悪魔憑きファウスト

焼津ヶ袚八雲

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-1:堕胎告知

虫の知らせ

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 白髪の一匹狼は、これで3つ目になるならず者の山を眺めて溜息を零す。
 調べ事の類は部下2人に任せ、サラは裏社会の人間に実力を行使して探りを入れていた。
 反魔術団体は大抵の場合マフィアと繋がりがある。しかもマルクはそういった組織と繋がりやすい職業にある。彼と少しでも接点のある組織を探れば、その内誘拐を実行した組織も出てくるだろう。
 そういう算段でマリネにピックアップさせた組織を周っているのだが、中々これが当たりを掴めないでいた。
「キニ―ト・クラブ、主な収益源は改造銃と麻薬、そして人身売買。特筆すべき点も無い典型的なマフィア」
 資料にまとめられた情報を復唱しながら、キニ―トが根城にしていた屋敷を歩き回る。
「て、めぇ!」
 なんとか起き上がった男がなんとか銃を向けるが、引き金が動く頃には眼前までサラは移動していた。
「遅い」
 無意識に男が引き金引くのと、サラが拳を腹に突き立てるのは同時だった。
 男が倒れ伏して今度こそ意識が無くなったのを確認すると、また悪趣味な廊下を歩いて情報を探す。
「いたぞ!」
 しかしここはマフィアの本拠地、叩けど踏めど蛆のように湧いて来る。
――敵は3人、AKが2挺とAR-15系が1、左から崩していくか
 敵兵を視認と同時に分析し突破口を算出、向こうが銃声を掻き鳴らす前に走る。
 駆け出したサラにマフィア達が銃口をサラに向けるが、彼女は速度を落とさずに飾られていた陶器を掴んで投げる。
 宙を舞った陶器は真ん中の男に当たって割れると、左右にも破片を撒き散らして男達の視界を遮る。
 その隙を見逃す筈もなく、まず左の男からライフルを取り上げて腕を捻り、盾のように背後へ周って残り二名へ向けて蹴り飛ばす。
「んのッ
 男の叫びは、56式自動歩槍AK系のライフルの銃声に掻き消された。
 フルオートで発射された7.62mm弾は男達3人の頭部をミンチにして、最前にいた男など黒のジャージ全体が赤く染まっていた。
 ライフルを投げ捨て、周囲を見渡してからどうやら敵は全滅した事を確認する。
 何やら上等なスーツを着ていた人間がいた気もするが、そいつは衣服ごと火葬されているので確認は出来ない。
 死者はこの3人を入れて5人程、残りは致命傷ではなく単なる気絶で済んでいる、と思われる。
「せいぜいあの世でボランティアしな」
 聞こえていないだろう肉塊に吐き捨てて、地獄絵図の回廊を離れ上等な部屋に入る。
 お目当ての執務室は趣味の悪い調度品で四方が囲まれており、恐らくリーダー格のものだろうデスクには資金源である麻薬やのリストが並べられていた。
 デスクに出されていたリストに名前が無いのを確認すると、引き出しも漁って同じ様なリストを流し見るがやはり探している人物の名前はない。
 キニ―トはこの件とは無関係、ならば後はどうでもいいとばかりにさっさと邸宅を出た。
 深淵への切符が切られたとも知らず。


「……は?」
 後処理を赤の職員達に任せて帰ろうとした所で、マリネの負傷とティファの誘拐について事後報告された。
 サラが『ホ―テンセン氏に動きアリ』というチャットが来ていたのに気づいた頃には、もうマリネが搬送された後だったらしい。
『フランクベルト女史は意識不明、治療を行える術師は出払っており、外科手術と通常医療でなんとか命を繋いでいる状態です』
 一足先に病院へ到着していた職員からの報告を聞きながら、思わず端末を握りつぶしそうになるのを必死でこらえた。
「犯人の情報は?」
 声から低かった温度が更に失せ、そのまま刺し貫かん形相で通話を続ける。
『それが、どうやら向こうに人払いの術を使える人間がいたようで。その上原因は不明ですが、周囲の防犯カメラその他記録媒体が、犯行のタイミングで全てダウンしていたんです』
――人払い、というより認識阻害の固有魔術でも使ったのか? それなら電子機器もろとも人目を誤魔化せるか
 あくまで冷静に努めて、その場で冷静に状況を分析する。
 恐らくマルクが繋がっていた組織の刺客に当たったのだろう。反魔術組織にとっては祓魔機関の人間=魔術師などという血迷った分類がまかり通っているらしいから、実際にティファ達が魔術を使えずとも関係はない。
「てことは手掛かりゼロでマイナスに戻ったって事?」
『いえ、どうやら相手はミレミアム女史の誘拐自体にも意味を持たせていたようです』
 どういう事? それを聞く前に職員が説明してくれた。
『ミレミアム女史は携帯端末の録音ソフトを起動していたんです。その中に男の声で『君は流れに身を任せればいい』『飼い主はすぐ見つかる』と言っていたそうで』
「流れに身を、飼い主、人身売買?」
『恐らく。祓魔機関に因縁を持つ人間ならば、魔術師でなくともその身を求めるでしょう』
 他人事のように、実際半分は他人事として語る職員にも腹が立つが、それよりも利己的な判断で部下を攫い傷つけた犯人達と、そうなるような状況を作ってしまった自分に心底腹が立つ。
「一応聞くけど、増援は?」
『厳しいかと、それに魔術使用の申請がまだですが』
「だったら私の申請は省いていい。後で聞かれても私の指示って事にしていい。それと人身売買やってる組織中心に可能性のある組織をリストアップして」
 鋭い目つきを一層尖らせ、群れを得た一匹狼は姿見えぬ獲物を睨む。
「後の事はどうでもいい。全部ぶっ潰してやる……っ!」
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