虹色の未来を

わだすう

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39,会談

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 暖かな日差し注ぐウェア城。国賓用の応接間ではある国との会談が行われようとしていた。大理石の重厚なテーブルに新メンバル王を中心にその側近数名が、向かいにはウォータ大臣を中心に外交担当大臣や補佐官が着席している。そして、彼らを見下ろすように若きウェア王が上座の立派な椅子に鎮座していた。両脇には王室護衛長アラシと王付き護衛のライカが立っている。

「こんなに早く会談の場を与えてくださり、ありがとうございます、陛下」

 メンバル王が立ち上がり、ウェア王にうやうやしく頭を下げる。メンバル王国からは2か月ほど前の即位1周年記念式典で初対面して以来、何度も会談依頼があり、今日、実現したのだ。

「…」

 ウェア王は黙ったまま、浅くうなずく。

「メンバル王陛下。お話しした通り、ウェア王陛下との会話は出来ませんのでご承知おきを」

 ウォータ大臣が念を押して言う。

「はい、承知しています。それでも、お礼は申し上げたかったので」

 メンバル王は大臣に顔を向けてハッキリ言った後、もう一度ウェア王を見てニコッと笑む。ウェア王…否、身代わり護衛の蓮は一瞬妙な気分になるが、表情には出さず、また浅くうなずいた。






 その夜。ウェア王の自室から夕食の食器を片付けたカートを押し、使用人が頭を下げて出て行く。

「今日はお疲れさま、レン」
「ん…」

 食後に出されたフルーツを口に運びながら、ウェア王…こちらは本物、が蓮をねぎらう。蓮は浮かない顔で自分のフルーツを王の前へ押し、王は「ありがとう」とキラキラした笑顔で受け取る。

「僕も父様みたいに、他国の王様と仲良くなれるかな。本格的な外交は初めてだから、ドキドキしちゃうよ」
「ふーん…」

 基本、ウェア王が直接外交を行なったり、他国の者と懇意になったりすることはない。前ウェア王と前メンバル王の関係は例外中の例外だ。しかし、元々メンバル王国は友好国であり、新メンバル王が先代のような関係を望んでもいる。
 そこで、今日の会談は表向き、メンバル王国との友好関係や政治的な方向性を確認するものだが、裏ではメンバル王の本心を探るため…信用出来る人物か見極めるために行なった。彼がウェア王の金眼強奪はもちろん、その力を利用したいがために近づいたような素振りや考えを見せれば、即刻友好関係を切ることになる。

「ね、新しいメンバル王はどんな人?レンはどう思った?」

 と、王はフルーツをほお張りながら聞く。

「んー…多分、悪ぃヤツじゃねーよ。けど…」
「?」

 言いよどむ蓮に、首をかしげる。難しい政治の話は蓮にはわからないが、メンバル王に金眼やその力を奪ってやろうという悪意は全く感じなかった。側近らも含め、本気で友好関係を望んでいると思えた。だが、何とも言えない奇妙な雰囲気を感じるのだ。

「俺は苦手なタイプっつーか…何か、うまく言えねー」

 と、蓮は片手で頭を抱えてテーブルに伏せる。

「そう…やっぱり、僕が直接外交するのは止めた方がいいかな」

 ハッキリしないが好感触ではないらしい蓮の様子に、王は顔を曇らせる。

「俺の意見だけで決めんなよ」

 単純に、蓮がああいった新進気鋭な団体代表タイプが苦手なだけかもしれないのだ。せっかくの友好関係をそれで切るのはしのびない。

「うん、でも…レンは苦手なんでしょう?無視は出来ないよ」
「お前も一度会ったり出来ねーの?」

 以前行なった婚約者選びのように、身代わりの蓮とだけでなく、王本人とも面会して見極めるのが手っ取り早い。

「出来るよ。でも、何回か来てもらって、レンや大臣たちと面会重ねて…本当に信用出来るってわかったら会えると思う。うーんと、早くて2、3年後かな」

 父様もそうだったらしいからと、王は指折り話す。念には念を入れるウェア王国らしいやり方だが。

「…ソレ、会わせる気あんのか」
「あははっ、そうだよね」

 呆れる蓮に、王は苦笑いした。















「学校祭」

 と、蓮はヒナタに学校から帰って来るなり渡されたプリントを棒読みする。
 学校祭は今週末、ヒナタの通うシューカ街の学校で行われる大きな行事だ。初等部から高等部まで全校生徒参加の、文系理系体育系問わず様々な出し物や競技を披露するものらしい。関係者だけでなく、外部の者も見学出来る。

「レン、来てくれるだろ?!」
「…」

 ヒナタは固まっている蓮の腕に抱きつき、揺さぶる。学校を休みがちだったヒナタにとって初めての大きな行事であり、大好きな蓮に自分の頑張る姿を見て欲しいのだ。

「学校祭かー。懐かしいな!」
「ええ」

 当然のように蓮の自室に入り浸っているクラウドが言い、同じくいるシオンもうなずく。ふたりはその学校の卒業生で、もちろん学校祭の経験者だ。

「だ、だめなのか?レン…」
「あー…」

 高校へまともに通わず、中退した蓮にとっては大きな学校行事など面倒、というイメージしかない。ウルウルした茜と金の瞳で見上げるヒナタと目を合わせられず、うなりながら顔をそらす。

「その日はご公務もないですし、良い気晴らしになるのではないですか。それに、陛下へのお土産話が出来ますよ」
「…」

 シオンの言葉に、蓮はフッと王の笑顔が浮かぶ。唯一無二の友達は国民の幸せな暮らしを常に願い、知りたがっている。学校行事の話も喜んで聞いてくれるだろう。

「行くよな、レン!俺も付き合ってやるよ」
「私もお供しましょう」
「…ん」

 クラウドとシオンが背を押すと、蓮は表情を和らげてヒナタの頭にポンと手を置く。

「わぁ良かった!ありがとう、レンっ!」

 ヒナタはぱあっと笑顔になり、蓮の腰に抱きついた。








 学校祭当日は朝から快晴。絶好のお祭り日和である。普段学校に遅刻しがちなヒナタだが、今日は張り切って時間どおりに登校していた。蓮はというと、当日になって面倒くさいと再びゴネたが、シオンとクラウドに説得されて結局シューカ街にやってきていた。
 街の学校は以前見学に来た時のように門が閉ざされておらず、開放された門へ多くの人たちが吸い込まれていく。その人々に混ざり、蓮たち3人も敷地内へ入った。

「初等部はあちらの校庭ですね」
「ヒナタは何やるんだって?」
「徒競走と玉入れだそうです」

 学校祭案内のパンフレットを見ながら話すシオンとクラウドの会話を聞き、蓮は疑問符が浮かぶ。

「それ、運動会じゃね?」
「へぇ、お前の世界ではそう言うのか?学校祭で初等部は体育系競技やるのが普通だぞ」
「あ、そ…」

 そう言えば、ここは異世界なのだ。元いた世界ででも国や地域によって学校行事のスタンダードは異なるだろう。蓮は何が行われようとツッコミはしないと決めた。



「ねぇ、見て見てっ」
「わぁ~素敵…っ!」
「スゴ…かっこいい…」

 と、校庭を目指して歩く蓮たち3人を見るなり、学生らしい女の子たちがほほを赤く染める。やがて、それに触発されるように、周りがざわざわと色めき立ってくる。
 整った顔立ちの多いウェア人だが、彼ら3人はその中でも群を抜いて美しく、見惚れるような容姿である。注目の的となってしまうのは必然だろう。

「あ、あの…っすみません!」
「ん?」

 女生徒たちの中のひとりに話しかけられ、クラウドが振り向く。蓮とシオンも歩を止め、彼女たちはキャッキャと歓喜する。

「学校にご家族がいらっしゃるんですかっ?」
「ああ、まぁそうだな」
「もし良かったら、私たちと一緒にまわりませんか…っ!」
「はぁ?」

 何故見知らぬ女子に誘われるのかと、クラウドは呆気にとられる。

「はぁ…」

 蓮はまたナンパか面倒クセーとため息をつく。王と街を歩けば大体そうなるので慣れている。

「ちょっと失礼します」

 そこへ、彼女たちより少し年上だろうか、別の女性たちが割り込んでくる。

「こんな騒がしい人たちとより、私たちとゆっくり見てまわりませんか?」
「そうね、その方が落ち着いていけますよ」
「な…っ何なの?!私たちが先に声をかけたのに!!」
「そっ、そうよ!そうよ!」

 馬鹿にするかのように言われ、彼女たちはカッとして怒鳴り返す。

「お、おいおい…こんなとこでモメるなよ。俺たちは誰とも…」

 一触即発の事態になってしまい、クラウドは焦って収めようとするが

「あら、いい男ばっかり!」
「私らがおいしいものおごってあげるよ!」
「は?!ちょ、ちょっと待っ…」

 さらにニコニコと気前の良い年配の女性たちが乱入し、収拾がつかなくなってくる。

「先、行くぞ」
「はい、そうしましょう」

 騒ぐ女性たちの人だかりから抜け、歩いていく蓮にシオンがしれっとついていく。

「おいコラ!!この状況で置いて行くなぁああ!!」

 それに気づいたクラウドが彼女たちの中から叫んだ。

 彼らの周りを急な風が吹き抜け、蓮の長い前髪がなびいてかわいらしい顔立ちがあらわになる。今度はそれを見た男子学生たちが足を止める。

「お、超かわいいコ!」
「ねぇキミ、俺たちと遊ぼうよ」
「あ?」
「かぁわいい~!」

 下心丸出しで話しかけ、見上げてくる蓮のさらなるかわいらしさに感激する。

「申し訳ありませんが」
「?!」

 しかし、頭上から降ってくる声と威圧感に、一変、彼らはゾっとする。

「この方に、近づかないでいただけませんか」

 シオンは蓮の肩を抱き、彼らにきれいな笑顔を向ける。見惚れるような美しさのはずなのに、失神しそうなほどの恐ろしい殺気。

「ひ…っ?!」
「す、すみませんでしたぁあっ!!」

 彼らはすくみ上がり、半泣きで走り去って行った。
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