虹色の未来を

わだすう

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2,傷あと

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「ぅん、ん…っ」

 ネットカフェの狭い個室を、ふたりの息遣いとベッドがきしむ音が満たす。蓮は着ていたものをほとんど脱がされ、上半身裸のクラウドに組み敷かれていた。

「声出せよ…レン」
「ふ、んん…!」

 蓮は必死に唇を噛み、首を振る。多少防音はされているだろうが、やはりこんな場所であられもない声を出すのは恥ずかし過ぎる。それに何度も抱かれているクラウドでも、男に組み敷かれるのは未だに恐怖だ。

「気持ちよく、してやるから」
「…っあ!ぐ、うぅ…!」

 クラウドは湿らせた指で蓮の後孔を探り、そこをなぞってからゆっくりと押し込む。

「ほら…我慢するな」

 ビクンと腰を跳ねさせ、口を開いた蓮を促すように、狭い粘膜に指先をはわせてしこりをなでる。

「い…っ!はぁ!あぁ…!」
「ん…よし、いいぞ」

 前立腺を刺激される快感に蓮は声を抑えられなくなる。クラウドは嬉しそうに指先をうごめかせ、蓮のほほや首に唇を当てる。


「はあ…っ!あ…っ」

 やがて指は3本に増え、後孔は濡れた音をさせながら柔らかくそれを締めつける。蓮の身体は熱く、下半身のモノは硬く濡れそぼり、ビクビクと震える。

「入れるぞ…?」

 クラウドは指を抜くとズボンの前をくつろげ、脈打つモノを取り出す。

「ひ…!」

 身体を強ばらせ、怯えた声を出す蓮の後孔にそれを当てる。ひくひくと開閉するそこは早く突けと言わんばかりだが、クラウドはグッとこらえる。

「レン、息吐いて…力、抜け…」

 蓮を抱き起こし、黒髪をなでながらささやく。怖がらせたり、不快感を与えたりは絶対にしたくないのだ。

「ふぅ…は…」
「いいぞ…上手だ…」

 クラウドは蓮の呼吸が落ち着いたのを見て、唇にチュッとキスをし、蓮の身体をずらして猛る己の上に乗せる。

「くあ、ぁあ…っ」
「っ!すげ…キツ…っ」

 自分の重さで胎内に質量のあるモノが入っていく。1か月以上ぶりに受け入れるそれは、かなりの圧迫感を与える。蓮はクラウドの胸で拳を握り、ぶるぶると全身を震わせる。クラウドは思った以上の締めつけにうめいた。

「あ、はぁ…っも、はや、く…」
「ん…?まだ、苦しいだろ…?」

 胸元を叩いて急かす蓮の頭をなで、顔をのぞき込む。挿入直後は辛いだろうと、いつも蓮が落ち着くまで待ってから動いていた。

「いぃ、から…っ!クラウド…っヤれ…!」
「…っ!!」

 蓮は下半身の圧迫が辛くて、早く終わらせて欲しいだけなのだが。涙で潤む大きな瞳に、赤く上気するほほ、濡れた唇でせがまれ、クラウドは必死に抑えていた理性の糸がぷちんと切れる。

「ぅあ?!あぁ!はあぁっ!!」
「レン…!レンっ!!」

 再び蓮をベッドへ押し倒し、思い切り腰を打ちつける。ガツガツと過敏な粘膜を突かれ、蓮は涙を散らして身体を仰け反らせる。クラウドは本能のまま蓮の首筋に舌をはわせ、甘い皮膚に吸いつき、何度も名を呼ぶ。

「はぁっ!クラウド…っ!い、クっ!」
「ん…っいいぞ…イけ、レン…っ」

 揺さぶられながら限界を訴える蓮のモノを握り、己の腰の動きに合わせてしごく。

「あ、ぁーっ!!」
「ふぅ…!!」

 蓮の身体がビクリと跳ね上がり、クラウドの手と自分の腹に白濁を吐き出す。クラウドもいっそう強い締めつけにうめき、蓮の中へとそれを注いだ。

「レン…」

 クラウドは絶頂の余韻に震える蓮の涙をぬぐい、深く唇を重ねる。熱い口内を味わい、満足げに抱きしめた。

「う、ぐ…っ」
「あ…!ご、ごめんな、レン…っ!大丈夫か?!」

 腕の中でうめき声をあげる蓮にハッとし、あわてて己を抜く。煽られるがまま、いつもより激しく抱いてしまった。

「チッ…大丈夫な、ワケ、あるか…っ」

 蓮はどろりと股を伝うものに舌打ちし、全身の鈍痛とダルさに顔をしかめる。クラウドを押し退ける気力もない。

「お前が、かわい過ぎるからだろ…っ!」
「…ああ?」

 クラウドはニコニコとほほを緩め、また抱きしめる。そっけなくされようと、悪態をつかれようと、蓮が時折見せる無自覚なかわいらしさが愛しくてたまらないのだ。

「今、身体拭いてやるよ。それとも、こんびに、とやらで買った飲み物を飲むか?」

 チュッと軽く蓮の額にキスをし、パソコンの脇にあるコンビニ袋を探る。

「…」
「レン?」

 蓮の返事が聞こえず、名を呼ぶ。

「ま、マジで大丈夫かっ?そんなに辛かったのか?!何か言えよ!」

 クラウドは焦って蓮のほほを両手で包み、呼びかける。

「…あ?も、眠ぃ…」
「…」

 疲労で眠りかけていた蓮が口を開き、ホッと安堵する。

「そうか。これ、飲んでから寝ろ」
「ん…」

 ペットボトルを開けて蓮の頭を支え、ゆっくりと飲ませると、胸元に抱いて一緒に横になる。

「…寝る」
「うん…おやすみ」

 いいポジションを探してクラウドの厚い胸で少しモゾモゾした後、蓮はスウと眠りに落ちる。クラウドはふっと笑み、乱れた黒髪をなでる。そして、蓮の背にそっと手のひらを滑らせた。
 残ってしまった銃創に触れ、顔をしかめる。見たくないが、蓮を抱くたびに嫌でも目に入る胸と背の傷あと。自分がかけつけるのが遅かったばかりに、彼の命を奪ったかもしれない傷。反応がないとその時のことを未だに思い出してしまい、怖くて仕方がない。
 自分に出来ることはこうして彼を抱き、鼓動とぬくもりを確かめるだけ。けれど、お互い異世界にいる時はそれすら叶わない。通例を破ってでも、会いに来て良かったと思う。

「好きだ、レン…」

 クラウドは蓮の確かな存在に幸せを感じながら、目を閉じた。











 翌朝。

「探しましたよ!クラウドさんっ!!」
「げっ?!」

 ネットカフェを出るやいなや名を呼ばれ、クラウドはぎょっとする。首から足首までを覆う黒いロングコートに、首に巻かれた鮮やかな青布、黄緑色の短髪でがっしりした体格。ウェア王国王室護衛長のアラシだ。「レン様、お久しぶりです!」と、横にいる蓮にサッと片膝をつく。

「クラウドさんをお迎えに参りました!5時間の予定ではなかったのですか?!大臣方がご立腹ですよ!!」
「何とか伸ばせって言っておいたろ?!」
「さすがに無理ですと言いましたよ!!」
「そこは頑張れよ!!頼りにならないな、護衛長!!」
「た…っ?!申し訳ありません!!」

 どうやらクラウドはアラシを通して、短時間という約束で異世界へ行く許可をとったらしい。それすら破ったクラウドの理不尽な叱咤に、アラシは反射的に頭を下げる。立場は上だが、かつての先輩にいまだ逆らえないのだ。

「…るせー」

 朝の繁華街。人通りは少ないが、浮世離れした姿のふたりが大声で言い争う様はかなり目立つ。寝ぼけ眼の蓮はげんなりして彼らを見る。

「とにかく帰りましょう!今なら弁解が通るかもしれません!」
「まだレンと会って1日も経ってないぞ?!」
「クラウドさん~っ!!解雇されてしまいますよ?!」
「お前、いっちょ前に俺を脅す気かぁ?!」
「ひぃ?!申し訳ありません!!」

 怒鳴るクラウドに胸ぐらをつかまれ、アラシは悲鳴をあげる。

「あー…も、ウゼー」
「レン?」

 文句を言いながら歩きだした蓮に、クラウドは声をかける。

「俺も行けばいいんだろが」

 蓮はギロっとふたりをにらみ、スタスタ歩いて行く。自分も一緒に彼らの世界へ行けば、クラウドがごねることもない。

「レン…!(お前も俺と離れたくないのか)」
「レン様…っ(私のために気を使ってくださったのか)」

 クラウドとアラシは違う意味で感激し、蓮の後を追った。









「あ、アラシ」
「はい」

 蓮の実家の敷地内。古い蔵の壁に異世界へと通ずる道がある。等間隔に並ぶ灯りが照らす通路を歩きながら、蓮は前を行くアラシを呼ぶ。

「コレ、やるよ」
「えっ?!私に?!」

 ジーンズの後ろポケットから出された、きれいにラッピングのされた箱。ついでなどではなく、わざわざプレゼントするために用意されたものに見え、アラシは驚く。

「はぁ?!おい、レン!!これお前が昨日…っばれんナントカって」
「黙れ」

 それに見覚えのあるクラウドが焦って言うが、蓮はしゃべらせない。これは昨夜、仕事の後に『バレンタインデーっす!!』と増田から強引に手渡されたチョコレートだ。クラウドたちの世界にバレンタインデーというイベントは存在しない。何の意味があるのかと聞くクラウドに適当に説明して、ジーンズに突っ込んでしまっていた。

「なっ…何故ですか?」

 ウェア王国では、イベントでプレゼントのやり取りをすること自体あまり一般的ではない。アラシは突然のことに戸惑う。

「あ?んーお前、色々大変そーだし」
「いえ、そんな…っ当然の責務で…!」
「いらねーなら、捨てるぞ」
「ええ?!もったいない!」

 本当にその辺に放ってしまいそうな蓮をあわてて止める。

「ん」
「ありがとう…ございます」

 アラシは改めて差し出されたチョコレートを受け取り、嬉し涙をこらえて胸に抱いた。

「…おい、アラシ」
「痛っ」

 怒りで青筋を浮かべたクラウドが、ベシっとアラシの頭を叩く。

「おい、こら」
「痛いですよ~、クラウドさん~」

 グリグリ頭を小突いても、アラシは蓮からのプレゼントに夢心地でヘラヘラしており(実際は増田から蓮へのものだが)、クラウドは余計怒りを煽られる。

「レン!!お前、何でアラシにあれやるんだ?!好きな奴にやるものだろ?!」

 蓮の適当な説明で、バレンタインデーとは『好意を寄せる者にチョコレートを渡す日』と一応認識しているのだ。

「あ?るせーな。義理だ」

 蓮は面倒くさいと思いつつ、ポケットを探る。コンビニでオマケにふたつもらったボールチョコを取り出す。

「ぎ…っむぐ」

 ひとつ包み紙を取り、クラウドの口に押し込む。

「これも、義理だからな」

 にっと笑い、蓮ももうひとつのチョコを口に入れる。

「…おう」

 クラウドはそのかわいらしさに思わず見惚れる。怒りも義理とは何か聞くのも忘れ、溶け始めたチョコを口内で転がした。
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