優勝したアランを尻目に、ウルガは「早い所逃げた方がいいぞ。」と忠告し、アランに声をかける事無く立ち去ってしまった。
マクレーンはウルガの忠告通り、喜ぶアランを連れて宿屋に大急ぎで戻り、逃げる準備をしていたわけなのだが……。

「な、何でだ?」

アランはきょとんとした顔で、逆に問い返してきた。

「何で?何でって、アランさんが優勝しちゃったからですよ!!」

そんなアランに、マクレーンは激昂する。
何やってんですか!!と、声を荒げるマクレーンにアランは、ぱちくりと目を瞬いた。

「それの何処がいけないんだ?」

心底意味がわからないと首を傾げるアランに、マクレーンはキッと視線を向けると、何も言わず人差し指でそれを指した。

「ベルト?」

「違います、その賞金です。」

アランの手の中には腰を覆う太いベルトと大きな賞金袋があった。

「その賞金を、闘技場の人達が取り返しに来る前に、ここを出ないと危険なんです!」

マクレーンはそう言うと、止めていた手を動かし始めた。

「ちょ、ちょっと待てって、これは俺が優勝したから貰ったもので」

「ここの闘技場の噂を知らないんですか?外から来た人間が優勝した時は、次の日には身包み剥がされて無一文になってるんですよ。」

「はあ?なんだそれ?」

「噂では、八百長が行われているという話です。ですから毎回優勝するのは同じ人、いたでしょう?ザンギエフとかいう人。あれは闘技場が用意した人間だそうです。」

そう、闘技場はトーナメント戦になっており、最後まで勝ち抜いた相手は最後に、前回優勝者と戦うシステムになっている。

それがザンギエフという人物で、彼はそれなりに強いらしいが、万が一負けてしまった場合は、闘技場側が秘密裏に優勝者を闇に葬り去るのだそうだ。
そして奪った優勝賞金は、また闘技場の賞金として何食わぬ顔で使われているんだとか。
この話はここへ来たとき、バラックには初めて来たというマクレーン達を案じて、協会の人が教えてくれた話なので間違いない。

「だ、だけど、それが本当だったとしても教会が管理する宿屋まで来ないんじゃ?」

「甘いですねアランさん。教会の人はそこまで保障できないと言っていました。」

「…………」

ようやくアランも理解したのか、静かになった。
そりゃそうだろう、協会の管轄といっても戦闘経験も無い神官職の人たちなのだ、盗賊紛いのバラックの住人達に襲われたらひとたまりも無い。

「できれば、そのお金も闘技場側に返した方が良いですよ。あの人達、相当執念深いそうですから。」

「ええっ!せっかく勝ったのに……。」

マクレーンの忠告に、アランが悲痛な声を上げる。

「身包み剥がされるよりは、ましでしょう?」

そんなアランに、にべも無くマクレーンが言う。
そんな遣り取りをしながらも、手を動かしていたマクレーンは、荷造りが終わると愛用の肩掛け鞄を持って部屋を出る。
アランも渋々ながらもそれに続き、教会の宿には事情を説明してチェックアウトしたのだった。
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