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2章. 消えた一族

13. わからない感情

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 朝、患者用の寝台の上で目を覚ます。流石にセミダブルとはいえ男二人だと狭かったし、カレルの寝台を借りてばかりだったから、今日はゆっくり休んでもらいたかったのだ。……俺は昨日のことは全て覚えているが、さてカレルはどのくらい覚えているんだろうな。
 起き上がって、寝台前の椅子、客用のソファー、テーブルの横を通り、いつもドアが開けっ放しになっているカレルの部屋へ向かう。昨日早朝前までセックスしていて、まだ10時だから起きていないかもしれないと思ったが、ブランケットを頭まで被っているのを見るに起きていそうだ。

「おはよう、カレル」
「……。……おはよう、ございます」
「あはは、声枯れてるな」
「……」

 からかうと、不満げな様子でブランケットを更に被りながら壁を向いてしまった。恥ずかしいんだろうな、きっと。

「悪かった。やりすぎたな、昨日」
「……い、え……。おれが何度も強請ったの……おぼえて……ます……」
「ふふ。気にするなよ? 前俺もカレルに抱かれて思ったし昨日抱いてても思ったが、身体の相性がいいんだろう。普通はこうはならない」
「……今までで……一番よかった、ってことですか」

 質問の意図はわからないがその通りではある為、そうだな、と返事をしながら寝台に腰掛ける。間違いなく今までのセックスの中で一番気持ちが良かった。

「……おかげで、……少しだけお腹に溜まったような気がします」
「へえ、4回も出したのに少しなんだな。どれだけ喰うんだ、ほんと」
「る、ルイス……!」
「なんだよ。4回、したよな?」

 おそらくカレルの顔があるであろう位置に口を寄せて声を掛けると、びくりとカレルの身体が跳ねた。意地悪かとは思うが、彼の身体のことを思って3回目で止めようとしたのに、強請ってきたのはカレル自身だ。余程気持ち良かったんだろうと思いつつも、そう言う俺も全然余裕がなかったんだが。

「い、嫌、でしたか」
「全然。寧ろ良すぎて困った。もうカレル以外とする気にならないくらい」
「……な、っ……」
「カレルは?」

 問いつつ、ブランケットを優しく剥ぎ取ると、真っ赤な顔をしたカレルと目が合った。蕩けたような蜂蜜色の瞳が、言わずとも全てを物語っている。

「……おれ、は……」
「うん」
「ルイスが、……いやじゃなければ。抱きたいし、……抱かれたい、です」
「そうか」

 顔を覆ってしまった彼の髪を撫でて、指先に口付けた。聞けばちゃんと素直に言ってくれるところが、とても好ましい。

「まあ、影の件でしばらく俺とセックスするのは確定だろうから、色々考えような。お互い」
「いろいろ……」
「ん、だって俺が他の人とセックスしてていいのか、カレルは。俺は貴方に割と好感があるから一応、気にするし、一緒にイかないと精力渡せないだろ? どこかで発散してくるとその分俺の体力や精神力を喰わせないといけなくなる」
「あ……。……そっか……ルイスは、他の人と……」

 カレルは何かを言いかけながら、考えるようにして目を伏せる。俺は今まで気が向きさえすればセックスの誘いは大体受けてたし、もしその辺で倒れた場合に、拾ってもらって対価として身体を要求されれば言う通りにしていた。どうしても嫌なプレイを要求された時は断ったが。

「身体から始まったから、正直俺が貴方にどういう感情を抱いているのかはよくわからない。恐らくそれはカレルもそうだろうし、互いに身体の相性が良すぎて勘違いしてる感情があるかもしれない。……でも、断言できるのは、影のことが解決したとしても貴方とまた話したりご飯を食べたりしたいなと、心から思ったよ。セックスだけじゃなくてな」
「……それは、……おれもです」
「ふふ、そうか。変なこと話して悪かった。急に話を進める気はないし……、とりあえず話はここまでな」

 眉を下げて何か色々考えているらしきカレルの頬に、手を添える。安心させるようにふわりと笑って、そのまま手を添えている頬とは逆の方にキスをした。

「……ルイスって、結構スキンシップ多いですよね」
「そうか? 自分ではよくわからない。あ、女性にはそう簡単に触らないぞ、元とはいえ騎士だからな。俺なりの騎士道だ」
「そうなんですね……。……あの、聞いていいことかどうかわからないんですが、ルイスはどうして騎士を辞めたんですか?」

 ……。第二王子の──あの人のことを話すのは、できれば避けたい。俺はアデル様のお力添えがあってこうして逃げられているが、まだあの人は俺のことを諦めたわけではないらしい。カレルに危害が及ぶ可能性を考えるなら、きっと話さない方が……なんて考えてみるものの、俺はきっとカレルに知られたくないだけなのだろう。自嘲して、カレルから目を逸らした。
 ……もう8年だぞ? いい加減諦めてくれ。気持ちが悪い。嫌だ、こんなに経っても尚、あの人は俺の中から消えてくれない。あの気持ち悪い感触と、執着するような目と、欲を孕んだ声は、一体他の人と何度セックスを重ねたら消えてくれるんだ──。

「あ、あの。無理に話さなくても」
「……。ああ。ごめんな。水持ってくる」

 急に話を切り上げると、声が枯れているカレルのために水を取りに行った。この家には珍しく、高価な浄水器があるらしいから、そこから水をコップに淹れて持って行く。診療所だから、患者の為に飲み水が必要になった時わざわざ井戸から水を汲みに行ってる暇、ないもんな。

「カレル、これ」
「あ、ありがとう、ございます」
「ん。カレル、腰立たないよな。俺が代わりに買い物に行ってくるよ。ご飯だけでいいか? 他に何か必要だったらそれも」
「う……。日用品は昨日買ってきましたし、医薬品も注文したものが最近届いたので……ご飯だけで、大丈夫です。でもルイス、まだ明日まで足、完治じゃないですからね……? 行くなら絶対に無理しないでくださいね?」

 寝台からのろのろと起き上がったカレルに微笑んで、軽く頷いてから通信機と折り畳みナイフを胸ポケットに入れる。それと財布をズボンのポケットに。顔を洗って、髪を整えてからもう一度カレルの部屋に行って、行ってくる、と声をかけて診療所を出た。

 ……さて、あの日のことを思い出したせいであまり食欲は無くなったが、とにかくカレルのご飯は買いに行くか。

~*~
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