90 / 95
番外編② (4)
しおりを挟む
市役所の待合で唯斗の用意していた婚姻届に目を見開いた結菜は、けれど次の瞬間くしゃっと泣きそうに笑った。
(本当に不器用な人)
四つ葉と桜の描かれた婚姻届。
四つ葉は結菜と陽翔の揃いのピアスのデザインで、桜は結菜と唯斗が疎遠になってからも必ず行っていたお花見を表しているものだろう。
自分の名前等の情報を書き込む箇所以外は、全て既に書き込まれていた。
陽翔の几帳面でいて優しさの感じられる文字を、唯斗のチャラく見えるけれど全てにおいてお手本のような気の抜けなさが潜んでいる文字を、主治医である小鳥遊の丸みを帯びた愛らしい文字を、結菜は慈しむように撫でてから自らの流麗だと評される流れるような文字を綴る。
婚姻届の未記入箇所はあっという間に消えていく。
1つの欄が埋まるたびに、陽翔との苦労に満ちながらも幸せに満ちた生活が、唯斗に嫌われたとさびしい思いをしながら過ごした日々が、大事で大事で仕方がない宝物のような思い出が、走馬灯のように頭の中を駆け巡る。
(………わたしはもう、ひとりぼっちなんかじゃない。わたしのことを愛してくれる旦那さまが、わたしのことを誰よりも守ろうとしてくれる兄さんが、わたしとはるくんの命を救ってくれている小鳥遊先生がついている。ずっとずっとひとりだと思い込んで、焦っていた日々はもうお終いです)
ゆっくりと閉じていた瞳を開けた結菜は、大所帯で結菜たちがいる市役所の奥の方の席とは正反対の入り口にいる男に視線を向けた。
*************************
読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈
(本当に不器用な人)
四つ葉と桜の描かれた婚姻届。
四つ葉は結菜と陽翔の揃いのピアスのデザインで、桜は結菜と唯斗が疎遠になってからも必ず行っていたお花見を表しているものだろう。
自分の名前等の情報を書き込む箇所以外は、全て既に書き込まれていた。
陽翔の几帳面でいて優しさの感じられる文字を、唯斗のチャラく見えるけれど全てにおいてお手本のような気の抜けなさが潜んでいる文字を、主治医である小鳥遊の丸みを帯びた愛らしい文字を、結菜は慈しむように撫でてから自らの流麗だと評される流れるような文字を綴る。
婚姻届の未記入箇所はあっという間に消えていく。
1つの欄が埋まるたびに、陽翔との苦労に満ちながらも幸せに満ちた生活が、唯斗に嫌われたとさびしい思いをしながら過ごした日々が、大事で大事で仕方がない宝物のような思い出が、走馬灯のように頭の中を駆け巡る。
(………わたしはもう、ひとりぼっちなんかじゃない。わたしのことを愛してくれる旦那さまが、わたしのことを誰よりも守ろうとしてくれる兄さんが、わたしとはるくんの命を救ってくれている小鳥遊先生がついている。ずっとずっとひとりだと思い込んで、焦っていた日々はもうお終いです)
ゆっくりと閉じていた瞳を開けた結菜は、大所帯で結菜たちがいる市役所の奥の方の席とは正反対の入り口にいる男に視線を向けた。
*************************
読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説

忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。


あなたが居なくなった後
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの専業主婦。
まだ生後1か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。
朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。
乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。
会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願う宏樹。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……。
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

忘れられたら苦労しない
菅井群青
恋愛
結婚を考えていた彼氏に突然振られ、二年間引きずる女と同じく過去の恋に囚われている男が出会う。
似ている、私たち……
でもそれは全然違った……私なんかより彼の方が心を囚われたままだ。
別れた恋人を忘れられない女と、運命によって引き裂かれ突然亡くなった彼女の思い出の中で生きる男の物語
「……まだいいよ──会えたら……」
「え?」
あなたには忘れらない人が、いますか?──

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる