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6.暖炉
しおりを挟む「っ、はぁ」
まだ陽が昇り切っていない暗い冬の早朝、一つに結んだ美しい銀髪を揺らしながら、華奢な体付きの青年__アークは乱れた息を整えていた。
ここはメアと共に暮らしている住居の3階、アークの部屋。1人の部屋にしては中々広めであり、多少体を動かすくらいはできる。そのためアークは毎朝、筋トレをしたり体幹を鍛えたり、鉱石を使った訓練をしたりしているのだ。
「……やはりこれが限界か」
ベッドと本棚に挟まれた場所で、アークは片膝をついて座りこんだまま呟く。__今日は親友の鉱石である影鎖≪シャドーレリック≫を使い、床に手を当ててそこからどこまで細長い影を伸ばすことができるかやっていた。が、やはり前やった時と変わらずこの街を出る辺りで影が止まってしまったのだ。
身体的にもう成長は難しいということなのか、それとも鉱石の限界がここまでなのか__。そうだとしても、諦めるわけにはいかない。使い方が効率的ではない可能性もあるし、努力がまだまだ足りない可能性もある。明日からやれることをやってみよう、と考えてアークは一旦鉱石から手を離した。これ以上やると、今日の仕事に支障が出てしまうかもしれないからだ。
「……さて」
気持ちを切り替えて立ち上がった。今日はメアが楽しみにしていた暖炉をつける日で、更にメアが不安そうにしていた補佐官が来る日でもある。いつも無理はしないでと言われているが、今日は少しくらい格好をつけさせてくれてもいいだろう。
__アークは着替えを持つと、汗を流すために一階にある風呂場へと向かったのだった。
~*~
「あ、アークおはよう。今日も早いね」
やるべきことをやり終わりソファーでほっと一息ついていた時、二階から降りてきたメアが階段から顔を覗かせた。それにふっ、と笑いながら、冬にあると嬉しい“例のもの”を指差す。
「あぁ。メアが楽しみにしていた暖炉をつけないといけなかったしな」
「あっ!ほんとだついてる!」
残りの階段を駆け降りて、メアは美しい炎が揺らめいている暖炉へと向かった。煉瓦造りで少し古びているそれは、仕事で疲れた心身を癒すにはとても素晴らしいものだと言えるだろう。
「あったか~い……」
今日は早朝から雪が降り出している。そんな日の暖炉は、寒さで凍えた体をゆっくりと暖めてくれる、まるでお日様のような存在だった。
「よし!顔洗ってくる!あ、朝ご飯まだだよね?すぐ作るから待ってて!」
「あぁ。急ぎすぎるなよ」
ばたばたと朝の準備をし始めるメアに苦笑しつつ、目を通していた書類に目線を戻す。__5日前のあの帽子の男の事件以来、仕事が急激に増加した。尋問の結果、アークが捕らえたあの男から、思ったよりも良い情報が聞き出せたのだ。
それからというもの、その情報を元にあの男の上司達が活動していると思われる場所をしらみ潰しに探していた。あまり大規模に捜索すると逃げられてしまう可能性があるため、アークとメア、それに他の刑特ペアが1組、それに私服警官が10人で捜索にあたっていた__そしてやっと昨日、男の上司達に繋がりそうな者を見つけたのだ。今日はその者を“使って”、本拠地に乗り込むつもりでいる。
ちなみに、下っ端達によってばらまかれた心の鉱石は政府によって少しずつ回収されている。……が、やはり全てを回収できるわけではないし、一度バラバラに砕かれた鉱石はもう二度と元には戻らない。それに元の大きさの二分の一よりも大きくないと、鉱石は特殊な力を発揮しないのだ__例外として政府だけが持っている鉱石圧縮技術で圧縮された、刑特が使うような鉱石は力を持ったままである。ばらまかれていたような4、5ミリ程度の鉱石では特殊な力によって何か事件が起こることは考えられない。よって、これは時間をかけてどうにか回収していくということで決着がついた。
……しかし、それでもこの事件は終わらないだろう。前々からずっと刑特が追っている組織の、ほんの一部を捉えただけなのだから。
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