92 / 95
番外編② (6)
しおりを挟む
「わたしとて意思のある人間です。言うことをなんでも聞く都合のいいお人形さんではありません。あなたの駒として使い潰されるくらいなら、わたしは………!!」
呆然としたまま結菜に手を伸ばした男は、何か大切なことを見失ってしまった子供のような表情をしていた。結菜はそんな様子を怪訝に思いながらも、男が数度口をぱくぱくとさせてからパタンと手を下ろしたのを見つめた。
「………私はやはり、お前にはお前に豊かな生活を提供できる男と結婚するべきだと思っている。だが、お前はもう私の意見を聞く気がないのだろう?」
「………?」
男の困ったような言葉に、結菜は眉を顰めた。
「私がお前にしてやれることは、全てやった。あとはお前の好きにしなさい」
何事もなかったかのように去っていく男を睨みながら、結菜は彼の背中が完全に消えるまで顔を顰め続けていた。
「はるくん。行こ」
「あ、うん」
少し不機嫌な結菜に呼ばれた陽翔は、慌てて結菜のそばに駆け寄った。
2人はゆっくりとした足取りで窓口へと向かう。
今日という特別な日に、結菜と陽翔は婚姻届を提出する。
「おめでとうございます」
職員さんの温かな言葉がすぅっと胸の中に蕩けて、結菜はくしゃっと笑った。
「やっと、結婚できました。………あの男から解放された………………!!」
陽翔に抱きついて小さく呟いた結菜は、ほっと安堵のため息をこぼした。
先程まではほんの少しだけ怖かった。
もしかしたらあの男によって連れ戻されてしまうかもしれないと、もしかしたらあの男によって政略結婚をさせられるかもしれないと、人知れず小さく怯えていた。
ようやく結菜は解放された。
ようやく結菜は自由になれた。
唯斗も安堵の表情を浮かべ、どっと疲れたように壁にもたれかかって立っていた。
*************************
読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈
呆然としたまま結菜に手を伸ばした男は、何か大切なことを見失ってしまった子供のような表情をしていた。結菜はそんな様子を怪訝に思いながらも、男が数度口をぱくぱくとさせてからパタンと手を下ろしたのを見つめた。
「………私はやはり、お前にはお前に豊かな生活を提供できる男と結婚するべきだと思っている。だが、お前はもう私の意見を聞く気がないのだろう?」
「………?」
男の困ったような言葉に、結菜は眉を顰めた。
「私がお前にしてやれることは、全てやった。あとはお前の好きにしなさい」
何事もなかったかのように去っていく男を睨みながら、結菜は彼の背中が完全に消えるまで顔を顰め続けていた。
「はるくん。行こ」
「あ、うん」
少し不機嫌な結菜に呼ばれた陽翔は、慌てて結菜のそばに駆け寄った。
2人はゆっくりとした足取りで窓口へと向かう。
今日という特別な日に、結菜と陽翔は婚姻届を提出する。
「おめでとうございます」
職員さんの温かな言葉がすぅっと胸の中に蕩けて、結菜はくしゃっと笑った。
「やっと、結婚できました。………あの男から解放された………………!!」
陽翔に抱きついて小さく呟いた結菜は、ほっと安堵のため息をこぼした。
先程まではほんの少しだけ怖かった。
もしかしたらあの男によって連れ戻されてしまうかもしれないと、もしかしたらあの男によって政略結婚をさせられるかもしれないと、人知れず小さく怯えていた。
ようやく結菜は解放された。
ようやく結菜は自由になれた。
唯斗も安堵の表情を浮かべ、どっと疲れたように壁にもたれかかって立っていた。
*************************
読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?
雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。
最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。
ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。
もう限界です。
探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる