夕焼けの降る街

ゆた

文字の大きさ
上 下
1 / 2

降る街

しおりを挟む
空を眺めていた。
ふと、今日見ていた夢を思い出した。

淡い夢だった。
いつもと変わらない街並みをただ歩く夢だった。

ただ、違っていたのは

夢の中には彼と私以外の、誰一人いなかったこと。

私たちが住むこの街は、夕焼けが降るという迷信がある。
それが、本当なのか嘘なのかは誰も知らない。
ただ、夕焼けが降るところを見てはいけない、というのがこの街のみんなが知っていることで、年に一度の夕焼けの降る時期になると、みんなこの街の地下に閉じこもる。
夕焼けが降っているのを見るとどうなるのか、そもそも夕焼けが降るとはどうゆうことか、誰も知らないのだ。
その秘密を知ろうと、解明しようとした者がいたらしいが、その者は帰ってこなかったというらしい。

「そろそろ、夕焼けが降りそうね」
ふと、晩御飯を作る手をとめて、曇り空を見上げながら母が言った。
「また、地下室に?」
「食べ物を買ってこないと」
当然の事だというように、母はまた晩御飯を作る手を動かした。

「神様がいるんだってよ」
背後から弟の声がした。
「神様?」
「お姉ちゃん、知らないの?」
「夕焼けが降るのって神様せいなの?」
「うん」
「へえ」
心底どうでもよかった。
ただ、またしばらく外に出れなくなるのが嫌だなと思った。
神様のせいなら、なんためにこんなことするのか聞かせて欲しいものだ。

それから数日経って、案の定地下室にこもらなければならなくなった。
「お姉ちゃん、はやく」
「わかってる」
弟に急かされて、私は階段を下っていく。
「あ」
「どうしたの?」
「ぼく、忘れ物しちゃった」
弟がうつむいた。
数日すれば出れるのだから、別にいいだろう。
「別にいいでしょ、またすぐ戻ってこれるんだし」
「だめだよ、。だって、お母さん持ってきてって言ってたから」
「じゃあ私が取りにいってくるから」
「でも、もう夕焼けが降ってくるよ」
「大丈夫よ。で、何を忘れたの?」
「えっとね、」

弟が忘れたものを、取りに地下室へと続く階段をのぼる。
そろそろ夕焼けが降る頃だ。
なんなら、見てやろうじゃないか、そんな気持ちが湧いてきた。
多少の罪悪感というか、恐怖はあったものの好奇心の方が勝ってしまい、私はリビングから窓の外をみた。

嘘みたいに、綺麗だった。

夕焼けが、降ってくるのだ。
嘘みたいに、。
言葉も出ない、形容し難い感情を刺激されて、私はその景色に釘付けだった。
外に飛び出した。
抑えられない衝動と、もっと、もっと、もっと近くでみたい、刻みたい、そんな欲望が私の中を駆け巡って、私は外へと飛び出した。



夕焼けが降り始めた街に。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ
恋愛
 姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。  婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。  こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。  そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう

まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥ ***** 僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。 僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

処理中です...