虹色の未来を

わだすう

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33,復帰

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 蓮は王の指示で医師らと相談もしてから、王の自室へ移った。あんなに拒絶していた食事を、王となら口にすることが出来た。そして、同じベッドで抱き合って眠った。
 身体が小さくなったせいか、華奢だと思っていた王をとても大きく、たくましく感じる。もしかしたら身体だけでなく、心も変わってしまったのかもしれない。でも、彼のそばにいられるのなら、それでも構わないと思う。
 もぞっと身じろぐと、目を開けた王と目が合う。神々しい金色の、優しい眼差しに愛しさがあふれる。お互い引き寄せ合うようにキスを交わし、眠りに落ちた。






 翌朝。蓮は目を覚ました。昨日と違い、すこぶる気分がいい。王と一緒に過ごしたからだろうか。目の前の気持ちよさそうな彼の寝顔を見て、身体を擦り寄せる。すると、昨日までの身体の違和感がないことに気づいた。

「…っっ!!」

 大きな乳房がなく、鍛えて引き締まった胸筋と腹筋、肩と腕も男らしさを取り戻している。下のスウェットをのぞけば、見慣れた男の証がある。

「ん~…レン…?」
「ティル…っ」

 目を覚まし、むくりと起き上がった王の方をバッと向く。

「治った…!!」
「んえ?」

 寝ぼけ眼の彼をガバっと抱きしめた。例のクセで上半身裸の蓮の胸筋に顔を押し付けられ、王はだんだんとはっきりする頭で、今どんな状態か理解していく。

「う…にょぅわわわあぁっ?!!」

 王は男女関係なく、他人の肌を見るのも触れるのも苦手である。沸騰しそうなほど顔を真っ赤にした彼の、奇妙な叫び声が響き渡った。










「んだ、ソレ…」

 ウォータ大臣の執務室。首の負傷で療養中のアラシに代わり、シオンと共に訪れた蓮は性転換症についての調査結果を聞き、絶句していた。この前例少ない奇妙な病の治療法は、罹患者を『愛する者のキス』だと言うのだ。あまりにメルヘンチックな方法に、おとぎ話かよと心の中でツッコむしかない。

「まことに信じ難いが、数少ない症例を調べた結果だ」

 ウォータも疲れ果てた表情でため息をつく。

「君にはあのまま帰省してもらい、ご家族にご協力いただこうかと思っていたのだが…。この世界にも君を愛する者がいたのだな」

 何であれひと安心だと、笑う。

「…ふーん」

 『愛する者のキス』か。その効き目がいつ出るかは個人差があるらしい。蓮は指先で唇に触れ、昨日、誰に…いや、何人にされたっけと数えようとする。

「では、参りましょう。レン様」
「ん、ああ」

 シオンに促され、それを遮られる。昨日のことは出来れば思い出したくないし、面倒なので考えるのをやめた。

「失礼します。あっ、申し訳ありません!お話し中でしたか!」

 そこへ、大臣の補佐官が執務室に入ってくる。蓮とシオンがいることに気づき、慌てて謝る。

「構いません。ちょうど退室するところです」

 と、シオンは蓮の背に手を添え、彼女に会釈して扉へ向かう。

「どうしたのかね」
「今朝もご報告しましたが、やはり使用人がふたり出勤せず、所在も不明だということです」
「何?ただの無断欠勤ではないのか?」

 蓮はウォータと補佐官の会話を聞きながら、「失礼しました」と頭を下げるシオンと共に執務室を出る。

「なんかあったのか?」

 使用人が所在不明とは少し気になり、シオンを見上げる。

「さぁ。我々には関係のないことです」
「ふーん…」

 お前も使用人だろと思うが、何か知っていても話す気はなさそうだ。それならどうでもいいかと、気にしないことにした。













 翌日。

「おはよう、カンパ」

 グレーの髪色で紳士的な雰囲気の男が、王室護衛の正装を身に着け、待っていた同志に爽やかに挨拶をする。金眼保有者の母親を殺害し、重傷を負って療養中だったノームだ。
 本来なら極刑となる殺人を犯した彼だが、昨年末の混乱時、暴走する金眼保有者に関する傷害等は基本、罪に問わないと議会で決まった。彼も暴走する母親を止めるための犯行だったことで減刑となっていた。また、隣国へ拉致された蓮の奪還に貢献したことと、周りからの働きかけもあり、難しいとされていた王室護衛への復帰も叶った。服役ではなく、護衛として国に仕え、罪を償っていくことになったのだ。

「おお、ノーム!復帰おめでとう!」

 と、カンパは数か月ぶりの彼の復帰を祝う。

「ありがとう。今日の任務よろしくお願いします、先輩」
「はははっ同期だろう!こちらこそ、よろしく!」

 冗談めかしてあざとく頭を下げるノームに、笑って手を出し握手を交わす。ノームは怪我の完治後、十分リハビリをこなしたが、ブランクもあり、今日はカンパと共に負担の少ない任務につく予定だ。

「ノーム!」

 そこに、手を振りながらライカがやって来る。

「今日から復帰なんでしょう。おめでとう」
「ありがとう」

 彼らはふたりで王付きの護衛を担っていた。ライカは今日からノームが復帰すると知り、会いに来たのだ。

「ライカ。えーと、この前は…」

 と、カンパは彼女に恐る恐る話しかける。一昨日、襲われていた蓮を助けたのに主犯格だと勘違いされ、彼女に強烈な張り手をくらった。持ち前の打たれ強さでほほが腫れるだけで済んだが。
 その後、シオンに蓮を襲った者たちのことを聞かれて正直に話し、ライカの誤解を解いてほしいと頼んだ。「ご心配なく」と、笑顔を見せてくれたので期待していた。しかし

「せいっ!!」
「おごぉっっ?!!」

 ライカはノームへの笑顔が嘘かのように鬼の形相になり、見本のような正拳突きをカンパのみぞおちにくらわせる。

「復帰早々こんな人と任務なんて大変でしょうけど、頑張って。またね」
「うん、また」

 再び笑顔になるとノームに手を振り、その場を後にした。
 一昨日、ライカはウォータ大臣の前に、シオンに蓮を襲った者たちがいることを報告し、謝罪していた。当日の勤務形態を把握していたシオンは、時間的にカンパが主犯格ではないとすぐに気づいた。だが、蓮の部屋に出向いたということは写真におさめる気だったのだろうと察し、ライカの誤解を解くことはあえてしなかった。むしろ、蓮の代わりにもう一度制裁を、と、けしかけていたのだから仕方ない。

「ぐ…ぅう…まだ誤解が解けていなかったか…っ。しかし、なんと美しい正拳突き…!素晴らしい…っ」

 カンパはうずくまって急所への激痛に悶えながら、ニンマリと笑みを浮かべる。

「相変わらず気色悪いね。何やらかしたの?」
「ああ…それが、一昨日に…」

 サラッと悪口言われたなと思いながら、一昨日の一部始終をノームに話した。




「へぇ。僕もぜひ見たかったなぁ。かわいかった?レン様」
「そっ…それはもちろんっ!と言いたいが…しっかり見る前に気絶したからな」

 写真も撮りそこねた…と、肩を落とす。

「そう、残念だったね」
「はっ…!まさか君、レン様にまた何か…っ」

 ニコニコと楽しそうなノームを見て、カンパはまた彼が蓮に危害をくわえたのではないかと思う。カンパはノームが蓮を襲う場面に何度か出くわしており、彼の腹黒い本性を知るひとりだ。

「ええ?僕はこの1週間、みっちりと訓練だったんだよ?」
「あ、そうか。すまない」

 心外とばかりに反論するノームに謝るが

「それに、僕だったら、孕むまで犯したよ」
「っっ?!ノーム!君という人は…っ!!」

 問題発言にカッとして怒鳴る。

「あはは、冗談だよ。あ、もう時間じゃない?」
「む…ああ、行こう」

 ノームが笑って時計を指し、カンパはごまかされたと思いつつ、仕事を優先する。

「…本当、残念」

 ノームはぽつりとつぶやく。冗談でなく、蓮をものに出来るなら父親になってもいい。その機会を逃したことが悔やまれる。

「ノーム?」
「うん、行くよ」

 名を呼ぶカンパの後を追い、地下への階段を下った。










 ウェア王の執務室では、王が忙しなく公務に勤しんでいた。

「これはウォータ大臣へ。これは直接、アラシへ渡せ」
「はい、承知しました」

 王は承認した資料を補佐官へ手渡す。一昨日、蓮と過ごすために放り出した公務がまだ片付いていない上に、新たな公務が溜まっているのだ。

「ふぅ…」

 机に積まれた資料を眺め、ため息が出てしまう。冷めてしまったお茶を口にし、ふと一昨日のことを思い出す。蓮の姿を見て動転していたのかもしれないけれど、いきなり結婚を申し込んでしまうとは。我ながら突拍子もない提案で、未だに恥ずかしくなってくる。でも、あの時は…いや、今でも。本当にそうしたかったんだよ、レン。
 王はあの時の、蓮の嬉しそうな顔を思い出し、束の間の幸せな気分に浸った。
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