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研究室
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昔のことを思い出しつつも、研究室へ歩みを進めていた。
Ωの為の抑制剤の研究。
昔よりは効き目があるものが流通しているが、まだまだ副作用が出やすい。
また、発情期が近づくと無意識に出てしまうフェロモンを抑える薬は無い。
それらを何回も分けて飲むのを大変だろうから、ひとつに出来ないかを研究している。
研究室に入り、白衣を着る。
俺の中での戦闘服みたいなものだ。
いつもの様に自分の席に着き、続きを始める。
葛城もいつもの向かいの席で、仕事を始める。
研究室には、俺たち二人だけで、他の人達も多分休憩に行ったのか、いなかった。
「教授も休憩に行ったのか?」
「あぁ、多分。俺に言伝して行った時にな。」
「なるほど。夕方にスポンサーが来るとか言ってたし。今のうちにかもな。」
「新しい医療系企業だっけ?」
「いや、確か神宮寺グループが新しく立ち上げたとこらしい。神宮寺グループは最初の方でスポンサーになってるから、まぁ、顔合わせってとこらしい。」
「まだ新たに作るとか、すげぇな。どんだけの規模なんだろ。就活生、多そう。」
「確かにな。今更だけど、お前、ホントにここに就職して良かったのか?」
「今更も何も、椎名が立ち上げた会社に、魅力的だったし。教授もいることで尚更安心材料でしょ。」
大学卒業と同時に、小さな研究所の経営も始めた。ずっと教授のとこにいる訳にも行かないし、場所だけ借りて研究を続けようとしたら、「みずくさいよ。椎名君。僕を共同経営者にしなさい。」との小言付き。
経営も大変なとこもあるが、教授との共同経営もあり、研究用機器も格安で使えた。
俺が会社を立ち上げることを葛城に話すと、「俺が社員一号ってことで!」とすんなりと入社してしまった。
俺的にはやりやすい相手だから、助かったがあっさり決めてしまう葛城にはびっくりしていた。
PCに実験結果をまとめていると、
「凄く今更だけどさ、椎名ってホントにΩ?」
今更な話を振ってくる葛城。
「ホント、今更だな。診断結果はΩだけど?なんで?」
「俺が知る限り、ずっと大学にもいたし、今も普通働いてるじゃん。Ωなら、発情期休暇?取るはずなのに、お前取らないじゃん?それともまだ発情期、来てないとか?」
「お前が休みの時に取ってる可能性もあるけど?」
「経理もやってる俺に聞く?教授にも確認済みですけど?ほぼ毎日居るってね。」
「…発情期はある。ただ…」
「ただ?何?」
真剣に聞いてくる葛城に隠せないと感じた俺は正直に自分の特異体質を話すことにした。
「発情期…、1日で終わってしまうんだ。しかも軽度。市販の抑制剤を飲むだけで治まる。あと、フェロモンが一切でない体質なんだよ。病院でも調べたけどな、原因は不明。」
「…そんなことあるのか?」
「色々な病院、Ω専用病院でも調べてもらったけど、分からず終い。発情期でさえもフェロモン数値は、0に近い数値だった。」
「…Ωの診断が間違ってるとかは?」
「何回もやったさ。でも、全ての診断結果はΩだった。こんなことは前例もないって言われたよ」
「だから、この研究をしてるのか?」
「俺の体質だと社会進出がしやすい。薬でこの体質を作れるなら、沢山の人達を救えるかもって思ってた。」
「体験者は語るね…。それでいいのか?」
「いいのかって何?」
葛城が聞いてくる意味が分からなかった。
「Ωであるお前は、ずっと1人で生きて行くのかってこと。」
「…多分な。Ωとしての機能がほぼ無い俺にはきっと子孫を残すなってことを言われてるんだと思う。それに、怖いんだ…。誰かのパートナーになること…。…心のどこかで両親みたいになってしまうんじゃないかって…。まぁ、有難いことにほぼβのような生活をさせて貰えるんだから、社会貢献しないとな?この体質を活かせと言われてる気がするし、将来のΩ達に希望を与えると思ってな。」
苦笑いしか出来ない俺を痛々しいように見つめる葛城。
「…お前を幸せにしてくる人はきっといるよ…。」
「…ふっ、いつでも優しいな、お前は。」
「…辛くなる前にちゃんと吐き出せよ?話を聞くとか、酒に付き合うしか出来ないけどさ…。」
「…彼女に怒られない程度にしとく。」
「お前のことは大好きな彼女だから、許してくれるよ」
「優しいよな。飛鳥ちゃんも。」
「付き合う前から、お前のファンだぞ?四六時中お前の傍にいる俺に嫉妬するくらいにな」
「別にいつでも、会ってもいいんだけど?」
「推しの供給過多になるから、程々でいいらしい。まぁ、写真は取ってきてとは言われる」
「そうなのか。葛城の方こそ、考えてないのか?結婚。」
「うーん、考えてるよ。アイツも仕事が落ち着く頃にって話し合ってるよ。」
葛城の幸せそうな顔にホッと出来る自分にまだ人間らしさがあるんだなと他人事のように思っていた。
ちょっとだけ、葛城をいいなと思ってた時期もあった…。でも、人付き合いが上手いコイツを自分のパートナーにとはどうしてもならなかった…。葛城とは親友の方がしっくりきていたし、飛鳥ちゃんという素敵な彼女もいることも知っていたしな。
この日、まさかな出会いをすると思わずにいつものように仕事を続けた。
Ωの為の抑制剤の研究。
昔よりは効き目があるものが流通しているが、まだまだ副作用が出やすい。
また、発情期が近づくと無意識に出てしまうフェロモンを抑える薬は無い。
それらを何回も分けて飲むのを大変だろうから、ひとつに出来ないかを研究している。
研究室に入り、白衣を着る。
俺の中での戦闘服みたいなものだ。
いつもの様に自分の席に着き、続きを始める。
葛城もいつもの向かいの席で、仕事を始める。
研究室には、俺たち二人だけで、他の人達も多分休憩に行ったのか、いなかった。
「教授も休憩に行ったのか?」
「あぁ、多分。俺に言伝して行った時にな。」
「なるほど。夕方にスポンサーが来るとか言ってたし。今のうちにかもな。」
「新しい医療系企業だっけ?」
「いや、確か神宮寺グループが新しく立ち上げたとこらしい。神宮寺グループは最初の方でスポンサーになってるから、まぁ、顔合わせってとこらしい。」
「まだ新たに作るとか、すげぇな。どんだけの規模なんだろ。就活生、多そう。」
「確かにな。今更だけど、お前、ホントにここに就職して良かったのか?」
「今更も何も、椎名が立ち上げた会社に、魅力的だったし。教授もいることで尚更安心材料でしょ。」
大学卒業と同時に、小さな研究所の経営も始めた。ずっと教授のとこにいる訳にも行かないし、場所だけ借りて研究を続けようとしたら、「みずくさいよ。椎名君。僕を共同経営者にしなさい。」との小言付き。
経営も大変なとこもあるが、教授との共同経営もあり、研究用機器も格安で使えた。
俺が会社を立ち上げることを葛城に話すと、「俺が社員一号ってことで!」とすんなりと入社してしまった。
俺的にはやりやすい相手だから、助かったがあっさり決めてしまう葛城にはびっくりしていた。
PCに実験結果をまとめていると、
「凄く今更だけどさ、椎名ってホントにΩ?」
今更な話を振ってくる葛城。
「ホント、今更だな。診断結果はΩだけど?なんで?」
「俺が知る限り、ずっと大学にもいたし、今も普通働いてるじゃん。Ωなら、発情期休暇?取るはずなのに、お前取らないじゃん?それともまだ発情期、来てないとか?」
「お前が休みの時に取ってる可能性もあるけど?」
「経理もやってる俺に聞く?教授にも確認済みですけど?ほぼ毎日居るってね。」
「…発情期はある。ただ…」
「ただ?何?」
真剣に聞いてくる葛城に隠せないと感じた俺は正直に自分の特異体質を話すことにした。
「発情期…、1日で終わってしまうんだ。しかも軽度。市販の抑制剤を飲むだけで治まる。あと、フェロモンが一切でない体質なんだよ。病院でも調べたけどな、原因は不明。」
「…そんなことあるのか?」
「色々な病院、Ω専用病院でも調べてもらったけど、分からず終い。発情期でさえもフェロモン数値は、0に近い数値だった。」
「…Ωの診断が間違ってるとかは?」
「何回もやったさ。でも、全ての診断結果はΩだった。こんなことは前例もないって言われたよ」
「だから、この研究をしてるのか?」
「俺の体質だと社会進出がしやすい。薬でこの体質を作れるなら、沢山の人達を救えるかもって思ってた。」
「体験者は語るね…。それでいいのか?」
「いいのかって何?」
葛城が聞いてくる意味が分からなかった。
「Ωであるお前は、ずっと1人で生きて行くのかってこと。」
「…多分な。Ωとしての機能がほぼ無い俺にはきっと子孫を残すなってことを言われてるんだと思う。それに、怖いんだ…。誰かのパートナーになること…。…心のどこかで両親みたいになってしまうんじゃないかって…。まぁ、有難いことにほぼβのような生活をさせて貰えるんだから、社会貢献しないとな?この体質を活かせと言われてる気がするし、将来のΩ達に希望を与えると思ってな。」
苦笑いしか出来ない俺を痛々しいように見つめる葛城。
「…お前を幸せにしてくる人はきっといるよ…。」
「…ふっ、いつでも優しいな、お前は。」
「…辛くなる前にちゃんと吐き出せよ?話を聞くとか、酒に付き合うしか出来ないけどさ…。」
「…彼女に怒られない程度にしとく。」
「お前のことは大好きな彼女だから、許してくれるよ」
「優しいよな。飛鳥ちゃんも。」
「付き合う前から、お前のファンだぞ?四六時中お前の傍にいる俺に嫉妬するくらいにな」
「別にいつでも、会ってもいいんだけど?」
「推しの供給過多になるから、程々でいいらしい。まぁ、写真は取ってきてとは言われる」
「そうなのか。葛城の方こそ、考えてないのか?結婚。」
「うーん、考えてるよ。アイツも仕事が落ち着く頃にって話し合ってるよ。」
葛城の幸せそうな顔にホッと出来る自分にまだ人間らしさがあるんだなと他人事のように思っていた。
ちょっとだけ、葛城をいいなと思ってた時期もあった…。でも、人付き合いが上手いコイツを自分のパートナーにとはどうしてもならなかった…。葛城とは親友の方がしっくりきていたし、飛鳥ちゃんという素敵な彼女もいることも知っていたしな。
この日、まさかな出会いをすると思わずにいつものように仕事を続けた。
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