虹色の未来を

わだすう

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37,約束

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「レン様、お帰りなさいませ!」
「書庫にお入りにならないようお願いします!」

 書庫を出ると、走って来たふたりの護衛が元気に頭を下げる。

「るせー、クソマジメども」

 蓮はどいつもこいつもしつこいと、顔をしかめる。

「ノーム、代わってくれてありがとう」
「勤務明けに悪かったな。助かった」
「いいえ、全然」

 護衛たちに礼を言われ、ノームははにかむ。彼らはヨイチの見張りが任務で、少しの間だけとノームに代わってもらっていた。

「レン様ぁああ!!」

 そこへ、アラシが泣き叫びながら走って来る。

「ここにおられたのですか!ウォータ大臣がお待ちですよ?!」

 迎えに来たアラシと共に異世界からやって来た蓮は、城に着くなり王に会いたいと執務室へ直行してしまった。アラシは仕方なく逢瀬が終わるのを待っていたのだが、蓮はいつの間にか王の執務室から消えていた。慌てて探し回り、やっと見つけたのだ。

「知らねー」

 蓮は面倒くせーと、更に仏頂面になる。

「大臣の執務室ですか?それなら、私が付き添いしますよ」

 と、ノームが手を挙げる。

「しかし、君はもう勤務明けだろう?」
「アラシさんこそ、休憩時間すら取れていないじゃないですか。付き添いしたら、私も休みますから」

 さすがに勤務外の者に頼むのは気が引けるが、ノームは食い下がってくる。

「ね?レン様」
「…勝手にしろ」

 ニコッと笑いかけられ、付き添いなどどうでもいい蓮はふいっと顔をそらした。








「失礼しました」

 ノームはにこやかに頭を下げ、ウォータ大臣の執務室を出る。

「相変わらずひどい態度だね、レン。アラシさんがかわいそうだよ」
「あ、そ」

 今回の公務について説明している間、蓮はわざとらしいほどのうわの空だった。ウォータにしたら腹立たしい以外の何ものでもないだろう。それを毎回フォローしなければならない護衛長が気の毒だ。

「ところでさ、約束覚えている?」
「あ?」
「僕が護衛に復帰したら、キスしてくれるって」
「…忘れた」

 蓮はついに来たかと思いつつ、素っ気なく言う。

「嘘。覚えているくせに。約束は守ってよね」

 ノームは前をスタスタ歩く蓮の手をギュッと握る。

「…っか、考えてやるって言っただけだろ!」

 蓮はビクッとして、ノームの手を乱暴に振り払う。彼に触れられると、どうしても以前手ひどく犯されたことを思い出す。

「あは、やっぱり覚えていたね」
「…」

 ノームは反撃せず、嬉しそうにはにかむ。

「僕、前みたいに手荒にしたくないんだよね。レンからしてくれるとありがたいんだけどな」
「す、するワケねーだろ…っ」
「えー?じゃあ、どうしたらその気になってくれるの?」
「や…ヤリてーなら…っ殴るか、縛るかすりゃいーじゃねーか…っ!」

 蓮はギロッとノームをにらむ。けれど、大きな黒い瞳は潤み、握った拳は震えている。

「…っ」

 以前のノームなら、蓮のこんな強気な態度が面倒でしかなかった。でも、今はズキンと胸が痛む。キスをして欲しいだけなのに、強姦されると思っていること。震えるほど怖がっていることがつらい。

「だからさ、手荒にしたくないって言ったじゃない。レンが素直に約束だからって、求めてくれれば…僕だって…そんなに…」
「…?」

 前のように強引に襲わず、だんだんと笑顔がゆがみ、言葉が尻すぼんでいくノームを、蓮はいぶかしむ。

「あー!!ダメだ!!」
「?!」

 急に叫ばれ、蓮は声も出せずに驚く。

「我慢するつもりだったけど、無理!!」
「う…っ?!」

 ノームは蓮の肩をつかんで廊下の壁にドンと押し付ける。そして、困惑する蓮の唇を唇でふさいだ。

「んんーっ!!」

 脇腹を叩き、ジタバタと抵抗する蓮に構わず、深く唇を重ね、舌をねじ込む。久しぶりに味わう愛しい者の甘い唇に、全身が痺れるほど歓喜する。息をする余裕もなく、むさぼるように柔らかな唇と舌に吸い付く。
 やがて蓮の抵抗はゆるみ、黒コートをギュッと握って半ば諦めたかのようにノームのキスを受けていた。

「ん、はぁ…っ!」
「は…はぁ…っ」

 唇を離し、お互いまともに出来ていなかった呼吸を整える。蓮の潤んだ大きな瞳と赤らむほほ、濡れたぷっくりとした唇があまりにかわいらしく、ノームはゾクゾクと震えがくる。

「はぁ…レン…!」

 死ななくて本当に良かった。心底そう思い、快感と酸欠で崩折れそうになっている蓮を抱きしめた。

「…」

 やっぱり今日のコイツは変だ。人を性玩具かのように犯し、あざ笑う腹黒さはどこへ行った。蓮はぼぉっとする頭で思いながら、彼に身体を預けた。
 少しして、ノームはハッと我に返る。柄にもなく必死に唇をむさぼり、抱きしめてしまった。自分はどんな顔をしていただろうか?一気に恥ずかしくなって、顔が上気する。

「さてと!」
「イっ?!」

 ごまかすように蓮の肩をつかんで、身体から勢いよく離す。後頭部が壁に当たり、蓮はうめく。

「んーまぁ、約束とは少し違っちゃったけど、いいってことにしようかな」
「ああ?」
「じゃあね、レン」

 痛む後頭部に手をやる蓮と目も合わせず、ノームはサッと手を振って早足で行ってしまう。

「…何なんだ、アイツ」

 ひとり残された蓮は疑問符いっぱいでズルズルと壁を背に座り込んだ。





「レン…?」

 来訪しているはずの蓮を探していたシオンは、廊下の端で彼がぐったりと座り込んでいることに気づいた。血相を変え、慌ててかけ寄る。

「レン!どうなさったのですか?!」
「ん、あー…別に」

 厄介なのが来たと思い、蓮はシオンを見上げる。

「そのような状態で何もなかったはずないでしょう。お怪我はありませんか」
「ねーよ」

 シオンはあきれつつ、腰を上げた蓮の手を取って立ち上がらせる。赤らんだほほと濡れた唇をぐいっと拭う様を見て、何があったか勘づく。服の乱れがないので犯されてはいないようだ。しかし、蓮が腰砕けるほどのキスを、こんな場所で出来る者はほぼ限られる。

「レン、公務のご予定は明日からですよね」
「ああ」
「では、今夜は私の部屋へお泊まりください」
「あ?!んでだよ…っ」

 あからさまな『今夜は寝させない』宣言に、蓮はぎょっとする。

「よろしいですね」

 と、シオンは蓮の手の甲へキスをし、きれいな笑顔を浮かべる。

「…チッ」

 拒否が無意味なのは分かっている。蓮は舌打ちした。








 カーテンで昼間の明るさを閉ざし、薄暗いシオンの自室のベッド上。蓮はシオンに組み敷かれ、唇を合わせていた。

「む…!ん…うぅ…っ!」

 腫れそうなほど何度も唇を吸い、舌を絡ませ、混ざりあうお互いの唾液が濡れた音を奏でる。その合間に、ほとんど呼吸の許されない蓮の呻く声が混ざる。それでも、苦しい以上に気持ちが良く、ビクビクと身体を震わせながら蓮はシオンの唇にすがる。
 てっきり抱かれるのは夜になってからと思っていたのだが、部屋に入るなり押し倒してきたシオンの余裕のなさを見て、コイツ、ノームのことに気づいているなと思う。しかもこのしつこさは彼の痕跡を必死に消そうとしているかのようで。相変わらず大人げないとあきれる。

「んぐぅ…っ?!」

 蓮の考えていることがわかったのか、とがめるようにシオンの膝がグッと股間を押す。反応し始めているそこへの突然の刺激に、ビクンと蓮の腰が跳ねる。潰す気かと思うほど強くそこを押されても、両手と唇を固定されていては逃れられない。

「うぅー…っっ!」

 快感を上回る苦痛と恐怖で、潤む瞳から涙があふれる。

「…っあ!は、ふぁっ!」

 すると、シオンの膝と唇が急に離れ、解放された蓮はブルブル震えながら大きく息を吐く。

「痛かったですか」
「はぁっ!はっ!あ、当た、り前だろ…っ!」

 やっと呼吸をしながら、冷静に聞いてくるシオンをにらみつける。唇がヒリヒリするわ、股間が痛いわでぼろぼろと涙がこぼれる。

「それならば、何故ここはこんなになっているのでしょう」
「あ…っ?」

 シオンの長い指が蓮のジーンズのボタンを外し、下着ごと引き下ろす。かたい膝で押しつぶされ、痛かったはずのそこは萎えるどころかさらに硬く反り返っている。

「ああ、レンはこのくらい痛くする方がお好きなのでしたね」
「いぃっ?!」

 竿を潰さんばかりの力でぎゅうと握られ、悲鳴があがる。神経の集まる部分から激痛が全身を走り、ぎくりと硬直する。

「くぁっ?!あ、ヤメ…っ!痛…!!」

 そのままの力でそこを扱かれる。皮膚を剥がれるように痛くて、蓮はシオンの手を押さえるが止めてはくれない。

「ほら、もうイキそうですよ」
「やだ…あぐ、ぅっ!シオン…っ!」

 痛いのに、何故先走りがあふれ、ますます熱く硬くなるのか。そんな自分が嫌でどうしようもなく、泣いて懇願しながら悶えた。
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