魔法村 TEEN'(ティーンズ)〜魔王の娘と10代のニートは臭気に毒された村を救う!?〜

まどはな

文字の大きさ
上 下
17 / 27
第1章

第16話 誰の声?

しおりを挟む
 北の森の奥深く。
 そのさらに奥深くに、一人の男が佇んでいた。

 「うーん、この辺りは初めて来る場所だな。よし、ここで少し採集しておこう……おや?この花はもしかして……」

 白衣を着ているその男は魔法学者だ。
 魔法学者はしゃがみ込み、背中のリュックを下ろして中からスケッチブックを取り出した。

 「これは……はす?いやでも地面から直接生えているかのようだ……これではまるで睡蓮すいれんではないか。しかしなぜ、こんな水気のない場所に一輪だけ……?」

 魔法学者は蓮と睡蓮、どちらとも取れるような見た目の不思議な花を見つめ、スケッチを始めた。


 『……おにいさん、そんなところでなにしてるの?』


 「えっ?……う、うああああああ!?!!!」

 ふいに誰かの声が聞こえた気がして顔を上げた瞬間、魔法学者は自分の足元がぬかるんでいることに気が付いた。

 「な、なんなんだ?どうして急にこんな……うあああ!?!!」

 驚いて尻もちを着いた魔法学者は、体が思うように動かないことに違和感を覚えた。
 足元のぬかるみは沼のようになっており、動けば動くほど足を取られるのである。
 このままでは下手すると沼に沈みかねない。

 「うわっ!こ、これは不味いかもしれない……。いや、僕なら大丈夫なはず!こういうときは全身が沈まないように、こう体を横にして……」

 一瞬驚きはしたが、魔法学者は至って冷静に対処しようと試みた。

 「あっ!学者さん!?!!どうしたのー!?」

 ちょうどそこへ、魔王の娘が走ってやって来た。

 沼の真ん中に一人ではまっている魔法学者を見つけ、不審そうな顔をしたが、助けが必要なことを察して直ぐに白い杖を取り出した。

 「 “ホワイトさん” 、学者さんを沼から出してあげて!」

 杖は白い光を放った。
 白い光はみるみる大きくなり魔法学者を包み込むと、魔法学者ごと持ち上げて魔王の娘の側まで運んできた。

 「ありがとうホワイトさん!」

 魔王の娘は杖に御礼を言うと、杖も返事をするように静かに白く光り、やがて光は消えていった。

 「こ、これはこれは、魔法使いちゃん!?助けてくれてどうもありがとう!でも、どうしてここに?ホワイトさんって新しい杖だよね?ということは、君も魔法村に派遣されてきたの?」

 目を白黒させながら質問攻めしてくる魔法学者に、魔王の娘は笑って頷いた。

 「そうなの、私も魔法村に派遣されたんだよ!この子は武器屋さんに作って貰った杖で、ホワイトさん!白いから!!」

 ちなみに、魔王の娘の初代の杖は茶色なので “ブラウンさん” だ。

 「そうかそうか、魔法使いちゃんも来てくれたのかー!何だか嬉しいね。ホワイトさんもありがとう!」

 白い杖は白く光った。
 「どういたしまして」と言っているようだ。

 「うーん、でも何か変なんだよね……」

 「変?……そういえば、学者さんはどうしてあんな場所にいたの?」

 魔法学者は先程の出来事を順を追って説明した。

 「そうだったんだ……。実はね、私も……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。 元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Fragment-memory of future-

黒乃
ファンタジー
小説内容の無断転載・無断使用・自作発言厳禁 Repost is prohibited. 무단 전하 금지 禁止擅自转载 平和な生活を送っていた半人前の魔術師レイはある日、まるで予知夢のような不思議な夢を見る。その夢の正体を突き止めるため、謎に引き込まれるように彼は旅に出ることにした。 旅の最中で異種族の少年エイリークと出会い、物語は大きく動くことになる。 W主人公で繰り広げられる冒険譚のような、RPGを彷彿させるようなストーリーになります。 バトル要素、BL要素あり。転生転移ものではありません。 Copyright 2017 黒乃(@2kurono5)

処理中です...