魔法村 TEEN'(ティーンズ)〜魔王の娘と10代のニートは臭気に毒された村を救う!?〜

まどはな

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第1章

第12話 二つの影

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 夜、王立魔法教会の一室には二つの影があった。

 一つはウェーブのかかった長髪、情報屋だ。

 「魔法使いちゃんは本日、無事に魔法村へ到着しましたー。予定通りニートを協力者として、明日から臭気の原因を探りに出発するそうですー」

 敬語こそ使ってはいるが、その声に抑揚はなく、彼女の表情筋は死んでいる。

 「そうかそうかー。ん?でも魔法使いはもう村に着いたんだろ?また出発ってどういうことだ?」

 もう一つの影は、この部屋の主だ。

 書斎の椅子にゆったりと腰を掛けているその女は、ギリギリ肩に届く長さの銀色の髪を無造作に下ろし、頭に独特な帽子を被っている。
 丈の長いワンピースのようなものは、帽子と同じ素材で作られており、どちらにも王立魔法教会を象徴する模様が刻まれている。

 この女こそが王立魔法教会の司教だ。

 「あー。何かですねー、どうやらもう一人協力者がいるらしくて、武器屋っていう男なんですけど。その男は魔法村についてかなり詳しいようで、北の森へ向かうことにしたって聞きましたねー」

 情報屋は面倒くさそうに応えた。

 「なるほどねー。了解ー。ご報告どうもありがとう。……帰っていいよ!」

 情報屋の態度は、国王級の地位と権利を持つ司教に対してのものとは到底思えない。
 しかし、司教は全く気にした様子もなく爽やかな笑顔で情報屋を送り出した。
 大人の余裕というやつだろうか。



 「……っ!本当あの女といると吐き気がするわ……」

 情報屋は得意の胡散臭い笑顔で「失礼致します、司教様♡」と言い残し、司教の部屋から出るなりそう吐き捨てた。
 しばらく廊下を歩いていた彼女は、突然口元を押さえて「気持ち悪い……」と呟き、壁にもたれかかった。

 「おい、情報屋!」

 すぐ側から男の声が聞こえた。

 「……賢者君」

 声の主は賢者だった。
 情報屋の姿を見て心配そうな顔をしている。

 「お前はあまり無理をするな。……その、今日は私が外出していたばかりに、苦手な司教様に会わせてしまい申し訳ない」

 賢者はそう謝罪すると、情報屋に肩を貸して廊下を歩き出した。

 「ええ~。賢者君が謝ることじゃないでしょ?」

 「だがしかし……」

 「ふふっ。……ねえ、賢者君、今帰って来たばかりなんでしょう?私のこと心配してここまで来てくれたんだ~?嬉しいな~!」

 情報屋は嬉しそうな笑顔で賢者を見ている。

 「……元気があるなら一人で歩け」

 事実、情報屋の言った通りであったが、素直でない賢者は無愛想にそう呟くと黙ったまま歩き続けた。

 「ええ~。酷いな~。優しくしてくれるんじゃないのかしら~?」

 親しげな二つの影は廊下を進み続けると、一つの扉の中に消えていった。



 そんなふたりの様子を廊下の死角から監視している者がいた。

 「……っ!司教様にご報告しなくては……!」
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