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第1章
第9話 魔法使いの杖
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「着いたぞ。ここだ」
武器屋の店は宿屋のすぐ側にあった。
外観は店というより小屋に近く、一見、武器屋とはわからないだろう。
しかし、彼いわく武器屋に用がある者は馴染みの客くらいしかいないため、店の外観はどうでもいいらしい。
「さあ、入れ」
武器屋はそう言いながら入り口の扉を開けると、先に店の中へ入って行った。
「あのさ、武器屋のことなんだけど……」
ニートは急によそよそしくなり、隣にいる魔王の娘に話しかけた。
「彼のこと、あっさり受け入れちゃったけど、本当に良かったのかな……」
「え、どうして?」
魔王の娘はきょとんとした表情で言った。
「実はボク、村で彼の噂を少しだけ聞いたことがあるんだ……。武器屋は商売人なのに、わざわざ村の外れに店を構えているのは……その……黒い武器とかを作って、森で実験しているんじゃないか、とか……」
黒い武器とは、人間はもちろん魔法使いも使用を禁じられている呪術を取り入れた武器のことである。
呪術は魔界で使用されている魔法の一種であるが、あまりにも強力なため一般の魔法使いも使いこなすことができず、暴走してしまうことがあるほど危険なものである。
「彼、滅多に村に降りて来ないし……雰囲気も何処か怪しいし……大丈夫かな……」
話を聞いていた魔王の娘の桃色の頬は、だんだんと膨らんでいった。
「も~う!ニートくん!!噂話を信じちゃだめでしょ!!」
「えっ!?あ、はい」
怒りだした魔王の娘に一瞬驚きつつ、ニートは「怒った顔も可愛いよな……」と、別のことを考える余裕もできていた。
「武器屋さんはすごく優しい人なの!……魔法使いの私にはわかるの。本当だよ……」
急にしゅんとした魔王の娘の姿を見て、ニートは訳が分からず「ごめん、信じるよ……」と呟くことしかできなかった。
「お嬢ちゃん、この辺りの杖なんかはどうだ?」
店内を物色していた魔王の娘に武器屋は声をかけた。
「わあ~!どれもかわいいね!」
武器屋の指さした一角にある杖たちは、どれもこだわり抜いて作られたものなのだろう、造形は美しく、上品に宝石が散りばめられていた。
魔王の娘はふいに、一本の杖に目が止まった。
その杖は真っ白だった。
長さは魔王の娘の肩くらいだろうか。
柄の部分は繊細な螺旋を描き、頭には睡蓮の花の形をあしらったクリスタルの装飾が施されていた。
クリスタルは透明だが、光の加減によって様々な色に見える。
魔王の娘は幻想的な魅力に惹かれ、その杖に手を伸ばした。
杖は彼女が持っても重く感じることはなかった。
「これ……私、この杖が良い」
魔王の娘は真剣な表情で言うと、杖をぎゅっと握り締めた。
武器屋の店は宿屋のすぐ側にあった。
外観は店というより小屋に近く、一見、武器屋とはわからないだろう。
しかし、彼いわく武器屋に用がある者は馴染みの客くらいしかいないため、店の外観はどうでもいいらしい。
「さあ、入れ」
武器屋はそう言いながら入り口の扉を開けると、先に店の中へ入って行った。
「あのさ、武器屋のことなんだけど……」
ニートは急によそよそしくなり、隣にいる魔王の娘に話しかけた。
「彼のこと、あっさり受け入れちゃったけど、本当に良かったのかな……」
「え、どうして?」
魔王の娘はきょとんとした表情で言った。
「実はボク、村で彼の噂を少しだけ聞いたことがあるんだ……。武器屋は商売人なのに、わざわざ村の外れに店を構えているのは……その……黒い武器とかを作って、森で実験しているんじゃないか、とか……」
黒い武器とは、人間はもちろん魔法使いも使用を禁じられている呪術を取り入れた武器のことである。
呪術は魔界で使用されている魔法の一種であるが、あまりにも強力なため一般の魔法使いも使いこなすことができず、暴走してしまうことがあるほど危険なものである。
「彼、滅多に村に降りて来ないし……雰囲気も何処か怪しいし……大丈夫かな……」
話を聞いていた魔王の娘の桃色の頬は、だんだんと膨らんでいった。
「も~う!ニートくん!!噂話を信じちゃだめでしょ!!」
「えっ!?あ、はい」
怒りだした魔王の娘に一瞬驚きつつ、ニートは「怒った顔も可愛いよな……」と、別のことを考える余裕もできていた。
「武器屋さんはすごく優しい人なの!……魔法使いの私にはわかるの。本当だよ……」
急にしゅんとした魔王の娘の姿を見て、ニートは訳が分からず「ごめん、信じるよ……」と呟くことしかできなかった。
「お嬢ちゃん、この辺りの杖なんかはどうだ?」
店内を物色していた魔王の娘に武器屋は声をかけた。
「わあ~!どれもかわいいね!」
武器屋の指さした一角にある杖たちは、どれもこだわり抜いて作られたものなのだろう、造形は美しく、上品に宝石が散りばめられていた。
魔王の娘はふいに、一本の杖に目が止まった。
その杖は真っ白だった。
長さは魔王の娘の肩くらいだろうか。
柄の部分は繊細な螺旋を描き、頭には睡蓮の花の形をあしらったクリスタルの装飾が施されていた。
クリスタルは透明だが、光の加減によって様々な色に見える。
魔王の娘は幻想的な魅力に惹かれ、その杖に手を伸ばした。
杖は彼女が持っても重く感じることはなかった。
「これ……私、この杖が良い」
魔王の娘は真剣な表情で言うと、杖をぎゅっと握り締めた。
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