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大学入学
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京心大学のキャンパスは横並びで、合計3つ存在する。中央キャンパスと東キャンパス、西キャンパスである。その3つのキャンパスには、それぞれ3つの代表的な建物が立っている。なので上空から俯瞰すれば、京心大学は3×3のような構図になっている。
中央キャンパスが芸術志向の専攻が集まる建物群である。戯曲や映像科などの創造的な科目を学ぶことが出来るコースが主である。愛九は最優秀得点者として入学した。
西キャンパスは文系科目である。法学や外国語、経済学など多彩な専攻が勢揃いしている。愛九が操作を続ける人間はここに一人入学した。
東キャンパスは理系科目である。数学や物理、コンピューター科学などの主要な専攻から、応用科学などの発展した科目を学ぶことが出来るようになっている。さらに愛九が操作をする人間もここに一人入学。
中でも中央キャンパスが最も規模が大きく、入学者が多い。理由は様々あるのだが、京心大学では芸術系が最も評価が高く、大学側としても力を入れているというのが大きい。
入学式当日。
時刻は朝。既に中央キャンパスの入学式場では満員の状態であった。会場は熱気に包まれて喧騒を極めていく。そんな中で、愛九はただひたすら冷静さを保ち、周囲を観察していた。
「それでは――年度、京心大学の入学式を執り行います」
遂に入学式が開始した。
それから数分後に学長スピーチが終了すると、進行係の人間が式を進めていく。次はとうとう新入生代表挨拶だった。もちろん最高得点獲得者の愛九を初めてとして、4人がそのスピーチを行うのである。
「それでは新入生代表挨拶、木戸愛九さん」
「はい」
愛九は最前列の席から立ち上がり、ステージに移動していく。
愛九は美しかった。新調された淡麗なスーツ姿に身を包みながら、颯爽と小階段を駆け上っていく。ステージの上に上がると、中央部分の台の後ろに立つ。
「次に、同じく新入生代表挨拶、零千零血さん」
「はい」
ここで予想外の出来事。
中央キャンパスでスピーチするのは愛九が単独ではないらしい。
異様な人間が横に立っていたのだ。これまでに見たことのない人物だ。身なりが整っていないし、あまりにも大学生とは言い難い人間だ。
「……!?」
愛九は彼に乗り移ろうとした。だが出来なかった。つまり彼は能力者なのか。いいや、可能性は他にもある。例えば誰かに操作されていて、それで乗り移れない場合とか。
いずれにせよ、注目に値する人物である事は確実だ。只者ではない雰囲気を感じ取ることが出来る。
だが今はやるべきことがある。
「暖かく、やわらかい風に包まれ――」
「――春に咲く花に命が芽吹き始めました。春の訪れを感じるこの良き日に――」
「――歴史と伝統のある立命館大学に入学できることを心から嬉しく思います」
自分を含めて、同時に三人もの新入生スピーチを行う超絶技巧を披露していく。文系と理系とそして自分が入った芸術系の専攻に沿った的確な内容のスピーチであり、聴いている者を唸らせる。
「馬鹿な……」
零血は再び度肝を抜かれた。
と思いながら、ただただ愛九のスピーチを眺めることしか出来なかった。
零血は愛九の脇に立ちながら、思考を働かせていく。思考の風を吹かせて、3つのキャンパスを行き来するのだ。一体誰が犯人なのか。一体三人はどんな関係性を持っているのか。もしかしたら、この中の一人が他の二人を操作しているのか。それとも……
無限に広がっていく可能性を熟考しながら、零血はただひたすら、共通点を探しているのだ。
既に零血はある程度まで推理は立てていた。なぜなら一人の人間だけが際立ちすぎているのだ。もし犯人が居るとするならば、この人物が最も怪しい。
木戸愛九。
彼が犯人であるに違いない。
この事件の鍵を握るのは共通点である。もしこの三人の中に何かしらの。それを見つけることが出来るならば、一気に進展していくはずだ。
だがしかし零血は困惑していた。三人のスピーチを観察しているのに、全く淀みないのである。つまりこの三人は独立しているのだろうか。
「俺が間違っていた……?」
零血は小さな声で呟いた。
零血は確信にも似た推理で、誰か一人が残りの二人を操作していると、そう思っていたのだ。だからその操作主である一人を見つけようと躍起していた。
癖のような何らかの共通点を見つけることで、推理を完成させていくつもりだった。
だがしかし零血は自分の推理に自信を持てなくなっていた。
「あり得ない……あり得ない……」
大学受験でもやはり三人は独立しているという推理が最終的な結論だった。なぜなら一人の人間が同時に自分を含めて三人を操作しながら、京心大学二次試験をするなどというのは不可能であるからだ。それもなんと、三人は満点を取ったのだ。
それならば、やはりこの三人の中に犯罪者がいるという可能性が成り立つ。それならば一体誰が。いいや、もしかしたら、犯罪者でもないかもしれない。ただ能力を持ちながら、それで人生を普通として生きている。
そこで愛九のスピーチは終了した。と言っても他の2キャンパスでは未だに愛九が同時に新入生代表挨拶をまだ継続しているのだが。
愛九は丁寧なジェスチャーを持って、零血という新入生に出番を譲ったのだ。そして入れ替わるようにして、零血がスピーチを行う。
「萌え出づる春の――」
中央キャンパスが芸術志向の専攻が集まる建物群である。戯曲や映像科などの創造的な科目を学ぶことが出来るコースが主である。愛九は最優秀得点者として入学した。
西キャンパスは文系科目である。法学や外国語、経済学など多彩な専攻が勢揃いしている。愛九が操作を続ける人間はここに一人入学した。
東キャンパスは理系科目である。数学や物理、コンピューター科学などの主要な専攻から、応用科学などの発展した科目を学ぶことが出来るようになっている。さらに愛九が操作をする人間もここに一人入学。
中でも中央キャンパスが最も規模が大きく、入学者が多い。理由は様々あるのだが、京心大学では芸術系が最も評価が高く、大学側としても力を入れているというのが大きい。
入学式当日。
時刻は朝。既に中央キャンパスの入学式場では満員の状態であった。会場は熱気に包まれて喧騒を極めていく。そんな中で、愛九はただひたすら冷静さを保ち、周囲を観察していた。
「それでは――年度、京心大学の入学式を執り行います」
遂に入学式が開始した。
それから数分後に学長スピーチが終了すると、進行係の人間が式を進めていく。次はとうとう新入生代表挨拶だった。もちろん最高得点獲得者の愛九を初めてとして、4人がそのスピーチを行うのである。
「それでは新入生代表挨拶、木戸愛九さん」
「はい」
愛九は最前列の席から立ち上がり、ステージに移動していく。
愛九は美しかった。新調された淡麗なスーツ姿に身を包みながら、颯爽と小階段を駆け上っていく。ステージの上に上がると、中央部分の台の後ろに立つ。
「次に、同じく新入生代表挨拶、零千零血さん」
「はい」
ここで予想外の出来事。
中央キャンパスでスピーチするのは愛九が単独ではないらしい。
異様な人間が横に立っていたのだ。これまでに見たことのない人物だ。身なりが整っていないし、あまりにも大学生とは言い難い人間だ。
「……!?」
愛九は彼に乗り移ろうとした。だが出来なかった。つまり彼は能力者なのか。いいや、可能性は他にもある。例えば誰かに操作されていて、それで乗り移れない場合とか。
いずれにせよ、注目に値する人物である事は確実だ。只者ではない雰囲気を感じ取ることが出来る。
だが今はやるべきことがある。
「暖かく、やわらかい風に包まれ――」
「――春に咲く花に命が芽吹き始めました。春の訪れを感じるこの良き日に――」
「――歴史と伝統のある立命館大学に入学できることを心から嬉しく思います」
自分を含めて、同時に三人もの新入生スピーチを行う超絶技巧を披露していく。文系と理系とそして自分が入った芸術系の専攻に沿った的確な内容のスピーチであり、聴いている者を唸らせる。
「馬鹿な……」
零血は再び度肝を抜かれた。
と思いながら、ただただ愛九のスピーチを眺めることしか出来なかった。
零血は愛九の脇に立ちながら、思考を働かせていく。思考の風を吹かせて、3つのキャンパスを行き来するのだ。一体誰が犯人なのか。一体三人はどんな関係性を持っているのか。もしかしたら、この中の一人が他の二人を操作しているのか。それとも……
無限に広がっていく可能性を熟考しながら、零血はただひたすら、共通点を探しているのだ。
既に零血はある程度まで推理は立てていた。なぜなら一人の人間だけが際立ちすぎているのだ。もし犯人が居るとするならば、この人物が最も怪しい。
木戸愛九。
彼が犯人であるに違いない。
この事件の鍵を握るのは共通点である。もしこの三人の中に何かしらの。それを見つけることが出来るならば、一気に進展していくはずだ。
だがしかし零血は困惑していた。三人のスピーチを観察しているのに、全く淀みないのである。つまりこの三人は独立しているのだろうか。
「俺が間違っていた……?」
零血は小さな声で呟いた。
零血は確信にも似た推理で、誰か一人が残りの二人を操作していると、そう思っていたのだ。だからその操作主である一人を見つけようと躍起していた。
癖のような何らかの共通点を見つけることで、推理を完成させていくつもりだった。
だがしかし零血は自分の推理に自信を持てなくなっていた。
「あり得ない……あり得ない……」
大学受験でもやはり三人は独立しているという推理が最終的な結論だった。なぜなら一人の人間が同時に自分を含めて三人を操作しながら、京心大学二次試験をするなどというのは不可能であるからだ。それもなんと、三人は満点を取ったのだ。
それならば、やはりこの三人の中に犯罪者がいるという可能性が成り立つ。それならば一体誰が。いいや、もしかしたら、犯罪者でもないかもしれない。ただ能力を持ちながら、それで人生を普通として生きている。
そこで愛九のスピーチは終了した。と言っても他の2キャンパスでは未だに愛九が同時に新入生代表挨拶をまだ継続しているのだが。
愛九は丁寧なジェスチャーを持って、零血という新入生に出番を譲ったのだ。そして入れ替わるようにして、零血がスピーチを行う。
「萌え出づる春の――」
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