65 / 95
66 初めてのピアス
しおりを挟む
「そろそろ時間か………、1度ピアスを取りに戻るぞ」
「はい」
彼に言われるがままに頷いて立ち上がった結菜は、鞄を持ってきた道を戻る。ウィンドウショッピングというものをしているような心地でお店の入り口に飾ってあるマネキンが身につけたお洋服やショーケースに飾られたカバン、アクセサリーを眺めながら歩くのは思っていたよりもずっとずっと楽しいものだった。そんな結菜の心境に気がついてか否か、彼の歩みはとても遅い。だからこそ、結菜は何も気にすることなくウィンドウショッピングを楽しめる。
「………、」
「?」
何か口を開きかけた彼に、結菜は首を傾げる。
「なんでもない」
彼と共に静かに歩いて、そして店の前まで戻ってきた。
「お待ちしておりました」
朗らかに迎えられた結菜と陽翔はピアスを受け取って早々に店を出る。
「あ、やべ………、忘れ物した。………ちょっと待ってて」
結菜はこくんと頷いて彼が戻ってくるのを、ピアスを買った宝石店よりも少し先のお店の前で待っておく。
時間にして数分だろうか。彼は慌てた様子で戻ってきた。
「忘れ物、ちゃんとありましたか?」
「あぁ。問題なかった」
結菜は彼の言葉にほっと息をついて、穏やかに微笑む。
「じゃあ、ピアスの穴あけを買いに………、」
「安全ピンで十分です」
「え、」
「………開けたという実感が欲しいので、安全ピンではるくんが開けてください」
結菜は近くにある手芸屋さんに彼を引き連れて入り、安全ピンを購入した。あまりの言葉に絶句してなされるがままになっていた陽翔も、安全ピンを無事に購入し終えたくらいにはだいぶ正常に戻っていて、オロオロとしてしまう。
「消毒液は常備していますので、遠慮なくブスッとお願いします」
結菜はまっすぐと彼を見据えていつもの微笑みを浮かべずに真剣な表情でねだる。
結菜の本気を感じ取ったのだろうか。彼は諦めたようにため息をついた。
近くにあった休む用のベンチに腰掛けて、彼は安全ピンと消毒液を受け取った。
「すぐ終わらせるからなんか他のこと考えてろ」
「っ、!?!?」
彼に預けた右耳にびっくりするぐらいの痛みが走って、結菜はとっさに身体を動かしかけて、けれどじっと我慢をした。じんわりと熱を持った耳から血が溢れる感覚がある。
初めてのピアスは、大人の苦い痛みを結菜の耳に刻みつけた。
*************************
読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈
「はい」
彼に言われるがままに頷いて立ち上がった結菜は、鞄を持ってきた道を戻る。ウィンドウショッピングというものをしているような心地でお店の入り口に飾ってあるマネキンが身につけたお洋服やショーケースに飾られたカバン、アクセサリーを眺めながら歩くのは思っていたよりもずっとずっと楽しいものだった。そんな結菜の心境に気がついてか否か、彼の歩みはとても遅い。だからこそ、結菜は何も気にすることなくウィンドウショッピングを楽しめる。
「………、」
「?」
何か口を開きかけた彼に、結菜は首を傾げる。
「なんでもない」
彼と共に静かに歩いて、そして店の前まで戻ってきた。
「お待ちしておりました」
朗らかに迎えられた結菜と陽翔はピアスを受け取って早々に店を出る。
「あ、やべ………、忘れ物した。………ちょっと待ってて」
結菜はこくんと頷いて彼が戻ってくるのを、ピアスを買った宝石店よりも少し先のお店の前で待っておく。
時間にして数分だろうか。彼は慌てた様子で戻ってきた。
「忘れ物、ちゃんとありましたか?」
「あぁ。問題なかった」
結菜は彼の言葉にほっと息をついて、穏やかに微笑む。
「じゃあ、ピアスの穴あけを買いに………、」
「安全ピンで十分です」
「え、」
「………開けたという実感が欲しいので、安全ピンではるくんが開けてください」
結菜は近くにある手芸屋さんに彼を引き連れて入り、安全ピンを購入した。あまりの言葉に絶句してなされるがままになっていた陽翔も、安全ピンを無事に購入し終えたくらいにはだいぶ正常に戻っていて、オロオロとしてしまう。
「消毒液は常備していますので、遠慮なくブスッとお願いします」
結菜はまっすぐと彼を見据えていつもの微笑みを浮かべずに真剣な表情でねだる。
結菜の本気を感じ取ったのだろうか。彼は諦めたようにため息をついた。
近くにあった休む用のベンチに腰掛けて、彼は安全ピンと消毒液を受け取った。
「すぐ終わらせるからなんか他のこと考えてろ」
「っ、!?!?」
彼に預けた右耳にびっくりするぐらいの痛みが走って、結菜はとっさに身体を動かしかけて、けれどじっと我慢をした。じんわりと熱を持った耳から血が溢れる感覚がある。
初めてのピアスは、大人の苦い痛みを結菜の耳に刻みつけた。
*************************
読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
2番目の1番【完】
綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。
騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。
それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。
王女様には私は勝てない。
結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。
※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです
自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。
批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
私と彼の恋愛攻防戦
真麻一花
恋愛
大好きな彼に告白し続けて一ヶ月。
「好きです」「だが断る」相変わらず彼は素っ気ない。
でもめげない。嫌われてはいないと思っていたから。
だから鬱陶しいと邪険にされても気にせずアタックし続けた。
彼がほんとに私の事が嫌いだったと知るまでは……。嫌われていないなんて言うのは私の思い込みでしかなかった。
地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!
めーぷる
恋愛
見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。
秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。
呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――
地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。
ちょっとだけ三角関係もあるかも?
・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。
・毎日11時に投稿予定です。
・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。
・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる