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守りたい気持ちに性別など関係ない!
しおりを挟むこの国の名は、アゼンナイティア。数百年前に数多の戦乱を勝ち抜いた聖騎士達が作り上げた国であり、それ故に──紳士達だけではなく、他の国とは違って、この国の淑女達にも“剣の腕”が求められていた。
作法は当然の如く身に付けるものとして、淑女に必要なのは裁縫の練習やダンスの上手い講師ではない。“剣”だ。
「まだ頑張っているのね」
「あはは! 子爵家の分際で、恥ずかしくないのかしら」
「あんな武器を使うなんてねぇ。伝統というものを知らないのかしら」
淑女達の中で定期的に行われる、お茶会代わりの剣闘会。そこで私は、“盾”を持つことを笑われていた。この国を建国した騎士達は、皆両手剣か両手槍を使っていたからだ。私の家に代々伝わる片手剣に盾という戦闘スタイルは、いつも嘲笑の的となった。
しかし、私は諦めない。
盾があれば、攻撃だけでなく防御に回せるリソースが増える。沢山の人を、あらゆる攻撃から守ってあげられる。
騎士というのは、敵を倒すんじゃない。味方を守る為にあるべきもののはずだ。戦闘力が高い者ではない、“騎士道”を貫く者こそが上に立つべきだ!
──そう、片手に剣、片手に銃を持つあの方のように。
正直に言おう。私は、この国の第一王子殿下をお慕い申し上げている。王太子はまだ決まってはいないものの、私は世間で変わり者と言われている第一王子殿下がその器に相応しいと、王になると信じているのだ。だから今、こうして早朝にも関わらず剣を振り続けている。
片手剣で防御と攻撃を繰り出しつつ、銃で敵を牽制、制圧して民を守る新時代の騎士……! 銃騎士と呼ばれるテオール様、彼に相応しい王妃に、そして彼を守れる騎士になる為に──!
「はぁっ!」
片手剣の型を、最初から全て確認していく。剣だけでなく、勿論盾もその型に合わせて動かすのだ。
この国では、王と王妃は守られる存在ではない。国の危機に、一番に駆けつけて民を守るのが使命。何故ならば、王と王妃とはいえ、それでも騎士であることには変わりはないからだ。
私は……私は。明日の、何でも願い事を一つだけ叶えて頂けるという剣武闘会を、絶対に勝ち抜いてみせる。そして誓うのだ、表彰台の上で。
──はあ、はあ、はあ。
対戦相手の首に剣を突き付けて、大きく息を吐く。
相対する女性……確か、優勝候補の公爵家の長女だったはずだ。名門と呼ばれる家なだけあって、彼女は本当に、強かった。盾がなければ、確実に大怪我を負っていただろう。真剣を使う勝負だから……下手をしたら、死んでいたかもしれない。
滝のように流れる汗が、胸当てへと滴り落ちていく。
静まり返った会場に、決着がついたという意味のゴングが鳴る。
「決勝戦、試合終了~~~~~!!! 優勝は、子爵という血統でありながらも努力を忘れなかった女!! 男爵家だけでなく伯爵家、侯爵家、公爵家の者達を悉く破ってきた~!!! 片手剣士のシスティー・ディラオール~!!!」
わあああ、という歓声と共に、私を称える声がする。やった。やった! ついに、私は……!
汗塗れ、泥塗れだが、私はそのまま表彰台に上がった。胸当てや籠手だってぼろぼろだし、薄くしてあった化粧などもう全て落ちてしまっているだろう。しかし、この国では高級品を使った厚い化粧よりも、努力の後の汗や泥が、最高に格好良い騎士の戦化粧とされている。恥じることなど、何もない。
その証拠に、周囲の人で私を貶す言葉を吐く人は、もう誰もいなかった。
「わたくし達が間違っていました……」
「貴女こそ、正真正銘の騎士ですわ……!」
「必要なのは騎士道精神、最初にそう習いましたのに……」
今までは木刀での勝負で、本気を出すことは互いになかった。でも、今回真剣を使った勝負で、心が通い合ったのかもしれない。──そう、彼女達だって、歴とした騎士なのだ。この大会に参加できていることこそが、その証明。
彼女達だって、民を救いたいがためにドレスを捨てて鎧を身に纏った。扇子を捨てて剣を持った。……その覚悟は、本物だ。
「さあ、優勝者システィー! 貴女の願いは……?!」
ごくり、と会場全員が唾を呑んだような音が聞こえた気がした。この大会で願うことといえば──大抵、叙勲を戴くか、王妃の資格を得るか、独立した爵位を得るか、そういうものだろう。しかし、私は──。
「私は、第一王子殿下──テオール・アゼンナイティア様の専属騎士になりたいです! どうか、彼に仕える栄光を、私に──!」
この大会を見学に来ていた殿下に向かって、邪魔にならないよう一つ結びにしていた氷のような色をした髪を整えてから、頭を下げて、跪いた。……今、彼の鋭い黄金の視線が、私を貫いている、気がする。
目の前に来て思った。やはり彼は、この国一番の騎士であり、王の器だ……! 黄金の髪と瞳、そして見ているだけでわかる覇気が、彼を最早王たらしめているも同然だった。彼が、彼こそが現代の“聖騎士”と呼ぶに相応しい存在なのだろう。
「何を言っている。騎士たる者、女性に我が身を守らせるなど、騎士道精神に──」
「女といえども、私は歴とした騎士です! 私にだって私なりの騎士道があります。 女騎士が、王子を守って悪いですか?!」
──それを聞いた目の前の彼は、面白そうに笑って、是と示した。
さあ、ここから始まる。私の新たな戦いが。
私はこんな強制的な願いで彼の隣に立ちたいのではない。彼に、隣にいて欲しいと彼から願ってもらうのだ。専属騎士となって彼に近づけた今、ここから先は自分の力で、彼の隣を手に入れてみせる──!
女騎士が、王子を守ったっていいだろう!
守りたい気持ちに、性別なんて関係ないのだから。
END
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