虹色の未来を

わだすう

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6,休暇

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「おいしいね、レン」
「ああ…」

 王の自室。蓮は公務を終えた王と夕食を共にした後、昼間購入したチョコレートを交換し、食べていた。ニコニコとちょっと高級なチョコレートをほお張る王に対し、蓮はまだ痛む背と腰のせいで食べる手が進まない。

「どうしたの?疲れてる?」
「あ?」

 王はソファーで隣あって座る蓮の顔をのぞき込む。

「ごめんね。無理に来てもらった上に、買い物したりしたから…」
「すぐに謝んなよ。お前のせいじゃねーし」
「うん…」

 蓮は呆れ顔でチョコをひとつ口に入れるが、王は申し訳なさそうにうつむく。

「ヘーキだって」
「わっ?!あははっ!くすぐったいよ、レン!」

 蓮は手を伸ばすと、王の脇の下をぐっとつかんだ。王はビクッとして、そのくすぐったさに身体をよじらせて笑う。

「参ったかー?」
「あははは!参った!参ったよ~っ!」

 ふかふかなソファーに寝転がり、ふたりは一緒に大笑いした。






 そのまま王の自室に泊まることにした蓮は、キングサイズの天蓋付きベッドに王と並んで寝ていた。昼間の疲れと、何より王がそばにいることで今にも眠りに落ちてしまいそうだ。

「レン、いつまでここにいられるの?」
「あ?んー…何もないし、明日帰るわ」

 王が毛布の中で蓮の手に触れ、蓮がそれを握り返す。本当なら、今は蓮がこの世界にいる時ではない。すぐに帰るべきだろう。

「…そう」
「何かあんのか」
「でも…」
「いいから、言え」

 言いよどむ王を促すように、手をギュッと握る。

「あのね、僕、明日1日休みなんだ」
「ふーん」

 国王に即位してから、王は休みなく公務に勤しんでいる。丸一日の休暇は久しぶりのはずだ。

「それでね、行きたい所があって。北部にある、農場なんだけど。この前の大雪で被害あったみたいだし、写真や報告書だけじゃなくて、実際に見てみたいんだ」
「…それ、仕事じゃね?」

 それは地方への視察、になるだろう。せっかくの休暇を使うのはもったいないと蓮は思う。

「うん…公務で行くべきかもしれないけど、それだと農場は遠いし、何か月も前から計画して、視察団組まれて、護衛たちにもすごい負担かけちゃうから…」

 城から出ることのないウェア王が、国内と言えど視察を行なうには国家プロジェクト並の資金と労力が必要になる。本来なら王がしなくてもいいことで、わざわざ資金と労力をかけたくないのだ。

「…わかった。帰るの、1日延ばしてやるよ」

 蓮は王の言いたいことを察し、握った手を引き寄せてにっと笑う。

「レン…!いいのっ?」

 王は蓮がわかってくれて、承諾してくれたことに感激し、金色の眼をキラキラと輝かす。

「ああ。明日、早いんだろ?寝よーぜ」
「うん!ありがとうっ!!」

 嬉しそうに身を寄せる王に毛布をかけ直し、ふたりは手をつないだまま眠りについた。








 翌朝。蓮と王は城下のシューカ街にいた。もちろんこれから地下鉄に乗り、北部の農場へ行くためだ。城内の者たちにも、現地の者にも知らせず、本当の意味での『お忍び』訪問だ。
 国務大臣たちには王から、一日ふたりきりで過ごすから干渉は無用と命じてある。蓮もシオンやアラシ、護衛たち、一応謹慎中のクラウドにも一日構うなと伝えたが、シオンあたりには勘づかれたかもしれないと思っている。
 蓮の背負うバッグの中には用意してもらった弁当、王が遠足かのように詰めたお菓子や雨具などと少額の小遣いが入っている。小遣いは以前、無断外出した際にある大臣のサイフをスッたとバレ、絶句したシオンにもらった。この国の公共交通機関は基本無料なのであまり必要ないだろうが。

「わぁーっ!本物だぁ」
「近づき過ぎ」

 シューカ街中央の駅ホーム。滑りこんできた初めて実際に見る電車に、王は感動して手を伸ばそうとする。電車には乗り慣れており、この国のものも利用済みの蓮は呆れてつないだ手を引く。
 ふたりはおそろいの帽子をかぶり、同系色のマントを羽織っている。手をつないで電車を待っている様子は端から見るとかわいらしい双子の兄弟がどこかへ遊びに行くようで、微笑ましく見える。
 そして、王の金色の眼はコンタクトレンズで目立たない茶色になっていた。両眼とも金色であるべきの王は本来、色を変えるコンタクトレンズなど不要。「父さまが内緒でくれたんだ」と、王が自室の本棚奥から大事そうに取り出してきたものだ。

「足元、見ろよ」
「うんっ」

 電車のドアが開き、いきなり転びかねない王に言いながら乗り込む。

「ここ、つかまれ」
「これ?」

 車内は平日の朝らしく、通勤客で混み合っている。端に寄り、手すりにつかまらせた王を守るように蓮は横に立つ。意識せずにこんな行動が出来るようになるとは、すっかり『護衛』だと自嘲する。

「暗くてわからないけど、電車って速いんだよねっ」
「ああ」

 王はしっかりと手すりにつかまり、ウキウキと話す。初めての電車移動。目的は仕事と言えることだが、旅行気分で楽しいのだ。蓮もそんな王を見るだけで嬉しくなる。恋人気どりのクラウドと違い、友達と出かけるのはこんなに気分のいいものなのかと感動すらしていた。






「…っ?!」
「?」

 しばらく地下鉄に揺られていると、ニコニコしていた王の表情が急に強ばり、蓮は首をかしげる。

「れ、レン…」
「あ?どうし…っ!」

 涙目で蓮のマントをつかむ王に聞く前に、その理由はすぐにわかった。尻に手の感触。たまたま当たったというものではなく、明らかに尻の丸みにそってなでている。チカンだ。ハッとして見上げれば、中年の男が4人、不自然にふたりを囲んでいた。混み合っている場所で殺意なく近づく者の気配を感じとることが苦手な蓮だが、触れられるまで気づかなかったとは失態だ。

「や、だ…ぁ」
「…っ」

 王は触られる気持ち悪さにポロポロと涙をこぼし、蓮の肩にすがりつく。蓮が王の背後でニヤニヤしている男をぶん殴ることは簡単だ。だが、こんな混み合った電車内でそんなことをすれば騒ぎになり、農場へ行くどころではなくなるだろう。しかし、王をいつまでもこんなゲス野郎の餌食にさせておく訳にもいかない。

「ふわっ?!レン…っ?」

 蓮は王の腰をつかんで反転させると、電車の壁を背にさせ、その前に向かい合って立つ。

「そのまま」
「え…っ?」

 動転する王にささやき、ギュッと抱きしめた。

「くふふ…キミがお兄ちゃんかな?弟くんをかばっちゃうの?」

 蓮が間に入ったことで、王に触れなくなった男が笑いながら話しかける。やはりふたりを兄弟だと思っているようだ。

「かわいいねぇ~」
「いいよ。オジサンたちがキミだけを気持ちよくさせてあげる」

 男たちはいっそうニヤニヤと笑み、無防備になった蓮に次々と手を伸ばす。

「ん…!」

 尻や脇腹、太ももをまさぐられ、蓮はビクッと身体を強ばらす。

「へぇ、いい身体してるねぇ」

 小柄で細身に見える蓮の腹を直になで、鍛えられた腹筋に気づいて意外そうに言う。

「おやぁ?ここが大きくなってきたよ~?」
「ぅ、ん…ぐ…っ」

 好き勝手に身体を触られ、嫌でも反応する様を耳元で揶揄され、それでも蓮は歯を食いしばり耐える。王のマントを握りしめる手が震え、ズボンの中にまで入ってきた手のひらの気色悪さに肌が粟立つ。

「レン…っうぅ…」

 王は苦しそうな蓮を見てもどうすることも出来ず、蓮のマントを握って嗚咽していた。


 やがて、車内放送が駅への到着を告げる。男たちはいったん蓮から手を離し、ずり上がった上着を直してやる。

「もう我慢出来ないだろ?お兄ちゃん」
「ここで下りるよ。もっとよくしてあげようね」

 ふうふうと息を荒らげる蓮は、彼らの言葉にゆっくりとうなずいた。






 蓮と王は男たちに促されるまま、駅ホームのトイレに連れ込まれた。通勤ラッシュ時のホームトイレに、他に利用者はいない。

「おぉ…」
「す…っごくかわいい…」

 ふたりが電車に乗ってきた時から目を付けていた彼らだが、改めて見たふたりのかわいらしさに思わず感嘆の声が出る。同じ顔だが雰囲気は違い、それぞれにたまらない魅力を感じて彼らの下半身は臨戦態勢になる。

「うぅ…レン…!」
「…」

 王はそんな彼らにただただ怯え、うつむいたままの蓮を抱きしめる。

「ごめんねぇ、お兄ちゃん!意地悪しちゃったねぇ」
「オジサンたち、本当は優しいから大丈夫だよぉ?」

 男たちはニヤニヤといやらしい笑みを浮かべ、こびるように迫ってくる。

「ふたりとも、オジサンたちので最後まで…っぎゃあぁ?!!」

 蓮のほほに触れようとしたが、それより早く蓮の手がその腕をつかんでいた。ギリギリと折れんばかりの力で握られ、たまらず悲鳴をあげる。

「コイツと、俺に、キッタねー手で触りやがって…」
「へっ?」

 さっきまでの快楽に弱く、かわいらしかった姿が嘘かのようなすごんだ声とヤンキーばりの荒い口調。男たちは理解が追いつかず、呆けた声が出る。

「死んだ方がマシな目に、合わせてやらぁ…!!」

 殺気立つ黒い瞳が、彼らをギロリとにらんだ。
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