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68 初めてのアイスクリーム屋さん

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 当てどなくふわふわと彼に連れられてウィンドウショッピングを楽しんでいると、彼がある店の前で立ち止まった。

「そろそろ腹ごなしも終了か」
「?」
「食後のデザートの時間だ」

 ほんの少しイタズラっぽい声音を出した彼に、結菜は首を傾げる。

「このお店、ですか?」

 見るからに多くの人が並んでいるアイスクリーム屋さんに、初はぱちぱちと瞬きをする。なんというか、初が行ったことのない分類すぎて憧れどころか怖気付いてしまう。

「ははっ、意外。お前こういうの怖いの?」
「………何か悪いですか?」

 片耳につけたピアスを撫でるようにして耳を触り、結菜はくちびるを尖らせる。

「わたしはこれでも箱入り娘ですし、いいところのご令嬢ですので、お店で並ぶなんてしたことありませんもの」
「じゃあいい経験だな」
「………そう、でしょうか?」
「こういうのは並んでる時間が1番楽しいんだよ」
「はるくんがそう言うのだったら、騙されてあげます」

 結菜は不安そうな顔を隠すようにぷいっとそっぽを向いて、彼にぴとっとくっつくようにして列の最後尾に加わる。

「はははっ、だろ?俺、ここの店好きなんだぁ」
「えぇー、いがぁ~い!唯斗くんにはもぉっと高級なお店が似合うと思うなぁ!」
「ん?当たり前だろ?だって俺の家金持ちだもん」

 列の後ろから嫌な声が聞こえて、結菜の身体はびくりと反応してしまった。

(にい、さん………、)

 振り返らなくてもちゃんと分かる。顔も見たくないし、関わりたくない兄の双葉唯斗がいると。

「はははっ、相変わらず唯斗くんってお馬鹿の“演技”じょーずだよね~」
「え~そんなことないよ~。俺本当にバカだし」

 今までに聞いたことのないような甘ったるい声に、背筋がゾゾっと泡立つ。結菜を心配するかのように結菜の手を強く握り込んでくれる陽翔に甘えながら、初はぎゅっと目を瞑る。なんだかルーズソックスが心許ない気がする。彼の冷たい手を握りしめて、結菜は時が早く過ぎるように祈る。ぎゅっと目を瞑っているからだろうか、なんだか彼の手がふわふわと不安定に揺れている気がする。

「ーーーごめん、ゆな」

 耳元に声が響いた次の瞬間、陽翔の身体が床に向けて顔面からふわっと浮く。咄嗟に彼のお腹に手を回すけれど、結菜の力では支えきれず、体制が崩れてしまう。

 ーーーどさっ、

 あっけない音と共に彼の身体は床に崩れ、結菜は呆然と床に座り込む。

「はる、くん………?」

 結菜は目の前で起こったことを、理解できなかった。
 初めてのアイスクリーム屋さんは、食する機会もなく、目の前で脆くあっけなく崩れ去っていった。

*************************

読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈

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