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番外編② (6)
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「わたしとて意思のある人間です。言うことをなんでも聞く都合のいいお人形さんではありません。あなたの駒として使い潰されるくらいなら、わたしは………!!」
呆然としたまま結菜に手を伸ばした男は、何か大切なことを見失ってしまった子供のような表情をしていた。結菜はそんな様子を怪訝に思いながらも、男が数度口をぱくぱくとさせてからパタンと手を下ろしたのを見つめた。
「………私はやはり、お前にはお前に豊かな生活を提供できる男と結婚するべきだと思っている。だが、お前はもう私の意見を聞く気がないのだろう?」
「………?」
男の困ったような言葉に、結菜は眉を顰めた。
「私がお前にしてやれることは、全てやった。あとはお前の好きにしなさい」
何事もなかったかのように去っていく男を睨みながら、結菜は彼の背中が完全に消えるまで顔を顰め続けていた。
「はるくん。行こ」
「あ、うん」
少し不機嫌な結菜に呼ばれた陽翔は、慌てて結菜のそばに駆け寄った。
2人はゆっくりとした足取りで窓口へと向かう。
今日という特別な日に、結菜と陽翔は婚姻届を提出する。
「おめでとうございます」
職員さんの温かな言葉がすぅっと胸の中に蕩けて、結菜はくしゃっと笑った。
「やっと、結婚できました。………あの男から解放された………………!!」
陽翔に抱きついて小さく呟いた結菜は、ほっと安堵のため息をこぼした。
先程まではほんの少しだけ怖かった。
もしかしたらあの男によって連れ戻されてしまうかもしれないと、もしかしたらあの男によって政略結婚をさせられるかもしれないと、人知れず小さく怯えていた。
ようやく結菜は解放された。
ようやく結菜は自由になれた。
唯斗も安堵の表情を浮かべ、どっと疲れたように壁にもたれかかって立っていた。
*************************
読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈
呆然としたまま結菜に手を伸ばした男は、何か大切なことを見失ってしまった子供のような表情をしていた。結菜はそんな様子を怪訝に思いながらも、男が数度口をぱくぱくとさせてからパタンと手を下ろしたのを見つめた。
「………私はやはり、お前にはお前に豊かな生活を提供できる男と結婚するべきだと思っている。だが、お前はもう私の意見を聞く気がないのだろう?」
「………?」
男の困ったような言葉に、結菜は眉を顰めた。
「私がお前にしてやれることは、全てやった。あとはお前の好きにしなさい」
何事もなかったかのように去っていく男を睨みながら、結菜は彼の背中が完全に消えるまで顔を顰め続けていた。
「はるくん。行こ」
「あ、うん」
少し不機嫌な結菜に呼ばれた陽翔は、慌てて結菜のそばに駆け寄った。
2人はゆっくりとした足取りで窓口へと向かう。
今日という特別な日に、結菜と陽翔は婚姻届を提出する。
「おめでとうございます」
職員さんの温かな言葉がすぅっと胸の中に蕩けて、結菜はくしゃっと笑った。
「やっと、結婚できました。………あの男から解放された………………!!」
陽翔に抱きついて小さく呟いた結菜は、ほっと安堵のため息をこぼした。
先程まではほんの少しだけ怖かった。
もしかしたらあの男によって連れ戻されてしまうかもしれないと、もしかしたらあの男によって政略結婚をさせられるかもしれないと、人知れず小さく怯えていた。
ようやく結菜は解放された。
ようやく結菜は自由になれた。
唯斗も安堵の表情を浮かべ、どっと疲れたように壁にもたれかかって立っていた。
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