悪魔憑きファウスト

焼津ヶ袚八雲

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-1:堕胎告知

12回目の

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 ギフテスライヒ。英名ギフト、和名毒国。ソロモン大陸有数の大帝国であり魔術大国。
 精霊・悪魔と呼ばれる異界の存在、あるいは古代の遺産である聖遺物の力を用いて放つ魔術という現象を支配する魔術師の国。
 そして魔術犯罪を取り締まる国際機関、メフィストフェレス、通称祓魔機関のお膝元でもある。
「隊長、ちょっといいですか?」
 サラ・モーリアックは、ティファ・ミレミアムの声に振り返る。
「何」
「お昼一緒に食べません?」
 時刻は11:03、少々早いが昼食時だ。
 サラも腕時計を一瞥してから思案する。しかしその目は、少しばかり冷ややかなもので。
「ティファ、隊長はお忙しい方ですし。何よりそういった事は好まない方ですよ?」
 ティファの同期マリネ・フランクベルトの言葉は正しい。サラの一匹狼ぶりは祓魔機関の中でも有名で、同時にかなりの男性不信でも知られる。
 同じ部隊の人間でかつ同性である2人ですら任務以外ではつっけんどんな態度を取られる。以前いたらしいナンパ者の末路など手を合わせたくなる。
「悪いけど、仕事残ってるんだ」
 そう言って、やはりサラは去ってしまった。
「あ……」
 数秒と経たず、廊下にはティファの零れた声が残るのみだった。
「だから言ったのに」
 マリネは端から断られると踏んでいたのか、ティファに哀れみの視線を向けた。
 その先にいるティファは、期待を捨てきれていなかったのか落胆が顔に出ていた。
「……」
「もっと仕事の合間に話を振るとか、もっとやり方あるでしょ?」
「だって隊長! あの人仕事の時ほとんど喋らないんだもん!」
 ティファはサラと親睦を深めたいらしい。しかしながら一匹狼サラにはどんな手段も通用しなかった。
 ウルフカットの白髪、前髪で隠れ右側のみが姿を見せる瞳は紅いルビーの様。そして冷淡で何事にも反応しないその立ち振る舞いは、同年ながらもティファや他の機関員から尊敬や恋の眼差しを向けられるのは必然と言える。
「いっそ告白したら? 正直に」
「OKしてくれると思う?」
「部隊追い出されないだけ温情って所?」
 夢見がちなティファであってもそんな事くらいは分かる。分かるのだが、どこか焦りのような感情が纏わりついて離れないのもまた事実。
「はぁ。ご飯食べ行こ」
 仕方ないとばかりにティファも溜息を零して立ち直り、昼食を取ろうとエレベーターの方へと足を向けた。
 マリネもそれ以上は何も言わず、無言で彼女の後を付いていった。
 恋が脳内に無ければ、彼女は少し乙女チックな機関員、その中でもエリートの部類に入る。
 メフィストフェレスは当人の能力によって4つの階級に分けられる。訓練生や未成年の魔術師といった非正規の人間に与えられる白、正規の機関員としては合格だが実働部隊として活躍するには実力不足と判断され、主に事務仕事や実働部隊員の援護を行う赤、そして第一線で魔術犯罪に対処する黒、の中でも屈指の実力者に与えられる青の腕章。サラもこの青の腕章を持つ。
 そしてマリネとティファの2人も、色こそ黒だが実力は青と遜色ないという評価を下す者もいる。前提として個人主義のサラが部下として後ろに立たせる言を許した時点で、2人の実力は彼女が保証人となってくれていた。
 しかし、2人には決定的に足りないものがある。
「そういやどうだったの? 聖遺物レリックの適性検査」
「……それ聞く? マリネこそどうだったのよ」
「まぁ、察して頂戴な」
 2人は魔術適正が低かった。サラのようなでも無ければ、外付けで聖遺物の力を借り受ける事も難しい。軍で例えるならば、対人格闘で満点を軽く超えるスコアを出しても銃器の扱いに対して不適正、実戦で活躍できる場面がどうしても限られてしまう。
 これは決して祓魔機関が魔術師を贔屓しているという訳ではない。機関はその職務の都合上、少数で暴動やテロ行為を平定させる必要がある。その中には大規模な武装集団や同じ魔術師と対峙する事も少なくない。魔術師とは丸腰でも民間人の鏖殺も容易く、人智の境界から半身抜け出した彼等に対処しようと思えば魔術を使えるか、最低限聖遺物を使えなければよくて雑兵にしかならない。
 その事は、実際にその扱いを受けているティファ達が最もよく分かっている。
 その扱いを受けているのは彼女らだけではない。黒い腕章を腕に通した者の半数以上が同じ思いを抱えている事だろう。
「でもだからって、悪魔と契約なんて出来ないし」
 だからだろうか。近年は機関員が法で禁じられている悪魔との契約に手を出すという事案が増えつつある。
 悪魔以外の精霊については法規制されていないが、そもそも悪魔と比べて総数が圧倒的に少なく、契約のような手段でその異能を借り受けられる訳ではない。精霊は先天的に宿しているか、一部地域で見られる物に宿る精霊に認められるかの二択を選ぶ、いや、選択の権利を持つ事が最低条件。
 その最低条件すら、彼女らには手に入れられない蓬莱の玉の枝だった。
「でも、このままでもいいんじゃない? 隊長だってその辺り分かってくれてるし」
「……うん」
 契約魔術に手を出そう、などと思った事は無いし、これからも魅了されたりはしないだろう。しかし魔術の才への、天才の領域への切符を切望せずにはいられないし、これからもその願いが果てる事はないだろう。
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