上 下
66 / 95

67 初めて付けてあげたピアス

しおりを挟む
 耳の痛みは引くことをそらないらしく、ジンジンとした痛みは全く治らない。そんな結菜を見た彼は食料品売り場というところで氷を買ってきてくれて、結菜の耳を冷やした。ひんやりとした心地のいい冷気に耳と身体を預けていると。彼はピアスの箱を取り出した。綺麗なファーの箱から見るに、あのピアスはやはりお店の中でも一等に高い品物の分類であるらしい。

「こういう時間って心地いいけど勿体無いし、開けちゃおう」

 ほんのちょっぴりだけ浮かれたような声を上げる陽翔に、結菜はくちびるを緩めた。

「そうですね」

 結菜は自分の買った分を開け、中のピアスを覗き込む。横では彼も彼が買った分のピアスの箱を開けて中身の美しさに吐息をこぼしていた。きらきらと存在感たっぷりに輝くピアスはとっても可愛いのにお上品で、結菜から見ても素敵な一品だった。

「じゃあ、つける?」
「はい」

 彼が耳に当てていた氷をとって悴んだ耳にピアスをはめる。耳に感覚がなくなっているためにどうなっているかよく分からないが、多分可愛くついているだろう。

「ん」

 結菜の耳から満足げに手をどかして結菜のことをまじまじと見つめた彼は、その後銀のイヤカーフピアスを退けて結菜に無防備に耳を差し出した。

(これはつけろという解釈であっているのでしょうか)

 恐々とピアスを持ち上げ、彼の耳に当ててぷすっと穴の中にピアスの針を埋める。留め具をはめるのに彼の5倍以上の時間をかけながら、結菜はようやくピアスをはめることができた。

「で、でき、ました」

 さわさわと自分の耳に確認するかのように触れた彼は、満足するかのように頷き、ふわっと微笑んだ。

「ん、上出来」

 わしゃわしゃと頭を撫でられると心がぽかぽかする。
 結菜は今この瞬間、とってもだらしない表情をしているだろう。

「じゃあ、そろそろ動くか。耳は平気か?」
「はい。大丈夫です」

 本当はほんの少し痛いけれど、わんわん喚かなければならないほど痛いわけではない。その痛みすらも愛おしいとなんだか重傷気味なことを思った結菜は苦笑しながら彼に引っ張られて立ち上がる。ピアスにさっとチェーンを付けて首にかける彼の姿を横目に見つめながら、結菜は何故かその姿に既視感を覚えていた。

「ーーな、ゆな。ほら、行くぞ」

 どうやらまた白昼夢の中に飛び立ちかけていたらしい。結菜は苦笑してから彼に連れられるままにベンチから立ち去った。
 初めて彼に付けてあげたピアスは、今も彼の耳で輝いている。

*************************

読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

睡蓮

樫野 珠代
恋愛
入社して3か月、いきなり異動を命じられたなぎさ。 そこにいたのは、出来れば会いたくなかった、会うなんて二度とないはずだった人。 どうしてこんな形の再会なの?

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

長い片思い

詩織
恋愛
大好きな上司が結婚。 もう私の想いは届かない。 だから私は…

振られた私

詩織
恋愛
告白をして振られた。 そして再会。 毎日が気まづい。

自信家CEOは花嫁を略奪する

朝陽ゆりね
恋愛
「あなたとは、一夜限りの関係です」 そのはずだったのに、 そう言ったはずなのに―― 私には婚約者がいて、あなたと交際することはできない。 それにあなたは特定の女とはつきあわないのでしょ? だったら、なぜ? お願いだからもうかまわないで―― 松坂和眞は特定の相手とは交際しないと宣言し、言い寄る女と一時を愉しむ男だ。 だが、経営者としての手腕は世間に広く知られている。 璃桜はそんな和眞に憧れて入社したが、親からもらった自由な時間は3年だった。 そしてその期間が来てしまった。 半年後、親が決めた相手と結婚する。 退職する前日、和眞を誘惑する決意をし、成功するが――

【完結】お世話になりました

こな
恋愛
わたしがいなくなっても、きっとあなたは気付きもしないでしょう。 ✴︎書き上げ済み。 お話が合わない場合は静かに閉じてください。

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈 
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

処理中です...