21 / 31
21,狙撃
しおりを挟む
「おじさま、ばいばい!」
ティリアス王子はにこにこと手を振り、レイニーに連れられて自室へ戻って行った。めいっぱい遊んでもらい、満足したようだ。
「いやぁ、久しぶりに走ったよ。やはり元気だな、子どもは」
「そうですね」
メンバル王は王子を見送ると、シャウアが扉を開けた客間に笑って話しながら入る。
「無邪気でかわいらしい、いい子だ。父親によく似た…抗いがたい魅力もある」
「…」
シャウアは動きを止め、静かに覇気を高めてメンバル王を見つめる。
「…すまない。この言い方は誤解を招くな。彼も素晴らしい王になると言いたかった」
「申し訳ありません」
それに気づいたメンバル王が謝り、シャウアは覇気をおさめて片膝をついた。
「いいんだ。君たちは本当に優秀だな」
「ありがとうございます」
メンバル王は笑み、客間のソファーに腰を下ろす。
「明日も君たちが護衛についてくれるのか?」
「はい」
明日は街を視察したいという王の希望に添い、城下のシューカ街を訪問する予定だ。
「ならば安心だ。楽しみにしている」
「では、失礼いたします」
にこやかに手を上げる王に頭を下げ、シャウアは客間を出た。
メンバル王を信用していない訳ではないが、外国人であることに変わりはなく、王室護衛として言動に気を配らなければならない。少し、心苦しく思う。
「…医務室行くか」
閉まった扉から目を離し、シオンの様子を見に行こうと医務室へ歩を向けた。
翌日。シューカ街の大通りをメンバル王は街の首長に案内されながら、歩いていた。普段どおりの街を見たいとのことで人々の通行を止めず、活気あるにぎやかな通りを縫うように進んで行く。もちろん護衛はついているが、護衛長ふたりとシオンとあともうひとりの4人のみ。王はよほど王室護衛たちを信頼しているらしく、最小限でいいと希望したためだ。
「大丈夫か、シオン」
「はい」
隣を歩くシャウアがコソッとシオンに聞く。休めと言われたシオンだが、決まっていたことだからと任務についていた。
「今日はやけに混んでるな」
「うん、何かあったっけ?」
同じ頃、クラウドは友人と共に大通りへ遊びに来ていた。夏休み中ではあるが、いつも以上の人通りの多さを不思議がっていると
「あ!あれ、お前の親父じゃないか?」
「は?!」
友人の指差した先を慌てて見る。この街の首長である父親がいた。
「そばにいるのたぶん外国人だぞ!すげぇな!」
「ああ…」
そういえば、今朝、父親が今日は重要な客人をもてなすとかで張り切っていた。このことかと理解する。人出が多いのも、珍しい外国人がいるという噂を聞いた人々が集まったためだろう。
「もっと近くで見ようぜ、クラウド!」
「俺はいいって…」
友人も滅多に見ることのない外国人の姿を見ようと誘うが、クラウドは父親に気づかれるかもしれず、恥ずかしさが上回る。
その場から離れようとしたクラウドだが、ふと見覚えのある背中が目に入る。外国人と父親たちを囲むように歩く、黒コートの者たちの中のひとり。シオンだ。大きなサングラスで顔を隠し、薄紫色の髪も覆っているが間違いない。いつも追っている背中なのだから。
「…行くぞ」
「あ、待てよー」
急にズンズンと近づいて行くクラウドに、友人は慌ててついて行った。
「おお~!俺、こんな近くで外国人見るの初めてだ」
「…」
人混みの後方から、ふたりはメンバル王一行をのぞき見る。友人は外国人の姿に感動するだけで、同級生がそこにいることには気づいていないようだ。
その時
「!!」
シオンたち王室護衛は大通りから離れた場所の、わずかな殺気を感じ取った。
「伏せろぉおおーっ!!!」
レイニーが大通りを行く人々に向かい、叫ぶ。離れた場所ということは、おそらくライフル銃による狙撃だ。
「?!」
「何だ?!」
人々はよく通る彼の声にザワッとした後、反射的に身を低くする。次の瞬間、破裂音が響き、人々の頭上を弾丸が突き抜ける。
護衛たちはメンバル王と首長たちに覆いかぶさってそれを避け、弾丸は店舗の看板にめり込んだ。すぐさま2発目が発砲されるが、それもどこかへそれる。
「陛下!首長たちもこちらへ!」
シャウアともうひとりの護衛が何がなんだかわからない様子の王たちを隠しながら、近くの店舗の中へ促す。大通りの人々も発砲音など聞いたことがなく、何の音がしたのかと困惑してザワザワしている。
「クソ…っ!どこだ?!人が多過ぎる!」
これは明らかにメンバル王を狙ったもの。レイニーは狙撃手の居場所を探るがなにぶん人が多く、王が避難したことで諦めたのか殺気も感じられず、特定出来ない。
「レイニーさん!僕が『結界』を張ります。弾かれた者が狙撃手です」
「シオン?な、何を張る…?!」
シオンが横へ来て話すが、レイニーは初めて聞く言葉を聞き取れず戸惑う。
シオンは地に手と膝をつくと目を閉じ、気を集中させる。実から伝授されたばかりの『結界』は事前に施して侵入を防ぐものであり、本来の使い方と違うかもしれない。だが、強力なものをこの場で張れば、悪意ある者は『結界』から弾き出されるはずだ。
弾道から狙撃手のいる方向は大体わかる。距離は500、いや、600メートルか。
「『我の気で…この地、守りたまえ』」
そう唱えたシオンの手が光り、600メートル先に強力な結界が張られた。と、同時に500メートルほど離れた建物からガラスの割れる音がかすかに聞こえた。
「いました!」
「あそこかっ?!よし、行くぞ!!」
「はい!」
シオンが指差し、レイニーもそれを認識し、ふたりはその建物を目指して地を蹴る。王室護衛ふたりの走るスピードは常人離れしている。一般人から見れば飛んでいるかのようで、500メートルくらいなら一瞬と言っても大げさではない。
「いた!!奴だな?!」
「はい、間違いなく!」
あっという間に建物付近に着き、地面に転がっている男を発見する。顔立ちから外国人だとわかり、そばにはライフル銃の入ったバッグ。ふたりは彼が狙撃手だと確信する。
「な…っ?!」
彼はメンバル王の狙撃に失敗し、逃げようとした最中に突然その場から何十メートルも弾き飛ばされた。当然怪我を負い、困惑しているところに黒コートの二人組が飛んできて、更に驚く。
「おらぁぁああっ!!」
「ぐぶぇっ!!」
問答無用でレイニーは彼に飛びかかり、首元にエルボードロップをくらわせる。訳がわからないまま、彼は悶絶、失神した。
「よくやった、シオン!」
「ふぅ…はい」
レイニーは興奮気味にシオンをほめ、シオンは気を弛めて結界を解く。初めての実戦でしかもイレギュラーな結界の張り方をしたが、うまく役立ち安堵する。
「シャウアさんに連絡します」
「ああ、頼む」
シオンは通信機を取り出し、レイニーはうなずいて失神している狙撃手を後ろ手に縛りあげる。
「はい、確保しました。…え?…はい」
「どうした、シオン」
話しながら顔色が変わるシオンに気づき、首をかしげた。
「何だかわからないけど、すごかったな!」
騒ぎのおさまったシューカ街の大通り。クラウドとその友人は散策を再開していた。
「…」
クラウドは興奮気味な友人の話など聞こえないかのように、黙っている。
「クラウド?」
「ん?あ、ああ」
友人に顔をのぞきこまれ、ハッとして返事をする。
「どうしたんだよ?まだビビってんのか?」
「はぁ?!そんなわけないだろ…っ」
ニヤっとからかわれ、言い返す。本当に恐怖を感じたのではない。護衛として働くシオンの姿に衝撃を受けたのだ。
昨日、酔い潰れたシオンを助けたかたちになり、少し優位に立った気分でいた。シオンがよく『護衛の中では下っ端』と話すのは、謙遜ではないこともあの先輩護衛たちを見てわかった。けれど、違った。彼らは一般人には理解も出来ない次元で生きている。自分などあの先輩たちどころか、シオンの足元にも及ばないのだ。調子に乗りそうだった自分が情けなくて、悔しくて。クラウドは歯を噛みしめ、ぎゅっと拳を握った。
その頃、ウェア城の医務室では。シューカ街から運び込まれた怪我人が治療を受けていた。医務室前の廊下でその様を見守るのは、黒コート姿のままの3人。
「割れたガラスで切ってしまったらしい。一般人までは守りきれなかった」
メンバル王らを避難させた後、シャウアは助けを呼ぶ声を聞き、かけつけた。2発目の弾丸により建物の窓ガラスが割れ、その下にいた数人に割れたガラスが降り注いだ。大体が軽傷だったが、ひとりの少女は首元を切り多量に出血していた。命に関わると判断し、医療設備が充実している城に搬送したのだ。だが、なにぶん失血がひどく、王国の最先端医療でも助かるかは五分五分だという。
「クソ…っ間違ったな…」
「…」
王や国の要人を守ることが護衛の役目とはいえ、一般国民を巻き込んでしまったのは失態でしかない。レイニーは犯人確保を優先した自分の判断を悔やみ、シオンは医師たちに囲まれ動かない少女をただ見つめる。
「私に、協力させてくれないか」
そこへ、少女の容態を聞いた実がやってくる。
「ミノル様…?」
「怪我を治すことは出来ないが、失血を補うことは可能だ」
「え?」
実は身代わり護衛であり、異世界での本来の職業は警察官。医療に関する知識はないはずだ。何をしようというのかと、3人は医務室に入っていく実の背を見送る。
実は医師に何やら説明し、少女の寝るベッドに歩み寄る。そして、腰を屈めると彼女の唇に唇を重ねた。
「?!!」
どう見ても、中年男性と幼い少女のディープキス。まさかの行動に周りの者は驚愕し、真っ白に固まってしまう。
数分後、実は彼女から唇を離した。
「これで失血死の心配はないと思います。後はよろしくお願いします」
ポカンとしている医師らにそう告げると、医務室を出る。ふと医師が少女を見ると、何故か真っ青だった顔色に赤みがさし、弱々しかった呼吸も安定してきている。実が何をしたのか全くわからないが、命は助かりそうだ。医師らは安堵し、治療を再開した。
ティリアス王子はにこにこと手を振り、レイニーに連れられて自室へ戻って行った。めいっぱい遊んでもらい、満足したようだ。
「いやぁ、久しぶりに走ったよ。やはり元気だな、子どもは」
「そうですね」
メンバル王は王子を見送ると、シャウアが扉を開けた客間に笑って話しながら入る。
「無邪気でかわいらしい、いい子だ。父親によく似た…抗いがたい魅力もある」
「…」
シャウアは動きを止め、静かに覇気を高めてメンバル王を見つめる。
「…すまない。この言い方は誤解を招くな。彼も素晴らしい王になると言いたかった」
「申し訳ありません」
それに気づいたメンバル王が謝り、シャウアは覇気をおさめて片膝をついた。
「いいんだ。君たちは本当に優秀だな」
「ありがとうございます」
メンバル王は笑み、客間のソファーに腰を下ろす。
「明日も君たちが護衛についてくれるのか?」
「はい」
明日は街を視察したいという王の希望に添い、城下のシューカ街を訪問する予定だ。
「ならば安心だ。楽しみにしている」
「では、失礼いたします」
にこやかに手を上げる王に頭を下げ、シャウアは客間を出た。
メンバル王を信用していない訳ではないが、外国人であることに変わりはなく、王室護衛として言動に気を配らなければならない。少し、心苦しく思う。
「…医務室行くか」
閉まった扉から目を離し、シオンの様子を見に行こうと医務室へ歩を向けた。
翌日。シューカ街の大通りをメンバル王は街の首長に案内されながら、歩いていた。普段どおりの街を見たいとのことで人々の通行を止めず、活気あるにぎやかな通りを縫うように進んで行く。もちろん護衛はついているが、護衛長ふたりとシオンとあともうひとりの4人のみ。王はよほど王室護衛たちを信頼しているらしく、最小限でいいと希望したためだ。
「大丈夫か、シオン」
「はい」
隣を歩くシャウアがコソッとシオンに聞く。休めと言われたシオンだが、決まっていたことだからと任務についていた。
「今日はやけに混んでるな」
「うん、何かあったっけ?」
同じ頃、クラウドは友人と共に大通りへ遊びに来ていた。夏休み中ではあるが、いつも以上の人通りの多さを不思議がっていると
「あ!あれ、お前の親父じゃないか?」
「は?!」
友人の指差した先を慌てて見る。この街の首長である父親がいた。
「そばにいるのたぶん外国人だぞ!すげぇな!」
「ああ…」
そういえば、今朝、父親が今日は重要な客人をもてなすとかで張り切っていた。このことかと理解する。人出が多いのも、珍しい外国人がいるという噂を聞いた人々が集まったためだろう。
「もっと近くで見ようぜ、クラウド!」
「俺はいいって…」
友人も滅多に見ることのない外国人の姿を見ようと誘うが、クラウドは父親に気づかれるかもしれず、恥ずかしさが上回る。
その場から離れようとしたクラウドだが、ふと見覚えのある背中が目に入る。外国人と父親たちを囲むように歩く、黒コートの者たちの中のひとり。シオンだ。大きなサングラスで顔を隠し、薄紫色の髪も覆っているが間違いない。いつも追っている背中なのだから。
「…行くぞ」
「あ、待てよー」
急にズンズンと近づいて行くクラウドに、友人は慌ててついて行った。
「おお~!俺、こんな近くで外国人見るの初めてだ」
「…」
人混みの後方から、ふたりはメンバル王一行をのぞき見る。友人は外国人の姿に感動するだけで、同級生がそこにいることには気づいていないようだ。
その時
「!!」
シオンたち王室護衛は大通りから離れた場所の、わずかな殺気を感じ取った。
「伏せろぉおおーっ!!!」
レイニーが大通りを行く人々に向かい、叫ぶ。離れた場所ということは、おそらくライフル銃による狙撃だ。
「?!」
「何だ?!」
人々はよく通る彼の声にザワッとした後、反射的に身を低くする。次の瞬間、破裂音が響き、人々の頭上を弾丸が突き抜ける。
護衛たちはメンバル王と首長たちに覆いかぶさってそれを避け、弾丸は店舗の看板にめり込んだ。すぐさま2発目が発砲されるが、それもどこかへそれる。
「陛下!首長たちもこちらへ!」
シャウアともうひとりの護衛が何がなんだかわからない様子の王たちを隠しながら、近くの店舗の中へ促す。大通りの人々も発砲音など聞いたことがなく、何の音がしたのかと困惑してザワザワしている。
「クソ…っ!どこだ?!人が多過ぎる!」
これは明らかにメンバル王を狙ったもの。レイニーは狙撃手の居場所を探るがなにぶん人が多く、王が避難したことで諦めたのか殺気も感じられず、特定出来ない。
「レイニーさん!僕が『結界』を張ります。弾かれた者が狙撃手です」
「シオン?な、何を張る…?!」
シオンが横へ来て話すが、レイニーは初めて聞く言葉を聞き取れず戸惑う。
シオンは地に手と膝をつくと目を閉じ、気を集中させる。実から伝授されたばかりの『結界』は事前に施して侵入を防ぐものであり、本来の使い方と違うかもしれない。だが、強力なものをこの場で張れば、悪意ある者は『結界』から弾き出されるはずだ。
弾道から狙撃手のいる方向は大体わかる。距離は500、いや、600メートルか。
「『我の気で…この地、守りたまえ』」
そう唱えたシオンの手が光り、600メートル先に強力な結界が張られた。と、同時に500メートルほど離れた建物からガラスの割れる音がかすかに聞こえた。
「いました!」
「あそこかっ?!よし、行くぞ!!」
「はい!」
シオンが指差し、レイニーもそれを認識し、ふたりはその建物を目指して地を蹴る。王室護衛ふたりの走るスピードは常人離れしている。一般人から見れば飛んでいるかのようで、500メートルくらいなら一瞬と言っても大げさではない。
「いた!!奴だな?!」
「はい、間違いなく!」
あっという間に建物付近に着き、地面に転がっている男を発見する。顔立ちから外国人だとわかり、そばにはライフル銃の入ったバッグ。ふたりは彼が狙撃手だと確信する。
「な…っ?!」
彼はメンバル王の狙撃に失敗し、逃げようとした最中に突然その場から何十メートルも弾き飛ばされた。当然怪我を負い、困惑しているところに黒コートの二人組が飛んできて、更に驚く。
「おらぁぁああっ!!」
「ぐぶぇっ!!」
問答無用でレイニーは彼に飛びかかり、首元にエルボードロップをくらわせる。訳がわからないまま、彼は悶絶、失神した。
「よくやった、シオン!」
「ふぅ…はい」
レイニーは興奮気味にシオンをほめ、シオンは気を弛めて結界を解く。初めての実戦でしかもイレギュラーな結界の張り方をしたが、うまく役立ち安堵する。
「シャウアさんに連絡します」
「ああ、頼む」
シオンは通信機を取り出し、レイニーはうなずいて失神している狙撃手を後ろ手に縛りあげる。
「はい、確保しました。…え?…はい」
「どうした、シオン」
話しながら顔色が変わるシオンに気づき、首をかしげた。
「何だかわからないけど、すごかったな!」
騒ぎのおさまったシューカ街の大通り。クラウドとその友人は散策を再開していた。
「…」
クラウドは興奮気味な友人の話など聞こえないかのように、黙っている。
「クラウド?」
「ん?あ、ああ」
友人に顔をのぞきこまれ、ハッとして返事をする。
「どうしたんだよ?まだビビってんのか?」
「はぁ?!そんなわけないだろ…っ」
ニヤっとからかわれ、言い返す。本当に恐怖を感じたのではない。護衛として働くシオンの姿に衝撃を受けたのだ。
昨日、酔い潰れたシオンを助けたかたちになり、少し優位に立った気分でいた。シオンがよく『護衛の中では下っ端』と話すのは、謙遜ではないこともあの先輩護衛たちを見てわかった。けれど、違った。彼らは一般人には理解も出来ない次元で生きている。自分などあの先輩たちどころか、シオンの足元にも及ばないのだ。調子に乗りそうだった自分が情けなくて、悔しくて。クラウドは歯を噛みしめ、ぎゅっと拳を握った。
その頃、ウェア城の医務室では。シューカ街から運び込まれた怪我人が治療を受けていた。医務室前の廊下でその様を見守るのは、黒コート姿のままの3人。
「割れたガラスで切ってしまったらしい。一般人までは守りきれなかった」
メンバル王らを避難させた後、シャウアは助けを呼ぶ声を聞き、かけつけた。2発目の弾丸により建物の窓ガラスが割れ、その下にいた数人に割れたガラスが降り注いだ。大体が軽傷だったが、ひとりの少女は首元を切り多量に出血していた。命に関わると判断し、医療設備が充実している城に搬送したのだ。だが、なにぶん失血がひどく、王国の最先端医療でも助かるかは五分五分だという。
「クソ…っ間違ったな…」
「…」
王や国の要人を守ることが護衛の役目とはいえ、一般国民を巻き込んでしまったのは失態でしかない。レイニーは犯人確保を優先した自分の判断を悔やみ、シオンは医師たちに囲まれ動かない少女をただ見つめる。
「私に、協力させてくれないか」
そこへ、少女の容態を聞いた実がやってくる。
「ミノル様…?」
「怪我を治すことは出来ないが、失血を補うことは可能だ」
「え?」
実は身代わり護衛であり、異世界での本来の職業は警察官。医療に関する知識はないはずだ。何をしようというのかと、3人は医務室に入っていく実の背を見送る。
実は医師に何やら説明し、少女の寝るベッドに歩み寄る。そして、腰を屈めると彼女の唇に唇を重ねた。
「?!!」
どう見ても、中年男性と幼い少女のディープキス。まさかの行動に周りの者は驚愕し、真っ白に固まってしまう。
数分後、実は彼女から唇を離した。
「これで失血死の心配はないと思います。後はよろしくお願いします」
ポカンとしている医師らにそう告げると、医務室を出る。ふと医師が少女を見ると、何故か真っ青だった顔色に赤みがさし、弱々しかった呼吸も安定してきている。実が何をしたのか全くわからないが、命は助かりそうだ。医師らは安堵し、治療を再開した。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
32
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる