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17,伝授
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「はい!抜けがけ禁止ぃーっっ!!」
そこへ、ズバンっとドアが勢いよく開き、レイニーが部屋に飛び込んでくる。が
「部屋にいないと思ったら、やっぱりだ!!抜けがけはしないって決め…」
「んっ…んー…っ」
怒鳴るレイニーと離れようともがくシオンに構わず、シャウアはキスをし続ける。
「無視するな!!止めろ!!」
「お前に人のことが言えるのか?レイニー」
レイニーがベリッとふたりを引きはがし、シャウアは冷ややかににらんで言い返す。
「うるさい!そもそも、こうなってるのはシオンがはっきりしないからだろ?!」
「え?」
レイニーの怒りの矛先が自分になり、シオンはキョトンとする。
「そうだな。そろそろ俺なのかレイニーなのかはっきりしてもらおうか」
「ええ…?」
シャウアも同じことを言い出す。
「「さぁシオン!どっちを選ぶ?!」」
双子は声を合わせ、『最初から決めてました。お願いします』のごとくシオンに手を差し出す。
「…はっきり、してますよ?」
シオンは呆気にとられた後、ふっと口を開く。
「僕はおふたりの弟です。おふたりからこんなに愛されてとても幸せです」
「「…っっ!!」」
ふたりをかわいらしく見上げる、綺麗な笑顔。双子はズドンッと心を射抜かれる。
「シオン…」
「俺も…っお前の兄ちゃんで幸せだ…っ!」
涙がこみ上げるほど感激し、シオンを両脇から抱きしめる。
「…はっ?!またごまかされた!」
「本当にかわいいな、お前は」
レイニーははぐらかされたことに気づき、結局シオンの前ではポンコツになるシャウアはうっとりしてシオンの頭をなでまわす。
「シャウア、しっかりしろ!こいつ答えてないぞ!!」
「もう一度キスしていいか?」
「ぅおいっ!!」
シオンは抱きしめられながら、ふたりのやりとりにそっと微笑む。このふたりの兄貴分はシオンにとって唯一甘えていい存在であり、心のブレーキでもあった。ただ、何もかもを信頼して許せる相手とは言えず、双子の思うように未だ兄のサンカがシオンのすべてだった。
「記念式典に僕もですか」
ある日。護衛事務室に呼ばれたシオンはレイニーとシャウアから渡された資料に目を通していた。
ウェア王の在位30周年を祝う記念式典が他国からの来賓も招き、来月、国をあげて盛大に開催される予定なのだ。
「ああ」
「お前もそろそろ重要な任務についてもいい頃だろう」
護衛長の双子はうなずく。14歳の時から王室護衛となり、3年のキャリアがあるシオンだが、未成年なのと、この双子が過保護なのとで護衛らしい任務についたことはほとんどなかった。記念式典は護衛総出で警護をこなさなければならない重要行事。この機にシオンも護衛らしい任務を経験すべきと、双子は苦渋の決断をしたようだ。ちなみに学校は夏休み中だ。
「心配することないぞ!俺たちもいるしな」と、レイニーは笑ってポンポンとシオンの肩を叩く。
「ああ。ミノル様も腕のたつ信頼出来る方だ。落ち着いていれば何の問題もない」
シャウアもにこりと笑む。
『ミノル』とはウェア王と瓜二つの外見をしており、王の露出が必要な行事の際などに『身代わり』を務める特別な護衛、城野実(ジョウノミノル)のこと。彼はこの世界とは歴史も地理も異なる世界…いわゆる異世界の住人であり、歴代の護衛長のみがその異世界におもむき、彼を迎え入れる。今回の式典も、ほぼ実がウェア王に代わって公の場に立つことになる。
「はい、お役に立てるよう力を尽くします。よろしくお願いします」
シオンは深々と頭を下げた。
「メンバル王の護衛にも一緒についてみるか?」
唯一国交のある国、メンバル王国の王は他より早く来訪するため、滞在中の護衛につくことになっているのだ。
「でも、来訪日は学校の飲み会と重なっているぞ?」
「?!の、飲み会ではなく、懇親会です。何故知っているのですか?」
知らせていない学校行事を知っているふたりに、シオンはぎょっとする。シューカ街の高等部2年生は夏休み中に懇親会を開くのが通例なのだ。
「お前のカバンに知らせの手紙が入っていたぞ」
「午後からだったな。行くんだろう?」
「…」
通学バッグの中身を勝手に見ていることを当然のように話され、訴えたら勝てるだろうかと過保護を通り過ぎている双子への訴訟が頭をよぎった。
「実だ。よろしく頼むよ」
「はい、お願いします。ミノル様」
1週間後。城のエントランスホールにて、シオンはレイニーとシャウアの送迎で来訪した実と初めて対面した。にこやかにあいさつする実に、片膝をついてうやうやしく頭を下げる。
実の姿は聞いていたとおり、髪と目の色を除けば王と全く同じ。フランクな王よりは真面目で人当たりの良い雰囲気だ。
「護衛長!大臣がお呼びです」
そこへ、大臣の補佐官が双子を呼びにくる。
「え?!今?!」
「ああ、今行く」
げっと言う顔をするレイニーを制して、シャウアがうなずく。
「ミノル様、少々お待ちいただいてよろしいですか?」
「申し訳ありません!ミノル様」
「うん、構わない」
頭を下げる双子の護衛長に、実はにこにこと手を上げる。
護衛長は身代わり護衛の世話役も担う。記念式典までここでの生活の世話をするため、基本そばについていなければならない。
「シオン!ミノル様のお相手を頼めるか?」
「え…っ」
「大丈夫だ。ミノル様はこの世界に慣れていらっしゃる。おそばにいればいいだけだ」
「はい、わかりました」
人見知りで会話の苦手なシオンは一瞬戸惑ったが、シャウアに耳打ちされてうなずいた。
シオンは実をティールームに案内し、そこで待つことにした。
「シオン君」
「はい」
お茶を淹れるシオンを実はじっと見つめる。
「君は金眼保有者だろう?少し、他の保有者と違うように感じるが…」
金眼保有者には特有の雰囲気があり、血縁者や勘のいい者は眼を隠していてもなんとなくわかる。実はシオンの特殊さにも気づいていた。
「…はい、僕の眼は8年前に」
「いや、すまない。それ以上話さなくていい。私のような部外者が知ることではないだろう?」
隠す意味はないかとシオンは自分の素性を話そうとするが、止められる。
「…」
申し訳なさそうに笑む実に返事も出来ず、そっとティーカップを置く。実はあくまで自分は異世界の人間だと割り切っている。必要以上の個人的な情報を得るつもりはないのだ。
「それより、君はすごい力を秘めているな。訓練で抑え込んでいるのか?持て余してつらそうに見える」
「…いいえ、そのようなことはありません」
シオンは少しためらうが否定する。
「隠さなくても大丈夫だ」と、実はにこやかに微笑む。
「私は他言しないし、それを理由に君を避けたりもしない」
「…」
初対面なのにシオンの力の大きさを見破り、気遣い、安心させる。レイニーとシャウアとはまた異なるが、警戒しなくてもいい人だとシオンは思う。
「もし、君にその気があるならでいいのだが、私の『術』を引き継いでみないか?」
「ジュツ…?」
初めて聞く言葉に首をかしげた。
数日後。
「驚いた。こんな短期間で習得してしまうとはな」
「ありがとうございます」
記念式典の準備の合間を縫い、実はシオンに『術』のひとつ『結界』を伝授した。
『結界』は主に土地や建物に施し、そこに侵入しようとする者の把握が出来る。特に悪意ある者に対しては侵入を拒むことも可能である。ウェア王を守るため、身代わり護衛をつとめる城野家の家長に代々伝わってきたものだ。
普通、身につけるには数年かかり、シオンの並外れたセンスと力量に実は脱帽する。
「慣れてきたら、国境に張るといい。密入国者の把握が出来る」
国を閉じているウェア王国だが、犯罪目的の密入国者が後をたたず、悩みのタネだ。実がそれを防ぐ『結界』を張ることは出来るが、異世界に帰れば解けてしまう。ウェア王国の者であるシオンが張れば、その問題はない。
「それに、君の力が分散されて楽になるだろう」
「はい」
有り余る力を結界に注ぎ、少しはこの少年の苦痛を軽減出来ればと実は考えていた。
「あの、ミノル様。この『術』は人物に張ることは可能ですか」
「可能だよ。だが、人に対しては相手との信頼関係が成り立っていないと出来ない」
「信頼…」
「王に張ることが出来れば最善なのだろうが…ああいう方だからな。何も気にしていないようで、誰ひとり信頼していない。だからこそ、あの方には私や君たちが必要なんだろう?」
「…そうですね」
シオンはうなずく。フランクで裏表のなさそうな王だが、本当の意味で他人を信頼してはいない。一国を治める者として、心の内は誰にも見せるべきではないのだろう。ただ、シオンの兄…サンカは王にとっても特別だったのかもしれないとシオンは思った。
記念式典まであと1週間に迫ったある日、他の国よりひと足早く、ある国の王がウェア王国に来訪した。現在、ウェア王国と唯一国交のある国、メンバル王国のメンバル王だ。
「久しぶり。よく来てくれたね」
きらびやかな謁見の間。ウェア王は台座上の椅子から立ち上がり、約1年ぶりに会う友人に手を差し出す。
「ああ、しばらく来れなくてすまなかった」
メンバル王は台座の前に進み出ると、友人の手を力強く握る。
メンバル王国はウェア王国と同じく、戦争を放棄した国。メンバル王からのアプローチで国交が始まり、平和への考え方が合うとわかった両王は友人として頻繁に会うようになった。身代わりの実でなく、ウェア王本人と会えるただひとりの外国人でもある。
「いいや、大変なんだろう?」
「まぁ、色々とな」
「立ち話もなんだから、向こうでゆっくり話そう。食事の用意もあるよ」
「ありがとう」
ふたりは横に並び、穏やかに話をしながら謁見の間をあとにする。その後ろを護衛長ふたりとシオンら数人の護衛がついていった。
そこへ、ズバンっとドアが勢いよく開き、レイニーが部屋に飛び込んでくる。が
「部屋にいないと思ったら、やっぱりだ!!抜けがけはしないって決め…」
「んっ…んー…っ」
怒鳴るレイニーと離れようともがくシオンに構わず、シャウアはキスをし続ける。
「無視するな!!止めろ!!」
「お前に人のことが言えるのか?レイニー」
レイニーがベリッとふたりを引きはがし、シャウアは冷ややかににらんで言い返す。
「うるさい!そもそも、こうなってるのはシオンがはっきりしないからだろ?!」
「え?」
レイニーの怒りの矛先が自分になり、シオンはキョトンとする。
「そうだな。そろそろ俺なのかレイニーなのかはっきりしてもらおうか」
「ええ…?」
シャウアも同じことを言い出す。
「「さぁシオン!どっちを選ぶ?!」」
双子は声を合わせ、『最初から決めてました。お願いします』のごとくシオンに手を差し出す。
「…はっきり、してますよ?」
シオンは呆気にとられた後、ふっと口を開く。
「僕はおふたりの弟です。おふたりからこんなに愛されてとても幸せです」
「「…っっ!!」」
ふたりをかわいらしく見上げる、綺麗な笑顔。双子はズドンッと心を射抜かれる。
「シオン…」
「俺も…っお前の兄ちゃんで幸せだ…っ!」
涙がこみ上げるほど感激し、シオンを両脇から抱きしめる。
「…はっ?!またごまかされた!」
「本当にかわいいな、お前は」
レイニーははぐらかされたことに気づき、結局シオンの前ではポンコツになるシャウアはうっとりしてシオンの頭をなでまわす。
「シャウア、しっかりしろ!こいつ答えてないぞ!!」
「もう一度キスしていいか?」
「ぅおいっ!!」
シオンは抱きしめられながら、ふたりのやりとりにそっと微笑む。このふたりの兄貴分はシオンにとって唯一甘えていい存在であり、心のブレーキでもあった。ただ、何もかもを信頼して許せる相手とは言えず、双子の思うように未だ兄のサンカがシオンのすべてだった。
「記念式典に僕もですか」
ある日。護衛事務室に呼ばれたシオンはレイニーとシャウアから渡された資料に目を通していた。
ウェア王の在位30周年を祝う記念式典が他国からの来賓も招き、来月、国をあげて盛大に開催される予定なのだ。
「ああ」
「お前もそろそろ重要な任務についてもいい頃だろう」
護衛長の双子はうなずく。14歳の時から王室護衛となり、3年のキャリアがあるシオンだが、未成年なのと、この双子が過保護なのとで護衛らしい任務についたことはほとんどなかった。記念式典は護衛総出で警護をこなさなければならない重要行事。この機にシオンも護衛らしい任務を経験すべきと、双子は苦渋の決断をしたようだ。ちなみに学校は夏休み中だ。
「心配することないぞ!俺たちもいるしな」と、レイニーは笑ってポンポンとシオンの肩を叩く。
「ああ。ミノル様も腕のたつ信頼出来る方だ。落ち着いていれば何の問題もない」
シャウアもにこりと笑む。
『ミノル』とはウェア王と瓜二つの外見をしており、王の露出が必要な行事の際などに『身代わり』を務める特別な護衛、城野実(ジョウノミノル)のこと。彼はこの世界とは歴史も地理も異なる世界…いわゆる異世界の住人であり、歴代の護衛長のみがその異世界におもむき、彼を迎え入れる。今回の式典も、ほぼ実がウェア王に代わって公の場に立つことになる。
「はい、お役に立てるよう力を尽くします。よろしくお願いします」
シオンは深々と頭を下げた。
「メンバル王の護衛にも一緒についてみるか?」
唯一国交のある国、メンバル王国の王は他より早く来訪するため、滞在中の護衛につくことになっているのだ。
「でも、来訪日は学校の飲み会と重なっているぞ?」
「?!の、飲み会ではなく、懇親会です。何故知っているのですか?」
知らせていない学校行事を知っているふたりに、シオンはぎょっとする。シューカ街の高等部2年生は夏休み中に懇親会を開くのが通例なのだ。
「お前のカバンに知らせの手紙が入っていたぞ」
「午後からだったな。行くんだろう?」
「…」
通学バッグの中身を勝手に見ていることを当然のように話され、訴えたら勝てるだろうかと過保護を通り過ぎている双子への訴訟が頭をよぎった。
「実だ。よろしく頼むよ」
「はい、お願いします。ミノル様」
1週間後。城のエントランスホールにて、シオンはレイニーとシャウアの送迎で来訪した実と初めて対面した。にこやかにあいさつする実に、片膝をついてうやうやしく頭を下げる。
実の姿は聞いていたとおり、髪と目の色を除けば王と全く同じ。フランクな王よりは真面目で人当たりの良い雰囲気だ。
「護衛長!大臣がお呼びです」
そこへ、大臣の補佐官が双子を呼びにくる。
「え?!今?!」
「ああ、今行く」
げっと言う顔をするレイニーを制して、シャウアがうなずく。
「ミノル様、少々お待ちいただいてよろしいですか?」
「申し訳ありません!ミノル様」
「うん、構わない」
頭を下げる双子の護衛長に、実はにこにこと手を上げる。
護衛長は身代わり護衛の世話役も担う。記念式典までここでの生活の世話をするため、基本そばについていなければならない。
「シオン!ミノル様のお相手を頼めるか?」
「え…っ」
「大丈夫だ。ミノル様はこの世界に慣れていらっしゃる。おそばにいればいいだけだ」
「はい、わかりました」
人見知りで会話の苦手なシオンは一瞬戸惑ったが、シャウアに耳打ちされてうなずいた。
シオンは実をティールームに案内し、そこで待つことにした。
「シオン君」
「はい」
お茶を淹れるシオンを実はじっと見つめる。
「君は金眼保有者だろう?少し、他の保有者と違うように感じるが…」
金眼保有者には特有の雰囲気があり、血縁者や勘のいい者は眼を隠していてもなんとなくわかる。実はシオンの特殊さにも気づいていた。
「…はい、僕の眼は8年前に」
「いや、すまない。それ以上話さなくていい。私のような部外者が知ることではないだろう?」
隠す意味はないかとシオンは自分の素性を話そうとするが、止められる。
「…」
申し訳なさそうに笑む実に返事も出来ず、そっとティーカップを置く。実はあくまで自分は異世界の人間だと割り切っている。必要以上の個人的な情報を得るつもりはないのだ。
「それより、君はすごい力を秘めているな。訓練で抑え込んでいるのか?持て余してつらそうに見える」
「…いいえ、そのようなことはありません」
シオンは少しためらうが否定する。
「隠さなくても大丈夫だ」と、実はにこやかに微笑む。
「私は他言しないし、それを理由に君を避けたりもしない」
「…」
初対面なのにシオンの力の大きさを見破り、気遣い、安心させる。レイニーとシャウアとはまた異なるが、警戒しなくてもいい人だとシオンは思う。
「もし、君にその気があるならでいいのだが、私の『術』を引き継いでみないか?」
「ジュツ…?」
初めて聞く言葉に首をかしげた。
数日後。
「驚いた。こんな短期間で習得してしまうとはな」
「ありがとうございます」
記念式典の準備の合間を縫い、実はシオンに『術』のひとつ『結界』を伝授した。
『結界』は主に土地や建物に施し、そこに侵入しようとする者の把握が出来る。特に悪意ある者に対しては侵入を拒むことも可能である。ウェア王を守るため、身代わり護衛をつとめる城野家の家長に代々伝わってきたものだ。
普通、身につけるには数年かかり、シオンの並外れたセンスと力量に実は脱帽する。
「慣れてきたら、国境に張るといい。密入国者の把握が出来る」
国を閉じているウェア王国だが、犯罪目的の密入国者が後をたたず、悩みのタネだ。実がそれを防ぐ『結界』を張ることは出来るが、異世界に帰れば解けてしまう。ウェア王国の者であるシオンが張れば、その問題はない。
「それに、君の力が分散されて楽になるだろう」
「はい」
有り余る力を結界に注ぎ、少しはこの少年の苦痛を軽減出来ればと実は考えていた。
「あの、ミノル様。この『術』は人物に張ることは可能ですか」
「可能だよ。だが、人に対しては相手との信頼関係が成り立っていないと出来ない」
「信頼…」
「王に張ることが出来れば最善なのだろうが…ああいう方だからな。何も気にしていないようで、誰ひとり信頼していない。だからこそ、あの方には私や君たちが必要なんだろう?」
「…そうですね」
シオンはうなずく。フランクで裏表のなさそうな王だが、本当の意味で他人を信頼してはいない。一国を治める者として、心の内は誰にも見せるべきではないのだろう。ただ、シオンの兄…サンカは王にとっても特別だったのかもしれないとシオンは思った。
記念式典まであと1週間に迫ったある日、他の国よりひと足早く、ある国の王がウェア王国に来訪した。現在、ウェア王国と唯一国交のある国、メンバル王国のメンバル王だ。
「久しぶり。よく来てくれたね」
きらびやかな謁見の間。ウェア王は台座上の椅子から立ち上がり、約1年ぶりに会う友人に手を差し出す。
「ああ、しばらく来れなくてすまなかった」
メンバル王は台座の前に進み出ると、友人の手を力強く握る。
メンバル王国はウェア王国と同じく、戦争を放棄した国。メンバル王からのアプローチで国交が始まり、平和への考え方が合うとわかった両王は友人として頻繁に会うようになった。身代わりの実でなく、ウェア王本人と会えるただひとりの外国人でもある。
「いいや、大変なんだろう?」
「まぁ、色々とな」
「立ち話もなんだから、向こうでゆっくり話そう。食事の用意もあるよ」
「ありがとう」
ふたりは横に並び、穏やかに話をしながら謁見の間をあとにする。その後ろを護衛長ふたりとシオンら数人の護衛がついていった。
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