89 / 95
番外編② (3)
しおりを挟む
▫︎◇▫︎
花嫁さんの着るウエディングドレスのように美しい真っ白なレースのワンピースを着せられた結菜は、今日限定で小鳥遊のレンタルしているリムジンに揺られながら、目を白黒させていた。
(え、えぇ?)
声を上げたり表情を大きく変化させることはないものの、顔色が異常なまでに悪い陽翔を気遣いながら、結菜はずっとどうしていいかわからない状況を抱えていた。
「………綺麗だ」
挙げ句の果てには陽翔が意味の分からないことを呟くのを聞きながら、結菜は遠い瞳をした。
(これは何を聞いても何を言っても、誰も何も聞いてくれませんね)
諦め方を知っている人間が諦めの境地へと至るのは存外早い。故に、結菜はあっという間にきっぱりさっぱりすっきり諦めるということに成功した。
それから3時間、つわりによってイライラとしがちな結菜と体調不良によって何度も嘔吐する陽翔を気遣い、多くの休憩をとりながら進んだ一行は、とある農村へと到着した。
「ここは………、」
結菜はあたりを見回し、大きく首を傾げた。
「………結菜たちが住む場所からある程度遠く、それでいて自家用プロペラ機の着陸が不可能な村だ。ここなら、あの男に気づかれたとしても僅かながらに錯乱することができる」
唯斗がようやく発した言葉に目を見開いた結菜は、僅かに見えた希望に顔を一瞬輝かせたが、やがて兄の表情が固いことに気がつき、すぐに状況の良くなさを悟った。
「………この作戦の要はお前たちの体調だ。頑張ってくれよ?」
僅かに必死さを滲ませる唯斗に、結菜はこくりと唾を飲み込む。
「悪いけど、もう後戻りはできない。ごめん、ゆな。勝手な行動をとって」
陽翔に後ろから抱きつかれた結菜は、彼の声が震え、心臓の脈が早鐘を打っていることに気づく。
「………来てしまったものは仕方がありません。早く婚姻届を提出し、………………逃亡作戦に移りましょう。兄さん、守備はいかほどですか?」
一瞬にして周囲を才女と言わしめた表情になった結菜に、唯斗はあっけに取られたあと、落ち着いて返事をする。
「………すまんがあと10分だ」
「………………馬鹿ですか?」
「まあまあ落ち着いて。唯斗くんだけが悪いのではなくて、君たちの体調を測り損ねた僕にも責任があるわけなんだから」
「………………ひとまず動きましょう」
キッパリと言った結菜は顔色が悪いながらも、しっかりと1人で立てるぐらいにまでは復活した陽翔と手を繋ぎ、唯斗に案内されながら市役所へと向かう。
*************************
読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈
花嫁さんの着るウエディングドレスのように美しい真っ白なレースのワンピースを着せられた結菜は、今日限定で小鳥遊のレンタルしているリムジンに揺られながら、目を白黒させていた。
(え、えぇ?)
声を上げたり表情を大きく変化させることはないものの、顔色が異常なまでに悪い陽翔を気遣いながら、結菜はずっとどうしていいかわからない状況を抱えていた。
「………綺麗だ」
挙げ句の果てには陽翔が意味の分からないことを呟くのを聞きながら、結菜は遠い瞳をした。
(これは何を聞いても何を言っても、誰も何も聞いてくれませんね)
諦め方を知っている人間が諦めの境地へと至るのは存外早い。故に、結菜はあっという間にきっぱりさっぱりすっきり諦めるということに成功した。
それから3時間、つわりによってイライラとしがちな結菜と体調不良によって何度も嘔吐する陽翔を気遣い、多くの休憩をとりながら進んだ一行は、とある農村へと到着した。
「ここは………、」
結菜はあたりを見回し、大きく首を傾げた。
「………結菜たちが住む場所からある程度遠く、それでいて自家用プロペラ機の着陸が不可能な村だ。ここなら、あの男に気づかれたとしても僅かながらに錯乱することができる」
唯斗がようやく発した言葉に目を見開いた結菜は、僅かに見えた希望に顔を一瞬輝かせたが、やがて兄の表情が固いことに気がつき、すぐに状況の良くなさを悟った。
「………この作戦の要はお前たちの体調だ。頑張ってくれよ?」
僅かに必死さを滲ませる唯斗に、結菜はこくりと唾を飲み込む。
「悪いけど、もう後戻りはできない。ごめん、ゆな。勝手な行動をとって」
陽翔に後ろから抱きつかれた結菜は、彼の声が震え、心臓の脈が早鐘を打っていることに気づく。
「………来てしまったものは仕方がありません。早く婚姻届を提出し、………………逃亡作戦に移りましょう。兄さん、守備はいかほどですか?」
一瞬にして周囲を才女と言わしめた表情になった結菜に、唯斗はあっけに取られたあと、落ち着いて返事をする。
「………すまんがあと10分だ」
「………………馬鹿ですか?」
「まあまあ落ち着いて。唯斗くんだけが悪いのではなくて、君たちの体調を測り損ねた僕にも責任があるわけなんだから」
「………………ひとまず動きましょう」
キッパリと言った結菜は顔色が悪いながらも、しっかりと1人で立てるぐらいにまでは復活した陽翔と手を繋ぎ、唯斗に案内されながら市役所へと向かう。
*************************
読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?
雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。
最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。
ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。
もう限界です。
探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。
ずっと隣にいます
三条 よもぎ
恋愛
「あんたなんか次の繋ぎなだけだよ」
高校生になって初めて出来た彼氏に振られた千景が体育館裏で落ち込んでいると、1歳年下の侑人に話し掛けられる。
「僕と付き合ってください。僕ならあなたを泣かせない」
しかし、ある事情からその言葉を信じられず、告白を断る。
ただそれから侑人のことが気になり始めた千景がある日、窓から隣の家を見ると侑人と目が合った。
運命かもと浮かれていた千景であったが、やがて風邪で学校を休んだ時に教えていない侑人から差し入れが届く。
疑問に思った千景が直接侑人に尋ねると……。
失恋して傷付いた女子高生が、隣の家に住む幼馴染みからの愛情にようやく気付く物語です。
本編全8話、完結しました。
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
自信家CEOは花嫁を略奪する
朝陽ゆりね
恋愛
「あなたとは、一夜限りの関係です」
そのはずだったのに、
そう言ったはずなのに――
私には婚約者がいて、あなたと交際することはできない。
それにあなたは特定の女とはつきあわないのでしょ?
だったら、なぜ?
お願いだからもうかまわないで――
松坂和眞は特定の相手とは交際しないと宣言し、言い寄る女と一時を愉しむ男だ。
だが、経営者としての手腕は世間に広く知られている。
璃桜はそんな和眞に憧れて入社したが、親からもらった自由な時間は3年だった。
そしてその期間が来てしまった。
半年後、親が決めた相手と結婚する。
退職する前日、和眞を誘惑する決意をし、成功するが――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる