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23,酔い醒まし
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「ごめんな、レン…好きだ…」
クラウドは顔を伏せたまま、ぼそりとつぶやく。すると、背後のソファーに寝る蓮の動く気配がした。
「…やっと、言った」
「?!レン!起きて…っ?」
かすれた声も聞こえ、慌てて振り向く。
「う…イテぇ…」
「だ、大丈夫か?!」
半身を起こし、身体中の痛みに顔をしかめる蓮の背を支える。
「大丈夫なワケあるか。めちゃくちゃしやがって…」
身体中が痛い上、後孔からあふれ出てくる体液が気持ち悪い。蓮はこれ以上動くのも嫌で、ため息をついてソファーの背に寄りかかる。
「あのな…っ!あの人は、昔、俺が護衛の時に…っ」
「そうじゃねー」
「え?」
「あんなヤツ、どーでもいい。お前だ」
と、焦って言い訳しようとするクラウドを横目でにらみつける。
「…っ、俺、は…血の気が多いだけのバカだ。まともな判断も出来やしない。お前を守って、やりたかったのに…怒りを抑えられなくて、ぶつけて、痛めつけた…っ。全部、俺のせいだ…!」
クラウドは顔を歪め、しぼり出すように話す。前までの彼なら欠点もミスもいくら指摘されようと、プライドが邪魔して素直に認めはしなかった。
「初めからそー言え、バーカ」
「ああ…本当、バカだ」
蓮の悪態にも言い返さず、うなだれた。
「レン」
そして、蓮の手をギュッと握ると口元に引き寄せる。
「バカな俺を…どうしたら、許してくれるか?」
神に許しをこうように膝をつき、蓮を見上げる。あんな最低な行為をしたのだから、突き放されて当然だ。でも、情けなく泣きわめいてでも許されたい。この愛しい、大切な恋人を失う。それが何より怖いのだ。蓮の手を握る手が震える。
「…も、一回、言え」
「な、何を…?」
恥ずかしげに目を反らしてボソっと言われ、クラウドは蓮の意図をくみ取れず聞き返す。
「お前は俺をどう…思ってる」
蓮は目を反らしたまま、ほほを赤く染める。
「っっ!!」
蓮が何を言って欲しいか、クラウドはようやくわかった。ボンっと爆発しそうなくらい顔が上気し、感激のあまり身体が震える。
「何回でも言ってやる!好きだ、大好きだ、レン!!」
何でこんなに嬉しくなる言葉をくれるのか。蓮を引き寄せ、力いっぱい抱きしめる。このかわいい恋人が愛しくて、愛しくてたまらない。これからも全身全霊で守り、愛したいと誓う。
「好きだ…!!」
「ん…」
やっぱり、コイツのまっすぐな好意の言葉は心地よい。蓮は目を閉じ、クラウドのたくましい胸に身体を預けた。
「なぁレン。もう1回、ちゃんと抱いていいか?」
クラウドはチュッと蓮のほほにキスし、尻に手を伸ばす。
「あ?ふざけんな。飲み物買って来い。風呂入れろ。そしたら、もう二度と触んな」
「んん~…っかわいいくせに、かわいくないな!最後だけ却下だ!」
身体中ズキズキ痛んでいる蓮に、ぐいーっと顔を押し返された。
灯りを落とした寝室。ベッドに転がされていたシオンはうめいて寝返りをうつ。
「…痛ぅ」
頭が痛い。額を押さえ、なんとか身体を起こした。
「起きたか。復活早いな」
「クラウド…」
隣のダブルベッド脇に座るクラウドに話しかけられ、そちらを見る。苦手な飲酒をし、酩酊して眠ってしまったことを思い出す。
クラウドは眠る蓮の黒髪を優しくなでていた。蓮に言われたとおり、飲み物を買ってやり、部屋の浴室で身体をきれいに洗い、ベッドに寝かしたところだ。
シオンは静かな寝息をたてる蓮を見つめ、彼の異変に気づく。
「レン様に、何をしたのですか」
と、ベッドから起き上がり、毛布から出ている蓮の右手首を指す。くっきりと浮かび上がっている、人の手形のアザ。自分が酔い潰れている間に何があったのか、表情には出ないが焦りで手が震える。
「あー…うん、今回はお前に殺されても文句言えないな」
「…?」
いつもなら強気に言い返すクラウドが、申し訳なさげに言う。シオンは首をかしげた。
クラウドは蓮を不用意にひとりにしてしまったこと、フブキに出会ったこと、自分がしたことを正直に話した。下手な言い訳をする気はもうない。
「そうでしたか。あなたに任せるべきではありませんでしたね」
シオンは蓮の腹や肩の痛々しいアザを確かめながら、淡々と言う。
「ぐ…何とでも言え。大臣に報告するなり、殺すなり好きにしろよ」
このいけ好かない元同志に見下されるのはやはり我慢ならないが、何をされようと受け入れるつもりだ。クラウドはふいっと顔を背ける。
「いいえ、しません」
「は?」
「飲酒してしまった私の失態ですから」
「…」
クラウドは拍子抜けする。殺されないまでも、罵倒の後で大臣らに厳しい処分を要求するかと思っていたのに。シオンの殺気はクラウドに向いていない。
「私はもう寝ませんので、レン様をこちらに移動させてください」
シオンはさっきまで自分が寝ていたベッドを指す。
「何でだ?」
「陛下にレン様のお身体をお見せする訳にはいかないでしょう」
「…ああ」
蓮には眠っている間に服を脱ぐクセがある。こんなアザだらけの身体を隣にいる王が見てしまい、激怒させることは避けたい。
「どこ、行くんだ?」
クラウドは寝室を出ていくシオンに、蓮を抱き上げながら聞く。
「酔い醒ましに、です」
「…!」
そう言って寝室のドアを閉める、シオンの恐ろしいほどの殺気にゾッとする。どこへ行って何をする気か察するが、止めようとも思えなかった。
「シオン!」
フブキは真夜中に突然やってきた訪問者がシオンだとわかるなり、不機嫌な表情を一変させた。
現役護衛の頃、シオンをものにしようと様々な策をろうしたが、結局諦めざるをえなかったことは未だに悔やんでいる。その頃と変わらず、いや、いっそう妖艶で美しい姿を見て、再び当時の気持ちがよみがえっていた。
「久しいな。よくこの部屋がわかったな」
と、ニヤけたいのを抑え、シオンを部屋に招き入れる。
人の気配を探ることが得意なシオンは、クラウドの話でフブキの宿泊している部屋の目星をつけ、訪ねたのだ。女か男か、奥の寝室にもうひとりいるようだが。
「どうされました、その顔」
シオンは答えず、フブキの顔に貼られた湿布を指す。湿布で隠せないほど、ほほが赤く腫れている。
「ああ…俺は今、隣街の首長の護衛をしているんだが、少しヘマをしてしまった」
フブキは苦笑いし、ほほをさする。
「後輩の方が強くなったことを認めたくありませんか」
「ふっ…クラウドに聞いたのか?俺より奴の話を信じるのか」
シオンの指摘に一瞬止まった後、嘲るように首を振る。
「シオン。お前ともあろう者が、いまだにあんな格下と付き合いがあるとは残念だ。城から出て、俺の相棒にならないか?あんな奴らと付き合わなくて済む。報酬も悪くない。頭の良いお前なら、どちらがいいか考えずともわかるだろう」
と、じょう舌に誘う。
「レン様を辱めたというのは本当ですか」
しかし、シオンはフブキの話が聞こえないかのように無視して聞く。
「はっ?…ああ、今代の『身代わり』は出来が悪いな。たいして仕込まれていない上に、態度も最悪だ。当然、お前は犯す権利を辞退したのだろう?賢明な判断だ」
無表情だったシオンが、その嘲笑に一瞬ピクッと口元を引きつらせたが、すぐに戻す。
「そのようなお考えをお持ちなら、あの頃に再起不能にすべきでしたね」
「何?」
「心底どうでも良かったので、判断を誤りました」
シオンは現役護衛の頃、散々フブキに交際を迫られ、キスを強要されたり、一服盛られそうに(お茶にアルコール)なったこともある。全く関心がなかったため、気に病むことも何か対処することも当時しなかった。
「あの方を辱めたことを後悔し、一生、苦しみ続けてください」
「シオン…?」
フブキは美しく礼儀正しかった、かつての後輩の言葉を理解出来ず、呆然と見つめた。
「あ…っああぁ?!」
フブキは激痛にうめきながら、床に転がる。左腕の関節は全て外れ、右腕はきっと粉々に砕けているだろう。
「あと、レン様に触れたのはどこでしょうか」
「ひ…!」
淡々と聞いてくるシオンに、恐怖で悲鳴も喉をつかえる。
「舌ですか。足ですか」
「ひ、ひゃめ、て、くれ…っ」
ガッと顔に足を乗せられ、必死に声を出して命ごいをする。シオンの寒気のするような覇気は、フブキを上回るクラウドでさえも比にならないほど強い。何故、人権すらない『身代わり』を犯そうとしたことにこれほど憤怒しているのか。フブキは訳がわからなかった。
「それとも」
シオンはスッと足を上げる。
「ここ、ですか」
フブキが手に入れたくてやまなかった美しい笑顔を浮かべ、股にその足を乗せた。
翌朝。
「おはよう!早いね、シオン」
元気に寝室から出てきた王は、すでに身支度を済ませてお茶の用意をしているシオンに挨拶をする。
「おはようございます、陛下。よくお休みになられましたか」
「うん!」
シオンは微笑んで挨拶を返し、ソファーに座った王の前にお茶を置く。そこへ、慌てて飛び起きたクラウドが、身支度しながら寝室から出てくる。
「おはよう、クラウド」
「あ…っお、おはようございます!陛下!」
ニコニコと挨拶する王にやってしまったと思いつつ、片膝をついて頭を下げる。国王陛下の護衛が寝過ごすなど、恥ずかしい失態だ。
「起こせよっ」
クラウドは小声で言い、シオンの背を肘で小突く。
「頼まれていませんでしたので」
「チッ…この…っ」
しれっと言い返され、怒鳴りたいのをこらえる。
「陛下、ご朝食に召し上がりたいものはございますか」
「焼き立てのパンが食べたい!あと、レンに玉子焼き!」
「…」
王に朝食のリクエストを聞くシオンはいつもと変わらぬ様子で。昨夜のことを聞きたいが、ホテル内で特に騒ぎになっていなければ関わらないでおくかとクラウドは思った。
クラウドは顔を伏せたまま、ぼそりとつぶやく。すると、背後のソファーに寝る蓮の動く気配がした。
「…やっと、言った」
「?!レン!起きて…っ?」
かすれた声も聞こえ、慌てて振り向く。
「う…イテぇ…」
「だ、大丈夫か?!」
半身を起こし、身体中の痛みに顔をしかめる蓮の背を支える。
「大丈夫なワケあるか。めちゃくちゃしやがって…」
身体中が痛い上、後孔からあふれ出てくる体液が気持ち悪い。蓮はこれ以上動くのも嫌で、ため息をついてソファーの背に寄りかかる。
「あのな…っ!あの人は、昔、俺が護衛の時に…っ」
「そうじゃねー」
「え?」
「あんなヤツ、どーでもいい。お前だ」
と、焦って言い訳しようとするクラウドを横目でにらみつける。
「…っ、俺、は…血の気が多いだけのバカだ。まともな判断も出来やしない。お前を守って、やりたかったのに…怒りを抑えられなくて、ぶつけて、痛めつけた…っ。全部、俺のせいだ…!」
クラウドは顔を歪め、しぼり出すように話す。前までの彼なら欠点もミスもいくら指摘されようと、プライドが邪魔して素直に認めはしなかった。
「初めからそー言え、バーカ」
「ああ…本当、バカだ」
蓮の悪態にも言い返さず、うなだれた。
「レン」
そして、蓮の手をギュッと握ると口元に引き寄せる。
「バカな俺を…どうしたら、許してくれるか?」
神に許しをこうように膝をつき、蓮を見上げる。あんな最低な行為をしたのだから、突き放されて当然だ。でも、情けなく泣きわめいてでも許されたい。この愛しい、大切な恋人を失う。それが何より怖いのだ。蓮の手を握る手が震える。
「…も、一回、言え」
「な、何を…?」
恥ずかしげに目を反らしてボソっと言われ、クラウドは蓮の意図をくみ取れず聞き返す。
「お前は俺をどう…思ってる」
蓮は目を反らしたまま、ほほを赤く染める。
「っっ!!」
蓮が何を言って欲しいか、クラウドはようやくわかった。ボンっと爆発しそうなくらい顔が上気し、感激のあまり身体が震える。
「何回でも言ってやる!好きだ、大好きだ、レン!!」
何でこんなに嬉しくなる言葉をくれるのか。蓮を引き寄せ、力いっぱい抱きしめる。このかわいい恋人が愛しくて、愛しくてたまらない。これからも全身全霊で守り、愛したいと誓う。
「好きだ…!!」
「ん…」
やっぱり、コイツのまっすぐな好意の言葉は心地よい。蓮は目を閉じ、クラウドのたくましい胸に身体を預けた。
「なぁレン。もう1回、ちゃんと抱いていいか?」
クラウドはチュッと蓮のほほにキスし、尻に手を伸ばす。
「あ?ふざけんな。飲み物買って来い。風呂入れろ。そしたら、もう二度と触んな」
「んん~…っかわいいくせに、かわいくないな!最後だけ却下だ!」
身体中ズキズキ痛んでいる蓮に、ぐいーっと顔を押し返された。
灯りを落とした寝室。ベッドに転がされていたシオンはうめいて寝返りをうつ。
「…痛ぅ」
頭が痛い。額を押さえ、なんとか身体を起こした。
「起きたか。復活早いな」
「クラウド…」
隣のダブルベッド脇に座るクラウドに話しかけられ、そちらを見る。苦手な飲酒をし、酩酊して眠ってしまったことを思い出す。
クラウドは眠る蓮の黒髪を優しくなでていた。蓮に言われたとおり、飲み物を買ってやり、部屋の浴室で身体をきれいに洗い、ベッドに寝かしたところだ。
シオンは静かな寝息をたてる蓮を見つめ、彼の異変に気づく。
「レン様に、何をしたのですか」
と、ベッドから起き上がり、毛布から出ている蓮の右手首を指す。くっきりと浮かび上がっている、人の手形のアザ。自分が酔い潰れている間に何があったのか、表情には出ないが焦りで手が震える。
「あー…うん、今回はお前に殺されても文句言えないな」
「…?」
いつもなら強気に言い返すクラウドが、申し訳なさげに言う。シオンは首をかしげた。
クラウドは蓮を不用意にひとりにしてしまったこと、フブキに出会ったこと、自分がしたことを正直に話した。下手な言い訳をする気はもうない。
「そうでしたか。あなたに任せるべきではありませんでしたね」
シオンは蓮の腹や肩の痛々しいアザを確かめながら、淡々と言う。
「ぐ…何とでも言え。大臣に報告するなり、殺すなり好きにしろよ」
このいけ好かない元同志に見下されるのはやはり我慢ならないが、何をされようと受け入れるつもりだ。クラウドはふいっと顔を背ける。
「いいえ、しません」
「は?」
「飲酒してしまった私の失態ですから」
「…」
クラウドは拍子抜けする。殺されないまでも、罵倒の後で大臣らに厳しい処分を要求するかと思っていたのに。シオンの殺気はクラウドに向いていない。
「私はもう寝ませんので、レン様をこちらに移動させてください」
シオンはさっきまで自分が寝ていたベッドを指す。
「何でだ?」
「陛下にレン様のお身体をお見せする訳にはいかないでしょう」
「…ああ」
蓮には眠っている間に服を脱ぐクセがある。こんなアザだらけの身体を隣にいる王が見てしまい、激怒させることは避けたい。
「どこ、行くんだ?」
クラウドは寝室を出ていくシオンに、蓮を抱き上げながら聞く。
「酔い醒ましに、です」
「…!」
そう言って寝室のドアを閉める、シオンの恐ろしいほどの殺気にゾッとする。どこへ行って何をする気か察するが、止めようとも思えなかった。
「シオン!」
フブキは真夜中に突然やってきた訪問者がシオンだとわかるなり、不機嫌な表情を一変させた。
現役護衛の頃、シオンをものにしようと様々な策をろうしたが、結局諦めざるをえなかったことは未だに悔やんでいる。その頃と変わらず、いや、いっそう妖艶で美しい姿を見て、再び当時の気持ちがよみがえっていた。
「久しいな。よくこの部屋がわかったな」
と、ニヤけたいのを抑え、シオンを部屋に招き入れる。
人の気配を探ることが得意なシオンは、クラウドの話でフブキの宿泊している部屋の目星をつけ、訪ねたのだ。女か男か、奥の寝室にもうひとりいるようだが。
「どうされました、その顔」
シオンは答えず、フブキの顔に貼られた湿布を指す。湿布で隠せないほど、ほほが赤く腫れている。
「ああ…俺は今、隣街の首長の護衛をしているんだが、少しヘマをしてしまった」
フブキは苦笑いし、ほほをさする。
「後輩の方が強くなったことを認めたくありませんか」
「ふっ…クラウドに聞いたのか?俺より奴の話を信じるのか」
シオンの指摘に一瞬止まった後、嘲るように首を振る。
「シオン。お前ともあろう者が、いまだにあんな格下と付き合いがあるとは残念だ。城から出て、俺の相棒にならないか?あんな奴らと付き合わなくて済む。報酬も悪くない。頭の良いお前なら、どちらがいいか考えずともわかるだろう」
と、じょう舌に誘う。
「レン様を辱めたというのは本当ですか」
しかし、シオンはフブキの話が聞こえないかのように無視して聞く。
「はっ?…ああ、今代の『身代わり』は出来が悪いな。たいして仕込まれていない上に、態度も最悪だ。当然、お前は犯す権利を辞退したのだろう?賢明な判断だ」
無表情だったシオンが、その嘲笑に一瞬ピクッと口元を引きつらせたが、すぐに戻す。
「そのようなお考えをお持ちなら、あの頃に再起不能にすべきでしたね」
「何?」
「心底どうでも良かったので、判断を誤りました」
シオンは現役護衛の頃、散々フブキに交際を迫られ、キスを強要されたり、一服盛られそうに(お茶にアルコール)なったこともある。全く関心がなかったため、気に病むことも何か対処することも当時しなかった。
「あの方を辱めたことを後悔し、一生、苦しみ続けてください」
「シオン…?」
フブキは美しく礼儀正しかった、かつての後輩の言葉を理解出来ず、呆然と見つめた。
「あ…っああぁ?!」
フブキは激痛にうめきながら、床に転がる。左腕の関節は全て外れ、右腕はきっと粉々に砕けているだろう。
「あと、レン様に触れたのはどこでしょうか」
「ひ…!」
淡々と聞いてくるシオンに、恐怖で悲鳴も喉をつかえる。
「舌ですか。足ですか」
「ひ、ひゃめ、て、くれ…っ」
ガッと顔に足を乗せられ、必死に声を出して命ごいをする。シオンの寒気のするような覇気は、フブキを上回るクラウドでさえも比にならないほど強い。何故、人権すらない『身代わり』を犯そうとしたことにこれほど憤怒しているのか。フブキは訳がわからなかった。
「それとも」
シオンはスッと足を上げる。
「ここ、ですか」
フブキが手に入れたくてやまなかった美しい笑顔を浮かべ、股にその足を乗せた。
翌朝。
「おはよう!早いね、シオン」
元気に寝室から出てきた王は、すでに身支度を済ませてお茶の用意をしているシオンに挨拶をする。
「おはようございます、陛下。よくお休みになられましたか」
「うん!」
シオンは微笑んで挨拶を返し、ソファーに座った王の前にお茶を置く。そこへ、慌てて飛び起きたクラウドが、身支度しながら寝室から出てくる。
「おはよう、クラウド」
「あ…っお、おはようございます!陛下!」
ニコニコと挨拶する王にやってしまったと思いつつ、片膝をついて頭を下げる。国王陛下の護衛が寝過ごすなど、恥ずかしい失態だ。
「起こせよっ」
クラウドは小声で言い、シオンの背を肘で小突く。
「頼まれていませんでしたので」
「チッ…この…っ」
しれっと言い返され、怒鳴りたいのをこらえる。
「陛下、ご朝食に召し上がりたいものはございますか」
「焼き立てのパンが食べたい!あと、レンに玉子焼き!」
「…」
王に朝食のリクエストを聞くシオンはいつもと変わらぬ様子で。昨夜のことを聞きたいが、ホテル内で特に騒ぎになっていなければ関わらないでおくかとクラウドは思った。
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