完 1週間だけ、わたしの彼氏になっていただけませんか? (番外編更新済み!!)

水鳥楓椛

文字の大きさ
上 下
83 / 95

番外編① (5)

しおりを挟む
「………ご機嫌よう、小鳥遊たかなし先生」
「こんにちは、結菜さん。安心してって言っても無駄だろうけど、まあひとまず落ち着いて。僕は陽翔くんの主治医で、彼の診察に来ただけだから」

 彼がハンドルを握っている荷車に大量の医療器具があるのを発見した結菜は、唯斗と陽翔が頷くのを見て、僅かに肩の力を抜いた。

「………よろしくお願いいたします」

 陽翔の横から少しずれ、長身でいつも優しい表情を浮かべている小児科医兼内科医の小鳥遊たかなし瑠衣るいに場所を譲った。
 テキパキと節のはっきりとした大きな手を動かす彼は、まるで1つの美しい芸術品を作り出すかのように医療行為を進めていく。

(さすがはあの病院長すらも実力を認め、信頼を寄せているお医者さまです)

 心電図と点滴をつけられた陽翔は僅かに不服そうにしながらも、なされるがまま身体の力を抜いて大人しく治療を受けていた。

 ほっと結菜の心に余裕が現れ、一滴の安心が荒れ狂っていた心を凪いでくれた。
 本当はずっとずっと不安だった。
 よぼよぼで立つことさえも難しい町医者はボケていてまともな診察をしてはくれなかった。そもそも、世界中でも珍しい症例である陽翔の病気は優秀な医者でも見つけるのは困難を極めることになるだろう。

「はい、終了。ちょうど今朝アメリカから新薬が届いたから、使ってみてね。効能は結構な数の検証を行なっているから、素晴らしいほどのお墨付き。でも一応、経過観察は取っておいてね。結菜さん、やり方わかるよね?」
「問題ありません」

 陽翔のひんやりとした手を握りしめた結菜は、深々と頭を下げる。

「本当に、ありがとうございました」

 頭上から苦笑する声が聞こえて、同時に頭を上げるように促される。

「僕は医者として当然のことをしたまでだよ。医者は人の命を助けるために存在する生き物なのだから。それに、1度見た患者は最期まで責任を持つっていうのは常識だしな」

 にっこりと笑って小鳥遊は言うが、結菜は知っている。
 そこまで真摯になって患者と向き合う医者はあまり多くないということを。

「じゃあ、僕は車で待っておくから、兄妹で少しお話しするといいよ。またね、結菜さん、陽翔くん」
「ありがとうございました」

 ぐったりといつのまにか眠ってしまった陽翔に変わり頭を下げた結菜は、少し困った微笑みを浮かべて唯斗に視線を向ける。

*************************

読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

【完結】お姉様の婚約者

七瀬菜々
恋愛
 姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。  残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。    サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。  誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。  けれど私の心は晴れやかだった。  だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。  ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

処理中です...